第37話 終島


 BAR「PEIKOH」で座ってカクテルを飲んでいるハク・・・・・。





 レトロ空間のおしゃれな雰囲気のお店でした。






 黒縁眼鏡、真っ白のシャツ、黒いパンツ、黒いヒール・・・・・・。





 モノトーンの私服姿で異様な輝きを放っているハク・・・・・。




ハク「・・・・・・・マスターもう一杯同じやつ頂戴!!」





マスター「・・・はいどうぞ。そういえばハクちゃん最近忙しかったね。」




ハク「そうなのよマスター!仕事休む派遣の人が多くてね!私が代わりに行ったりしてるから!」




マスター「そうかね。大変だったねぇ。」




ハク「でもまぁ仕事楽しんでやってるからいいけどね!でも、そろそろ私もにしまみたいに営業しようかなと思ってるよ!もっと懐の奥に入り込む仕事もしたくてね!」




マスター「そうかね。それならよかった。にしまくん頑張ってるみたいだね。先日、取引先の方と一緒に来られたよ。」




ハク「やっぱそうなんだ!にしま今大きい仕事持ってるから、それで一緒に来たのかなあ??」





 ・・・・・・・・・・・





 ・・・・・・・・・・・




 マスターは入り口側のカウンターの方に移動しました。



 そこではイケてるサラリーマン風の男性が1人で飲んでいました。




男性「ねぇねぇマスター・・・あの素敵な女性は??」




マスター「ああ・・・最近よく来るよ彼女は。」




男性「すっげぇ可愛い・・・・声かけても大丈夫かな??・・・」



マスター「うー-ん・・・。でも、みなみくんとこの職員さんだからね。」




男性「え?!・・・みなみ・・・・・マジかよぉ・・・・。あんな可愛い子なかなか居ないよ・・・。久々見たわあんなエロそうな・・・・。」




 男性は非常に残念がっています・・・・。



 どうやら何かが頭の中で引っ掛かってしまい、声をかけたくてもなかなか声をかけられないようです。




ハク(ノベタン・・・・元気してるかなぁ・・・・・。)




 私はそればかりが気がかりです。あれから何年も経ちましたが、その間ノブハラから一度も連絡がありませんでした。2人の連絡用に買ったプリペイド携帯も充電して電源を毎日つけていますが、一切の連絡がありません。



 みなみと接触には成功。同時に職にもありつけました。むしろこの仕事が楽しすぎて本来の目的を忘れてしまいそうなのです。このまま本当に定年まで働いても良いくらいの気持ちでいます。



