第20話 弟とバトル二人で遊ぶ
ただいまあ。
僕は気楽な気持ちでダンジョンから人間の姿でラクーン808に帰還した。
そんな僕をみた一匹の狸。
「にんげんだああああああああ」
いきなり叫んだ。
ちょ。待って。僕、狸! と言っても止まらない。
一匹の狸の悲鳴を皮切りに、ラクーン808は、狸の悲鳴に包まれた。
ほんと、ちょっと待って。蟻がきたみたいな対応とられたんですが。これなに?
え? たかが人間でしょ? しかも一人。鳳が飛来したみたいなパターンじゃないから、大丈夫かと思って変化した姿のままで帰還してみたんだけれど、あれ? ダメでした?
うーん。
まあ、反応を見る限り、ダメ、なんだろうねえ。
いやあ、失敗失敗。
こうなっては仕方がないので己の行動を反省していると、
「グアアアアオ!!!」
あ、いつものように虎のおやじ登場。
うん、デジャブ。
僕の前を右往左往として威嚇してるその姿。鳳で帰ってきた時と同じです。
吠えるだけで、結局なにもしないのよねえ。
どうしよう? 正体バラす? でもそれじゃあつまんないんだよなあ。一回くらいは虎の姿のオヤジと勝負して見たいからなあ。
ようし。
「は、化け狸風情の雑魚が。虎になってもその尻尾が狸のままだぜ。威嚇ばっかしてないで、さっさとかかってこいよ! 臆病者が!」
そんな挑発の言葉とともに、手のひらを天に向けてから、くいっとやってかかってこいやスタンス。
「な! 狸の言葉を話すか! 人間!」
「当たり前だろうがよう! 今から侵略する土地の言葉くらいは覚えてて当たり前だぜ!」
ま、普通はそんな事はしないんですがね。シンプルに僕が狸だからしゃべれるだけですよう。
「し、侵略だとう! なぜ!?」
「なぜ、って……?」
なぜだろう? あれ? なぜだろう?
ま、良いか。とりあえず意味深に笑っとけばいけるだろ。
フッ。
「グオオ! 答える気はないという事かあ!!」
よし行けたぜ。はい、チョロい。
さてと、これで勝負が始まるかなあ?
と考えながら、虎おやじを眺めていると、森の奥から遠吠えが響いた。
え? と、そちらを見ると、そこには数頭の狼が並んでいた。
ラクーン808に狼? なんで?
と首を傾げていると、狼が狸の言葉でおやじに話しかけている。
「おやじ、ここは俺に任せてはくれんかあ?」
「おう、リキマルか」
リキマル? ってあのリキマルか!? 弟の?
狼の姿になっているという事はいつの間にか化け狸になったってこと?
えー、キンタ大きくなっても良いってことお? よくないと思うよ。後でキンタ大きくしない方法を教えてあげなきゃなあ。
なんて益体もない事を僕が考えている間にも親子の話は進んでいる。
「大丈夫か? 人間は狡猾だと聞くぞ。しかも単身で坩堝の森をここまで来られるだけの人間じゃあ」
「ああ、大丈夫だ。俺も一人でかかるわけじゃねえからな」
一人じゃない?
「派閥の奴らか」
「おう、お前らこいやあ! 餓狼陣を組めえ!」
リキマルの掛け声に合わせて五頭ほどの狼が森から姿を現した。
お、すごい。一糸乱れぬ陣形。
狸じゃないみたい。
さて、相手はおやじからリキマルに変わっちゃったみたいだけども、そろそろ良いかな?
「おう、馬鹿狸ども、準備は良いか? かかってくんのは虎か? 狼か? 俺は両方でも良いんだぜ?」
「黙れ! 小僧! 我ら狸狼部隊がお前のその顎を食いちぎって二度と喋れないようにしてやるわ!」
……狸狼部隊だってえ。
なんかそういうの前世思い出してやだなあ。
狸らしくない。好きじゃないなあ。
「やれんだったら、能書き書いてないでさ、さっさとかかってこいよ」
「愚か者め! 後悔するがいい!」
ガオウとした雄叫びと共に、中央のリキマルらしき個体がまず飛びかかってきた。
他の狸は来ないのか?
ふむ。ならば、可愛い弟に、お兄ちゃん特別サービス。
今回は魔法やスキルを使わずに体術だけで稽古をつけてあげましょう。
久しぶりでまだ慣れない人間の体でやりすぎると、リキマルが死んじゃうかもしれないしねえ。
そんな思考の合間にも、リキマルは宙を舞い、大口を開けて僕に噛み付かんと飛びかかってきています。
どうしますか?
簡単です。
右足を引いて、体を半身にし、リキマルの牙を避けます。
そうすると飛びかかってきたリキマルの体は宙に浮いていますから、方向転換や攻撃の変更などができなくなります。こういった理由から飛びかかる攻撃は地上生物の攻撃としては悪手です。必ず避けられた時の二次策などを用意してからにしましょう。
さて、ただ避けるだけでは能がないので、僕はリキマルの頭の上に右手を置きます。
そしてリキマルの飛びかかってきた力の方向を少しだけ変えてあげます。
そうするとあら不思議。
くるり狼大回転。
空いた腹へと左手を添えて。
そのまま背中から地面へと叩きつけます。
自重と敵を屠るために地面を蹴った力が、そのまま地面に落下した背中へとダイレクトアタック。
大ダメージ!
「キャウンン」
はいノックアウト。
変化がとけてリキマルはお腹を見せて地面に伸びております。
あら可愛い。
僕はそのまま周辺の狸狼部隊とやらを睨みつける。
おう。
全員の変化がとけて、尻尾が丸まってるやつやら、腹を見せて降参してるやつやら、泡吹いて気絶してるやつやら。うん、実に狸らしいね。
そろそろ良いかな?
わりと人間の体の使い方もしっくりきたし。人間になったのもだいぶ久しぶりだけど、うまい事使えるもんだねえ。体の使い方はそうそう忘れないもんなのかねえ。
「よし」
僕は体を軽く伸ばす。
「な、何がよしなんじゃあ! まだ俺が残っとるぞう! かかってこんかい!」
そんな僕の独り言におやじが反応する。
うん、おやじ……足がプルプルしてるって。
気絶しなかったのはさすがだけど。それじゃあ戦えないよう。
「ごめんごめん、僕だよう」
そう言って謝りながら、僕は変化を解いた。
ボフンと煙がたって、その中から可愛い狸のリントくんが登場。
ふふふ。リントの帰還だよ。
歓声で迎えていいよ。
「また……」
「ん? なに?」
おやじの小さな呟きへ、僕は問い返す。
「「「また!!! お前かああああああい!!!」」」
それに返ってきたのは、もちろん僕の帰還を迎える歓声なんかじゃなくて、ラクーン808の狸たちの怒りの声だった。
ごめんね。
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