第2話 役割


 『三元(サンゲン)』という名前の会社の上司であるペンさんが営む居酒屋に到着しました。店の名前はどういう意味でしょうか。酔ってしまっていつも名前の由来を聞き忘れます。





ハク「ペンちゃん、来たよぉ!!」




 ハクの黒髪ロングヘアーが風でなびいています。




ペン「おっ・・・・・なんだハクか!!・・・・食事??」



ハク「今日はみんなで来たよーん!!」


 ハクの後ろから、ピョコっとノブハラ、ハネダ、アリタが顔を出します。



3人「ペンさん、お疲れ様です!!」




ペン「・・・ハネダとアリタが居るって事は、夕方の便に間に合ったって事だな?・・・・まぁ今、誰も居ないから座った座った。」




 指を差す方向のカウンターに座る4人。古めかしい家のような平屋の店内でした。掃除はペンがしっかりしているようで、とても綺麗でした。見かけによらず、家庭的でした。小綺麗なお店です。





 ハネダが持ってきたお酒をみんなで飲む事にしました。





 今日獲れたというアジとイカの刺身をみんなでつつくことにしました。





全員「かんぱーい!」




ハク「おいしっ!!・・・ハネダこれ滅茶苦茶美味しいわ!!」




ハネダ「でしょ?待った甲斐あったぜ!!ハクに喜んで貰って俺は嬉しいわ!」




アリタ「そういやハネダお前さ、ハクのこと狙ってんじゃねぇのか??(笑)」




ハネダ「・・おい!!お前変な事言うなよ!?」




 顔が真っ赤になる、わかりやすいハネダ・・・・。



ハク「マジで?!(笑)ありがとハネダ!!そう言ってくれるのはあんただけだわ!!そんな私と写真でも撮るかい!?」




 ハクはハネダの頭をポンポン叩きました。



アリタ「ハクに手出したら、おやっさんにどつき回されるぞぉ(笑)」




全員「はっはっはっはっは!!」




ハク「でもね最近になってよく、良い人居ないのかってお父ちゃんから言われるわ!!そんなに娘に出て行って欲しいもんかね?!(笑)可愛くないのかな??」


 ハクは勢いよくお酒を飲み干します。




ノブハラ「おやっさんってそんな事言うの?!(笑)」



ペン「そうか、まぁ島育ちで不便してるからなぁ。良い人見つけて本土行けって事かなぁ。」




ハク「私全然そんな不便だとかそう言う事思ったことないよ!!会社のみんなが居るし、むしろこの生活が気に入ってるんだけど!!時間もゆっくりだし、こんなに良い場所ないよ!」




 ハクは更にお酒を飲み干します。




ハネダ「お前、水みたいに酒飲んでるな(笑)」





 私は仕事もそうですが、男達に囲まれて育った環境だったので、女らしさよりも男らしさの方が育ってしまったようでした。まぁこの島で色気を出しても何も良い事が無いので、それで問題は無いのでした。





 あっという間にハネダが買ってきたお酒は無くなり、ペンが作った焼うどんが出てきました。




ハク「おいしっ!!いつ食べても美味しいね!!」




 ガラガラガラ!!!





ダマテ「・・・・ハク!居る?!」





ハク「あっダマテじゃん!!・・・どしたの?!」






 社員のダマテが慌てて店に入ってきました。





ノブハラ・ハネダ・アリタ「ダマテ兄さん、お疲れ様です!!」





ダマテ「いやいや、全員居るんかい!(笑)めずらしっ!・・・ハク、ごめんけどあの山田さんの廃車の鍵??どこかな??分からなくてな。」







ハク「やまちゃんの?・・・あれは私の机のね・・・・あっ鍵かかってるわ!!事務所行くわ私も!!開けてあげる!!」





ダマテ「たまたま知り合いに話したら、名変で売れる可能性が出てきたんよ!!」





ハク「ああそう!!・・・・・ってあのオンボロが?!マジで?!部品取りにもならないよ!!」




 ハクはダマテと一緒に会社に戻っていきました。



 鍵の担当は全て私の仕事でした。




ノブハラ「さぁ、・・・・俺も明日本土で仕事だから帰って寝ようかなぁ。お前らはどうする??」



アリタ「それじゃあ俺達も帰ろうかな?」




ハネダ「ハク居なくなっちゃったし、帰って寮で飲みなおそうぜ。」




 ・・・・・・・




ペンちゃん「・・・・・ノブハラ。」



ノブハラ「・・??・・・はい・」






・・・・・・・・・・・




ペンちゃん「その明日の仕事は・・・無くなった・・・・。」





ノブハラ「えっ?・・・そうなんですか?・・・あれ?そんな事・・・・おやっさんから何も聞いてないぞ。」





 仕事が無くなれば、もっと早く教えてくれた筈です。もう既に明日の仕事の準備をしています。いつでも仕事に向かう事が出来るのに・・・なんでこんなに連絡が遅くなってしまったのでしょうか・・・・・。