 島を出る前に、ノベタンと約束した事も覚えています。




 将来、本土に一緒に出ようと。




 その願いは思わぬ出来事が起こり、叶いました。




 でも傍にノベタンは居ないのです。私は今たった一人です。




 本土に来て一人になってしまいました。



 たまに町でノベタンに似た男の人を見つけると目で追ってしまいます。





 夢の中ではまだお父ちゃんも、ペンちゃんもダマテも皆一生懸命働いています。





 ・・・・・・・・・






 ・・・・・・・・・





 ・・・・・・・・・




お父ちゃん「ハク!空き家の金庫を外さないといけなくなった!すまんが事務所の道具取ってきてくれないか!?」




ハク「道具ね!うん!わかった!ここにある台車借りるね!!」



 台車を押して事務所に戻ると、アリタとハネダがタバコを吸ってサボっています。





ハク「ちょっと!あんた達またサボってんの?!こっち手伝ってよ!」




アリタ「馬鹿言え、今お客さんと待ち合わせてんだよ!」



ハク「あーもぉどいてよハネダ!急いでんだから!」



 扉の入り口でタバコを吸っている太ったハネダの腹の肉を掴んでどかします。




 むぎゅー---




ハネダ「いててっ!あーわかったわかった!」




ハク「ノベターン!ノベターン!」




ノブハラ「ハク!道具これ!重たいから気を付けて!俺他の用事があって手伝えないけど頼むわ!」




ハク「うん!このくらい一人で持っていけるし、大丈夫だよ!!」




 父から連絡を受けていたノブハラが奥の倉庫から道具を出してくれていました。





 そのまま台車に道具を乗せて外へ出ました。




 すると先程のアリタが腕を掴んできます。




ハク「・・・えっ何?!ちょっと今急いでるんだけど!!」





アリタ「ハク、ありがとな・・・・。」




 アリタの雰囲気がいつもと違いました・・・・。いつもと違って神妙な面持ちでした。





ハク「え?・・・・・・・何よいきなり!」





アリタ「俺はさ・・・お前が居なかったら、きっとつまらない人生だったと思うんだよ・・・。」



ハク「どうしたの・・・・そんな改まって・・・・」



アリタ「俺達の代表として負けるんじゃねぇぞハク。最後まで守ることが出来なくてごめん。後は俺の分まで頼む。」





 と言ってアリタは消えていきました。



ハク「アリタ?・・・・あれ?・・・どこ行ったの?・・・・」




 周りをキョロキョロ見て首を傾げながら台車を押して坂を上がります。



 坂の中腹でダマテが立っていました。



ハク「あっダマテ!これから金庫外すんだって??!!」




ダマテ「ハク、どうしたんだそんなふさぎ込んだ顔して。」




ハク「え!・・・ダマテも変な事言うなぁ・・・今日みんな変だね!(笑)全然そんなこと無いよ!」




ダマテ「山や防波堤で戦った姿、俺はお前のその姿を見て安心したんだ。もうこの世にはなんの未練もねぇよ。」



ハク「あぁ・・・・あの時はとっさに・・・・」




ダマテ「今のお前ならなんでも出来る。もう俺から言う事なんか何一つない。」




ハク「ダマテ・・・・。」




ダマテ「新しいお前の時代はもうはじまってんだぞハク。駆け抜けろよ。いつまでもチャラチャラした姉ちゃんではない所を世間に見せつけてやってくれ。」



 と言ってダマテはアリタと同じように消えていました。



ハク「ダマテ・・・・・・。」



 現場の手前でペンちゃんが資材の整理をしていました。



ペン「よぉハク、なんか久々にちゃんと見たけどデカくなったなぁ!」



ハク「はぁ??(笑)毎日会ってるじゃん!」



ペン「本当にな・・・・俺は赤ん坊の頃からお前を見て来た。」




ハク「・・・ペンちゃん?・・・」




ペン「俺達は全員でハクという美しい花を育ててきたつもりだ。水や肥料となってハクを育ててきたつもりだ。いいかいハク、やられるのは俺達だけでもう充分だ。いい勉強になっただろ。世間というのは非常に残酷だという事が少なからず分かったはずだ。だからお前だけは生き延びろよ。お父ちゃんの言う事をしっかり聞いて、これからは普通の女性として生きなさい。可愛いお前を誰も死なせたくない筈だから、頼むぞ。これは最後のおじちゃんのお願いだからな。」



 美しい花・・・・・・私の事をそんな風に思ってくれていたんだ・・・・・・。




 ペンもそう言い残し、消えていきました。




 更に台車を押して先程の現場に到着。



ハク「お父ちゃん!言われた道具持ってきたよ!」




 返事がありません・・・・。




 あれ?・・・・・どこ行っちゃったんだろう・・・。




父「おうハク!!お前何してんだ!!」



 急に父が目の前に現れました。



ハク「道具持ってきたよ!!何隠れてんのさ!!(笑)」




父「だからお前は今何をしてるかって聞いてるんだ!」




 何故か父は少しだけ怒っています。




ハク「え?何って・・・台車・・・・・」




父「俺は『逃げろ』と言ったはずだぞ。何故お兄ちゃんやノブハラと組んで相手に向かおうとしているんだ。」




 確かに父の手紙では報復はやめて逃げるようにと確かに書いてありました。




ハク「お父ちゃんと私は親子だから、お父ちゃんはそういう風に言うかもしれないけど・・・・・でも・・・・本質は違うじゃない!このまま相手にやられてしまったままでお父ちゃんはそれで本当にいいの?!生き残った私達が引いちゃったら簡単にそういう事になっちゃうじゃない!」



父「親の言う事が聞けないのか!!・・・・・と言いたい所だが・・・・」




 父はニコッと笑っていました。



ハク「本当はね・・・・お父ちゃんやペンちゃんが居ないと私は何も出来ないのよ・・・。ノベタンがいくら勇んだって、私自身は実際の所どうしていいものか・・・分からないのよ。」




父「そんな事はない筈だぞ。お前の答えを出せばそれでいいんだよ。一つだけ言っておくが・・・・・、今回俺達は負けたんだ。完全に負けたんだ。」




 会社どころか、島ごと無くなってしまったようなものです。完敗したのは現実。誰が見ても私達は負けです。



 自分なりの答えを出せばいい。お前が発する言葉全てが俺の言葉であり、それが今回亡くなった仲間達の言葉だ。




 今回は負けたんだ。会社も島も全て失ってしまった。でもな、1つだけ残ったものがある。




 残ったのは志。志だけだ。亡くなった者の志だけなんだよ。これを生き残ったお前達がどういう風に捉えて活かすことができるか・・・



 ・・・・・・・・




 ・・・・・・・・



 ガバッ!!



