第9話 鳳さんに偶然もらった制空権
僕は偶然出会った死にかけの
空を飛んでいる。
正直逃げたいけど。
僕の性分がそれを許さない。
めんどくさい性分だと思うけれど仕方ない。死に際の願いってのを無視できない性分なんだ。
とはいえ。
今回はネガティブな事ばかりじゃないのだあ。
なにせ僕はいま空を飛んでいる。
狸、空を飛ぶだ。
まあ、実際は狸の姿ではないけれどうも。
死んだ鳳さんの言っていたようにこの姿になると飛ぶという事が簡単に理解できた。
息をする。心臓を動かす。そういった不随意に近い動作。
羽を開き、羽ばたかせると、自然に羽が風をつかみ、少し上にある風を押し退けて、その代わりに自分の体が空へと移動する。
まるで空気と身体を入れ替えるように。
宙に舞い空を駆ける事ができた。
快感だあ。
狸の身では味わう事のできない疾走感、天高い視点、澄んだ空気。
全てに夢中、サイコー。
そうやって飛んでいれば当然、あっという間に目的地である鳳の巣に着いてしまう。
「あそこが
ちょっと名残惜しいなあ。
そう感じるほどに初めてのフライトは実に快適だった。
だってさあ!
大きくなった気持ちにあわせてゆったりと
なんて万能感だろう。
これなら鳳の巣に入っても負ける気がしないや。
あれ?
もしかして。
僕って、ワンチャン、鳳として暮らしてまかり間違って鳳の王である
もしかして、しちゃうんじゃなあい?
いや! できない訳がないのだ!
よっしゃ! じゃあやったろう!
そんな気分で意気揚々と目の前に見える早贄尖塔へと舞い降りる。
僕が統べるべき
◇
「ああん! ごべんなざあい」
意気揚々。
そんな気持ちは一瞬で砕かれました。
狸風情が調子乗ってごべんなざい。初めての変身で変にハイになってましたあ。もうね、巣に入ったらすぐですよ。秒で鳳じゃないって見破られました。しかも僕に頼み事した鳳が群れの王である
その場でなんだか偉そうで意地の悪そうな鳳に殺されそうになったけど、間一髪なんだか気高そうな鳳が僕を殺すなと命令してくれてすんでの所で命を繋げました。
感謝しかない。
心から反省して、狸の姿になった僕は、なんだか立派な部屋に連れて行かれ、現在は大勢の鳳に囲まれています。みんな怒りまくって狸など一飲みに喰ってしまえだとか乱暴極まりない発言が多いですねえ。鳳に変身したせいか、鳳の言葉がわかるようになったのが逆に恐怖ですわ。何喋ってるか分からなければ脳内で優しい世界のアフレコをしとくのになあ。
こんなふうに。
「狸が王の姿になって飛ぶなど不敬!」
(もふもふしてて可愛いねえ)
「我ら鳳を空の支配者と知っての狼藉か!」
(一緒に空を飛んであげたら喜ぶかなあ?)
「短足で地を這うだけの小鳥の餌風情が!」
(短いあんよもいいんだよねえ)
「早贄尖塔に刺して熟成させてから子供たちに喰わせてやれえ!」
(可愛すぎるからブッ刺して食ってやんよ)
無理無理限界! アフレコも物騒になるよ。
それにしてもやっばあ。もうこれ僕喰われるの確定でわ?
鳳の嘘つきい。やっぱり喰われるんじゃないかあ。やだあ。
抵抗したって仕方ないと判断して、今は狸の姿になって平伏していますが、これでは足りないと僕は考えますよう。やっぱりここは『狸隠神流忍術 五体投地』が必要でしょう。
うんうん。そうだろうね。じゃあやるよ。
これは印を結ぶまでもないから余裕だね。口で忍術を唱えます。
『狸隠神流忍術 五体投地』
えいや!
掛け声と共に、のびーんともふもふの身体を地面に伸ばします。
短い手足も精一杯のびーんとします。
完成! 狸の敷物!
ほらどうですか? 鳳の皆さん? 可愛いでしょう? もふもふですよ。最大限に反省した狸ですよう?
許して解放したくなったでしょう? 軽くならモフってもいいですよ……って。
あれ?
様子がおかしいな。
皆さん、嘴をカチカチ鳴らして、どうしました?
これは喜び……ではなさそう……ああ……これ、は……威嚇ですか?
「狸風情がああああ! 鳳王の間で穢らわしい毛皮を広げるでないわあああああ!」
「ぷぷ。穢らわしい毛皮だって。誰がうまいこと……ってうわああああ」
怒りながらもウマい事言ってる鳳さんにコメントしてしまったら途中でつままれて壁に投げつけられてしまった。壁に当たる寸前にクルッと身体を丸めてもふもふで衝撃を吸収してから地面にスタッと着地。
居並ぶ鳳さん。明らか怒る皆さん。
どうしよう。
ふざけてごめんなさいかな?
「あっと……ふ」ざけてごめんなさい。って続きの言葉はかき消されました。のびーん。
「王子よ! だからこんな狸は問答無用で殺すべきだと申しております!」
はじめに僕を問答無用で殺そうとした性格の悪そうな鳳が言う。
もー、お願いだから喋らせてえ。ごめんなさいくらいはさせてえ。
「カーク! 朕は殺すなと言っておる!」
優しい鳳さんがかばってくれる。
さんきゅう。
「しかし! 鳳王の姿を剽窃した
荒ぶるカークさんとやらに、朕と名乗った気高く優しい鳳は、小さくため息をついて姿勢を正した。
「カーク」
それは静かな言葉。
しかしそこには絶大な風の魔力がこもっている。まるで部屋中の風を押し退けんばかりの圧力。
僕は風魔法使えるようになっているからこっそりとガードしてるから快適ですが、他の鳳さんは苦しそう。特にカークさんって怖い鳳はもう大ピンチ。
「が、がが」
さっきまで饒舌だった嘴は全く動きませんねえ。ざまあ。
「鳳雛である朕の言葉。二度言わせるな」
「は……は」
あらまあ、カークさんは完全に喋れなくなっちゃったのかなあ。
状況を見るに、どうやら鳳雛と名乗っているあの鳳さんが群れの跡取りなのかな?
てことはこの鳳さんが死んだ鳳さんの言ってた息子かな?
じゃあ死んだ鳳さんの羽はこの鳳に渡せばいいのかなあ?
判断に迷っていると。
ふ、と気づく。
あれ? 静かじゃない?
鳳雛さんとやらの一言で内輪揉めは解決され、いつの間にかシンと静まった室内。
さっきまで血気盛んだった他の鳳は、鳳雛さんに首を下げて嘴をつぐんでいる。
んーと、これなに待ち?
確認するようにチラッと鳳雛さんを見ると視線が合った。
と、いう事は。
そろそろ僕のターンきたって事?
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