アリタ「・・・ノベタン、それなら明日のこっちの現場手伝ってよ!!」




ノブハラ「おう!無いならそっち手伝うわ!ペンさん、それでいいですか?・・・」





 ペンは煙草に火をつけました。





ペンちゃん「そうはいかない・・・・。」





3人「・・・・・は?・・・・」





 なんか・・・・いつもの辺見さんではない事に気付く3人・・・・。




ノブハラ「ど・・・どうしちゃったんですか?ペ・・・ペンさん??・・・・。」






急に煙草を吸いながら、背中を向けるペン・・・・・






ペン「明日以降の仕事は全て無くなった・・・。お前ら3人・・・・




クビだ・・・・。」






3人「!!!!!!!!!」



 ペンさんが言っている事が分かりませんでした。理解ができませんでした・・・・。





 仕事は毎日のようにあったし、自分たちの給与も徐々に増えて会社が潤っているように見えました・・・。一体どうしてしまったのでしょうか・・・・。




ハネダ「く・・・・び・・・・。」


 ハネダはガックリして下を向いてしまいました。





ノブハラ「・・・ペンさん!!もしかして経営が上手く行ってないんですか?!・・・・俺本土でバイトでもなんでもして、もっと稼いできますよ?!クビになっても俺は会社に金入れますよ!!絶対に潰させないぜ俺は!!」




アリタ「お・・・俺もですペンさん!!この会社が好きなんです!!何でもやります!!」




ペン「・・・そういうわけじゃねぇんだ・・・・。・・・・・これから最後の仕事をお前達に伝える・・・・・。」




ノブハラ「最後の・・・仕事?・・・。」




 3人共この会社が好きでした。学歴も資格もお金も何も無い自分を雇ってここまで育ててくれたのです。感謝しかありません。島で3人が住む寮まで用意して貰っています。もし会社が倒産しそうなのであれば、その時は給与など要りません。この会社のおかげで少しでも社会から認められたのです。ただのゴロツキであった俺達を一般の社会人として迎えてくれた唯一の会社だったのです。


 会社のナンバー2にクビと言われたならそれに従うしかないのですが、何故クビになるのかその理由をどうしても聞きたかったのです。





 バンッ!!!





 ノブハラは机を叩きました。




ノブハラ「ペンさん!!・・・いや専務!!・・・。経営が良くないという理由じゃなければ、俺達がいきなりクビになる理由がわかりません。教えて貰えませんか?!でないと俺・・・納得いきません!!」