 急にカウンターで目が覚めます。





 カランッ…カランッ…カラン




 外して机の上に置いていたプラチナの指輪が床に転がっていきました。




ハク「はっ!・・・みんな居なくなっちゃった!みんな!なんで今日は消えちゃうのよ!」




 真横で座っていたにしまが慌てて声を掛けました。




にしま「ハク!どうしたんだよ!かなりうなされてたように見えたけど!起こしても全然起きないし・・・・最近どうした?・・・・変だぞお前。」




 カウンター上においてあった眼鏡を慌ててつけます。どうやらバーの中でグッスリ寝てしまっていたようでした。




ハク「あっにしまか!仲間が・・・・みんな居なくなっちゃったのよ!いつもの夢だったんだけど、今日に限って何故かみんな消えてしまうのよ!!」




にしま「はぁ??何言ってんだ?俺もみなみもポンも、ここに全員いるぞ。だから大丈夫だってば。」




ハク「えっ??・・・・あぁ・・・・・・」



にしま「マジでどうしたんだよ、最近変だぞお前。疲れてんじゃねぇのか?」


 みんな居なくなっちゃった・・・・・消えてなくなった・・・・・・




 私はその時、長い間見ていた夢がこれで最後だと確信しました。



 夢の中で亡くなった仲間達の声を聞くことができたのです。いつも言葉を聞く前に何故か目が覚めてしまっていました。



 これまで見ていた夢というのは何故か仲間たちの顔がのっぺらぼうでした。話す前、いやもぉ出会う前に急激に夢から覚めてしまっていました。



 怖かったのです。しっかりと直視すると彼らの存在が消えてしまいそうで怖かったのです。


 夢の中で会えるなら、これからもずっとそれでいい。そう思っていました。



にしま「お前明日休むか?疲れてんだよ。みなみ、いいだろ?俺が代わりに出るわ。」




みなみ「・・・・・・・」




ハク「・・・・・・・・」



 みなみはハクをジッと見つめながら重たい口を開きました・・・・・。







みなみ「・・・・ハク、お前が言うそのみんなっていうのはさ、本当に俺達のことか?」




ハク「当たり前だよ!み・・・みんなのことだよ!他にはいないよっ!」



みなみ「嘘つくな。みんなってのは誰のことを言ってる?分かるんだよ俺には。」



 みなみはとうの昔に、ハクの不安定な心に気付いていました。事あるごとにハクはうなされていました。仕事にこそ来るものの、いつもどこか別人のようで、これまで付き合ってきた正常ないつものハクとはかけ離れていました。



にしま「まぁまぁいいじゃねぇか、誰だって。どこにだって仲間は居るものさ。俺たちがハクの人生の全てを知ってるわけじゃないんだから。変に思い込んで聞くのは失礼な話じゃねぇか。」



ポン「はぁーい!そうですよみなみさん!」



みなみ「確かに・・・まぁそうだな・・・・。でも最近ハクの不安定さが目に見えて分かってしまってな、これをどうにかしないとマズい事はにしまもポンも分かってんだろ??」



 みなみの言う事は確かに正しいです。はっきり言って仲間としてはこのまま放っておくわけにはいかないです。毎回毎回会う度に人が違います。



にしま「・・・全て人に話せる人生なんてろくなもんじゃないよ。そうだよ、まだ全然知らないんだよ俺たちはハクのことを。詳しく知らなくて良い。話したくないことをそんな無理矢理詰めて聞いてお互いに何の得があるんだ。」



