震災6 跳んで群馬

実家に着いたのは夜の7時過ぎだった

元々真っ暗な山の高台

暗さには慣れているものの、ここまでの道中で観たくないモノを観てきた為か、気分と共に辺りはいっそう暗く見える


買ってきたおにぎりとサンドイッチを渡す前にパンを渡された


どうしたの?いいよ大事な食料でしょ?


遠慮して断ると


それがさ、自衛隊の配給が来たり、丁度買い物して帰ってきたところだったから食料には困ってないのよ。プロパンガスだし、水は井戸水あるし、元々電気にあまり頼ってないからね。反射式ストーブで調理もお湯も出来るし。


なるほど。こういう時は大都市よりむしろ田舎の方が生活苦に悩まされないのだなと思った。


そっちはや?


こちらの現状を話す。

避難所生活止めて仲間と一緒に過ごしていること

津波の影響はなかったこと

電気も少しずつ復旧していること等々


それより、こっちはどうなの?


どうもこうも、特に生活苦にはなってない。まぁ1日目は風呂入りに一時間近く歩いたかな。裏山歩いて何とか帰ってきたり。そんなもん。


思っている程実家の被害は無く安心した。というか拍子抜けするくらい、実家の方が充実している。おにぎりとサンドイッチを返せと思った。


ところで、被害は観た?


観たくても観れない。電気無いからテレビ観れないし。何より、観たくない。ただ、津波で流された人がゴルフ練習場の網に引っ掛かっていたというのは伝え聞いた。


さっき通ってきたけどそんなこと無かったよ


もう片付けたんだろ。じゃなきゃお前もここまで来れてない。道路を通す事に全力注いだから、その時に一緒に運んだのだろう


随分と手際がいい。片付けたという言葉が引っ掛かり色々考えてしまうが、考えないように努めた。


思いの外元気な様子の両親を見て少し安心した。祖父の様子も見たかったが、もう寝てしまったらしい。まぁ、鉄人と呼ばれるタフな祖父の事だ。俺達よりきっと強い。

両親は床に着いた。夜の8時。惨状を観てきたので心拍数がまだ落ち着かない。寝れるかな?そう思いながら床に着いた。


朝5時

思った以上に疲れていたようで床に着くと即寝ていたようだ

昨日会えなかった祖父は井戸水の番をしているとのことだった


おう、なんだ


ニコニコしながら口数少なく、どこかの不器用な俳優のような祖父は、井戸小屋で薪ストーブに当たりながら読書をしつつ番をしている


飲み水として使える井戸水が無事だったのは、この部落では実家だけだったようで、近隣から噂を聞き着けた人達が訪れるため番をしているということだった


そんな話を聞いてるときにも水を貰いに来る人達は多く、その人達とコミュニケーションを取ることが祖父も楽しみなようだった。


実家は大丈夫なようだ

これ以上ここに居ても私の分まで食費を割いてしまう

買い物した直後で物が有るとはいえ、無限ではない

早々に仙台に帰ることを伝えた


ふと、ケータイを見る。

3件のメール

群馬に出張に行っていた彼女からだった


おにぎりありがとう

大丈夫?

寂しい


決して忘れていたわけではない

ただ、もはやどうしようもない事態である

ケータイも繋がらず、1度公衆電話で連絡は入れたもののそれっきりだった。彼女の家族は避難しているのか実家には居なかったこと。差し入れでおにぎりを作っていったこと。群馬の被害は停電ぐらいなものだということ。


ケータイ、ようやく使えるな

コーダイやツッキーには申し訳ないが、このまま群馬に行くことにした


これから岩手出て行きます


一言メールを入れた。

グルグルしている。まだ不安定なのだ。もしかしたらメールを見る前に群馬に着くのかもな。そう思いながら、車を群馬に向けて走らせた。

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