ハネダ「そうだ・・・・なんでクビにならないとけないんだ!」





 ハネダとノブハラは立ち上がりました。






ペン「なんだお前らは!!・・・座れコラ!!!!」






 ペンは声を荒げました。あまりの顔の怖さにノブハラとハネダは少しひるみます。





アリタ「・・・ペンさん!!俺達は・・・・理由を聞いてるだけです!!ただそれだけの話です!」




ペン「こうなる予定ではなかったんだがな・・・・まぁ、いいから座れやお前ら・・・・。」





ノブハラ「・・・・。」





 渋々、言われた通り席に座る2人・・・・。



ペン「お前らな、うちの会社に入社する時に言ったよな?・・・ちゃんと覚えてるのか?」





 本土で器物破損やラクガキが流行っていた時に、ハクの父、ペン、ダマテの3人は犯人捜しの依頼を受けていました。




 結局その犯人と言うのがこのノブハラ、ハネダ、アリタのワルガキ3人衆でした。





 深夜にはっていた3人に見事に捕まるノブハラ達。





 しかしハクの父は、3人を捕まることなく逃がしました。







 一度も暴力も振るいませんでした。






 彼らを捕まえる事を目標にしておらず、今回の仕事は更生が目的であると。





 若い彼らには反省も見えるから逃がしてやろうと、そう部下のペンとダマテに言いました。






 捕まえたら当然ながら報奨金が出る予定でしたが、ハクの父はそのお金を蹴ったのです。



 そのまま去ろうとすると、ノブハラは言いました。




ノブハラ「あの・・・・俺も連れてってください!!」




ハネダ・アリタ「俺達も!」




ペン「馬鹿な事を言うな。なんで俺達がお前らみたいなゴロツキを連れて行かなきゃいけねぇんだ。」




ノブハラ「あの・・・掃除でも洗車でも・・・なんでもしますから!お願いします!」




 土下座をする勢いでその場に座り込む3人・・・・・。





ダマテ「・・・・おやっさん・・どうしますか??」




ノブハラ「・・・・お願いします!!」





 車に乗ろうとしていたハクの父は立ち止まりました。





父「・・・おいガキ・・・・・俺達の会社に入るという事は、どういう事かわかって言ってるのか??」





 一瞬にして空気が固まりました・・・・・。


 ハクの父の表情に完全に固まってしまいました。




ノブハラ「あ・・・あ・・・・・・」




父「死んじまうって事だからな・・・いいのか?・・・覚悟はあるのか?・・・・」



 ノブハラ達は固まりました・・・・。何も答えられなくなってしまいました・・・・。





ダマテ「・・・半端もんが!!中途半端な気持ちで言ってんじゃねぇぞこの野郎!!」




 この時点でアリタは半泣きでした・・・・。



ペン「涙を流す時点でもう俺達とは縁が無い・・・。兄貴、もう行きましょう。次の仕事があります。」




 車が発進しました・・・・。





ノブハラ「・・・くっ・・・・」





 ノブハラは立ち上がり、父やペンが乗っている車を追いかけました。









ノブハラ「・・・・待ってください!!!!」












父「・・・・・・・・・・・・・・・」












ノブハラ「いつか人間っていうのは死ぬんだ!!・・・・」






父「・・・・・・・・・・・・・・・」





ノブハラ「遅かれ早かれ!!・・・だって俺は最後まで社長の会社で勤め上げるんだから!!最後は死んで上等だ!!・・・まるで脅すかのように!!当たり前の事を言ってんじゃあねぇぞこの野郎!!!!」




 ノブハラは走りながら叫びました。心の底から叫びました。




 突然「死んじまう」という言葉が他人から出たことで、それに異様にひるんでしまった自分に対して腹が立ってしょうがありませんでした。当たり前です、死ぬまで働くつもりなのです。




ペン「・・・・・・・」





父「・・・・停めろ。」




 車は停まりました。



 膝に手をついて苦しそうなノブハラ。





ノブハラ「はー・・・・はー・・・はー・・・・・。社長・・・雇ってください・・・・。俺は死んでもいいんです・・・。これまでずっと死んでいるような人生だったんですから・・・・。はー・・・はー・・・・。」





父「・・・・・・・・」





ノブハラ「もう・・・・闇に隠れて依存して、楽な方向ばっかり行って、生きていても死んでいるような人生は送りたくありません!!」




父「ノブハラと言ったな?・・・・俺にはお前らと同じくらいの娘が居る。お前は今日から娘のボディーガードだ。・・・・しっかりやれ。」




 ・・・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・・・・・・・


ペン「仕事だ・・・・・。」




ノブハラ・ハネダ・アリタ「・・・・・・・・・・・・・」






ペン「俺達の娘、ハクを守って島から脱出しろ!!」




ノブハラ「ハク?・・・・・」






ペン「絶対にハクを連れて逃げろよ?!出来ればそのまま全員で逃げ延びろ!!」




 ペンは俺達に今までに無いくらい強く俺達にそう言いました。言った後、俺達の肩を一人ずつ強く叩きました。


 仕事は厳しく、入社してからというもの、専務であるペンから怒られることも多々ありました。しかし今日はそれ以上に厳しい顔をしていたのです。




ペン「俺は血は繋がってないが、ハクを実の娘のように育ててきたんだ。あの子だけは命に代えても必ず守りきって欲しい。・・・・・お前らハクのボディーガードだったな?この会社の最後の仕事になる。」




ノブハラ「・・・・・・・」




アリタ「守るって・・・・」



ペン「お前が自分らの事を男だと、そう言うのなら、女のハクを守れ!!一生で1回で良い!!男であるなら誰かを守る人生!!男だったらそういう最後が相応しいじゃねぇか!・・・なぁ?!そう思わないか?!」




3人「は・・・・はいっ!!!」





ペン「分かったら、とっとと行け!!俺からの話は以上だ!!」



 札束をカウンターに投げるペン。



 慌てて店を飛び出す3人・・・・。





ノブハラ(・・・ペンさん・・・・もう、どうにもならないのか?・・・・。)



 ペンがハネダとアリタを店に呼んだ意味が分かりました。この話をする予定だったのです。



 ハクとノブハラには兄貴分のダマテが、伝える予定でした。




 ・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・




ハク「ねぇダマテ・・・それで・・・なんで私は逃げないといけないの?!」





ダマテ「ハク・・・・・・・。」




ハク「しかもなんで私だけ・・・・全員で逃げる事は出来ないの?!みんな逃げないなら私も残る!!」



ダマテ「駄目だハク!!良いか?!・・・・あの例の金属の利権の件、マズい事になってるんだ。話したってお前にはわかならい。お前は社長の娘だ。ここは俺達に任せて、いいから逃げろ。」



ハク「娘だから・・・女だから?・・・そんな性別は関係ないでしょ!会社の問題でしょ?!私も会社の社員なのにみんなにその厄介を押し付けて、自分だけ逃げて生き延びるなんてそんな事出来るわけがないでしょう?!ダマテの方が間違ってるよ!!」



ダマテ「頼むから・・・言う事を聞いてくれハク・・・・・」




ハク「いーや!!絶対に私は逃げないから!!・・・アンタも最後までここに残るの??それでいいの?!」





 ・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・






「ハク!!!!!」









ハク「・・・!!!!!・・・・」






 私は体の芯が揺るがされるような声に驚き、一瞬体が浮かび上がりました。





 恐る恐るその声の主の方を向きました・・・・。





 ダマテと喧嘩口調で話していると、私の父が事務所に声を荒げて歩いてやってきました。こんな鬼のような表情の父を、今まで私は見た事はありませんでした。

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