ハク「にしま・・・・・ありがとう・・・・・」



みなみ「・・・・・・・」



にしま「というのもさ・・・・なんか少しだけ分かる気がするんだよ。最近のハクの顔を見てたら1つだけ思い出した事があったよ。・・・・・昔ハクと同じような顔をした若者に会ったことあるんだ。顔自体じゃなく当然相の方な。滅茶苦茶失礼なんだけど、とっさに俺は急に我慢できなくなってしまって死相出てるぞって面と向かって言っちゃってさ(笑)何言ってんだよそんなわけないだろってそいつと2人で笑いあったんだよな(笑)死相って死ぬ前の人間の顔のことだよな?確かにそうだったんだよその言葉を言うまではな。でもな、いくら相が死相でも・・・・・目の奥は生きようとしているって事にその時初めて気づいたんだよ。死相は表向きだけで本当に死にそうな人間の顔ではなかったんだよ。・・・・別の人間が住んでる。ハクやその若者の目は完全に別の人間のものだった。」



 ハクはにしまの顔を近くでジーーッと見ます。



にしま「な・・・・なんだよお前、俺とキスでもすんのか?!(笑)」



ハク「!!!・・・・にしま、私の中でもう一人の人間が生きてるってこと?」



にしま「そうそう!!そういうことだと思う。しっかりと備わってるよ。俺は少なくともそう思う。顔という纏まりがあって、その中で目だけ後からつけたようなそんなイメージ?かけ離れてしまってるんだよ。顔は死にかかってるのに凄まじい生命力がその眼にはあってさ。・・・あっ俺別にスピリチュアル能力があるとかそういう事ではないぜ?(笑)ただ俺が言えることは・・・・・・・決してハクは一人じゃない。独りぼっちじゃないってこと。それが言いたいんだよ俺は。上手く伝えられないけど、どうしても言いたいんだよ。」



 私は・・・・・決して1人じゃない・・・・・父が・・・居るんだ・・・私の中に・・・・・。



ハク「そっかぁ・・・・・生きてるんだ。安心したよ。おかげでなんか・・・払拭したかも!!にしまありがとう!!・・・なんかもう・・・私は会えなくなるのが怖い、ただそれだけが怖かったのかもしれない・・・・・。」



 にしまはウォッカを手に持ち、ハクの方をしっかりと見ます。



にしま「・・・・こうなったら改めて聞きたい、ハクって何者?正式に自己紹介して貰いたい。」



 ハクはにしまが持っていたウォッカを奪い取り、思い切り飲み干しました。



 椅子から降りて辺りを鋭い目で見回すハク。









ハク「私は・・・・・




有限会社 オーラス興業 総務課外勤係所属 幹部候補のハク!そう!私の名前はハク!このニックネームでこれからも呼んでもらいたい!夢は最強の女性幹部!社会の悪を成敗し、世間を脅かす突き抜けるような仕事をやる為に私はこの皆さんと居るオーラス興業を選びました!!さぁ!綺麗事無しの本当の話!ガチバナシ!これからみんなで、うんとしていこうじゃないですかぁ!ねぇにしま!みなみ!ポンちゃん!いつまでもチュンさんやハツモトさんの時代じゃないはず!!私達の新しい時代を共に切り開いていこう!!」



にしま「・・・・目・・・・ハクの目つきが変わった!!・・・・・」



 4人で手の平を重ねました。



ハク「よろしくねみんな!!!!」




・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・



 私は島で生まれたんです。島で育ちました。




 この十字架を背負い生きて行く事が私の定めだと思っていました。




 到底人間一人では背負いきれないですが、私は一人では無いから生きていくことができるんです。




 背負って歩いていくことが出来るんです。




 店を出ると、夜風が吹いていました。この肌触りの悪い生暖かい向かい風を受ける度に私は鼓舞されます。




 あの日のように研ぎ澄まされるのです。




 このアトリエで書き始めた日記は読み返すわけでもないのに、一体私は誰に向けて書き続けていたのでしょうか。



 ノベタンに向けて書いていたのでしょうか。



 いえ、父です。もう会うことのない父です。会った時にいつか読んで貰おうと、そう思いながら書いていました。



 なので日記を書くのはこれで最後にしたいと思います。私はもう大丈夫です。元気です。新しい仲間達が居ます、安心して下さい、お父ちゃん。



 私は父です。








サラマンダー・スパイラル


ハクの島編 完







サラマンダー・スパイラル本編へ続く

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サラマンダー・スパイラル ~ハクの島編~ エイル @eir20241203

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