061 到着!!
街中では、いたるところでモンスターの蹂躙が行われていた。
家が荒らされたり、道路には真っ赤な血の跡もあった。
その光景を見るたびに、家族は悲痛な表情を浮かべていた。
コンビニや商店では、略奪行為の痕跡が見受けられた。
棚の食料や飲料、生活雑貨が根こそぎ無くなっていた。
緊急事態だとは言え、それでいいのかとも思ってしまう。
といっても、俺もスーパーから殺虫剤を持ってきたんだけど(代金は置いて来たからね?)。
移動を開始してしばらくすると、バリケードの様な物に囲まれた建物が見えた。
場所的におそらく公民館だったと思う。
コンクリート造りで、最近できたばかりだったはず。
バリケードの後ろには、数人の若者が立ち番をしていた。
ものすごく怯えた表情で、周囲の警戒していた。
小さな物音ですら、過剰に反応してしまう始末だ。
手には剣やナイフなどが装備されていたので、おそらく探索者であるとは思う。
ただ、その怯え方からすると初心者に近い経験しかない者たちかもしれないな。
そして俺たちが、その前を通過する時だった。
一人の青年が、自分たちの目の前を通るのが自衛隊であることに気が付いたのだ。
「あ、あんたたち!!自衛隊だろ!!助けてくれ!!俺たちを守ってくれ!!」
「そうだよ!!俺たちは税金を払ってるんだ。守るのが当然だろ!!なあ!!早くしろよ!!」
その声に引き寄せられたのか、中から人が出て来た。
人数はおおよそ20人くらいか。
武装している人もいれば、そうでもない人もいる。
「あんたたちからも言ってくれ!!俺たちを助けろって!!」
きっと藁にも縋る想いなんだろうな。
俺が逆の立場だったらおそらく同じことを考えていたともう。
「そうですか。今現在あなた達は何名いらっしゃいますか?」
児島一曹は彼らの声に耳を傾けた。
さすがは自衛隊。
「ああ。今は中にいる人も合わせると46人だ。戦闘ができるやつは15人ほどだ。」
「そうですか。我々は駐屯地への移動中です。今より10分で移動準備をお願いします。また、移動中は各自で自衛をお願いします。我々もぎりぎりの人数で行動しており、今回の護衛対象増加は想定外です。ご協力をお願いします。」
児島一曹はそう言うと、部下に命じて駐屯地に連絡を入れていた。
「すみません中村殿。さすがに放ってはおけませんので、ご了承ください。増援の要請も行いますので、しばらくすれば何とかなると思います。」
だが中からの反応は思っていた物ではなかった。
「はぁ?!何言ってんだよ!!お前たちが守れよ!!そのための自衛隊だろ!?」
「そうだそうだ!!守れよ!!別に駐屯地まで行かなくても、ここを守ればいいだけだろう!?」
「さっさと仲間呼べよ!!」
若者たちはめいめいに騒ぎ出した。
それを聞いていた児島一曹は、盛大にため息をついていた。
「申し訳ありません。我々は現在任務遂行中ですので、任務への随行は許可いたします。しかし、任務を妨げるのであれば、許可できかねます。もう一度言います。10分後に出発します。移動をされる方は準備をしてください。」
児島一曹の言葉に、怒りを更にヒートアップさせていく若者たち。
ただ、中には移動の準備をする者もいた。
それから10分後。
29名の人が移動を希望し、俺たちとともに自衛隊駐屯地へ移動することになった。
残された若者たちは、今回の件をSNSで拡散すると騒いでいたけど、一緒に移動しようと児島一曹はちゃんと提示している。
それを蹴ったのは彼らで、守ってあげられるほど余裕はないのだ。
「では出発しましょう。中村殿、私は全体の警備で手いっぱいになりますので、戦闘についての指揮をお願いしてもよろしいですか?」
「わかりました。何とかやってみます。」
俺は戦えるであろう人たちと一通り挨拶をし、移動の際の役割分担について話し合った。
今回合流した人で戦闘経験者は6名でパーティーとして活動していた。
ランクはFランクで俺と同じだった。
というわけで、俺と谷浦は左方向の警戒を行い、右と後ろを合流組に警戒をお願いした。
その後何度か戦闘を繰り返したが、特段問題なく進むことができた。
母さんの結界や、総一郎さんの医術があるおかげで、戦闘ができない人たちも安心して進むことができた。
本当にこれには助かった。
児島一曹もかなり助かったと感謝しているほどだ。
時折避難できなかった住人の人が保護を求めて来て、結果70人近い大所帯になっていた。
途中で救援部隊が合流し、俺たち探索者組も戦闘から解放された。
さすがに慣れない事をしたせいか、どっと疲れが襲ってきた。
これだけ疲れる戦闘しているのにレベルが上がらない。
やはりゴブリンやスライムを倒したところで、それほど経験値はもらえないのだろうか……
しばらく歩くと、前方に頑丈な造りの門が現れた。
その前には銃を持った自衛官が立ち番をしていた。
そう、到着したのだ。
「皆さん、お疲れ様です!!目的地に到着しました。これより入門手続きを行いまして、中に入っていただきます。もう少しだけ我慢してください。中に入りましたら、係員の指示に従って行動をお願いします。指示に従っていただけない方は、場合によってはお帰りいただくことになります。」
児島一曹の話を聞いていた人たちは、皆一様に安堵の表情を浮かべていた。
ただ、最後の一言で一気に顔を青くしていた。
“お帰りいただく”ということは……追放だ。
ただ、あくまでも指示に従わなかった場合なので、自分勝手な行動をとるなとの牽制だろう。
俺たちは、児島一曹の指示に従い、入門手続きを行っていく。
入門手続きはいたって簡単で、氏名年齢と所有スキルの有無の確認。
あとは
俺と谷浦はスキルについて正直に書くか迷ってしまった。
俺が手を止めていると児島一曹が近寄ってきて、俺と谷浦の【クリエイター系】スキルは記載しなくてもいいと言ってくれた。
全員が入門を完了すると、案内が児島一曹から係員に引き継がれた。
俺たちも一緒に付いて行こうとしたが、俺たち家族と谷浦の家族だけ呼び止められた。
どうやら一ノ瀬さんが呼んでいるとこのとだ。
俺たちは児島一曹について移動した。
隊舎内を移動すると、第3会議室と書かれた部屋の前で児島一曹が足を止めた。
「こちらに一ノ瀬一等陸尉がおります。このままお待ちください。」
そう言うと児島一曹は扉に向かいノックをした。
コンコンコン
「誰だ?」
中から一ノ瀬さんの声が聞こえてきた。
「児島一曹であります。中村殿およびそのご家族。並びに谷浦殿およびそのご家族をお連れ致しました!!」
「ごくろう、入れ。」
「はっ!!」
そのやり取りの後、児島一曹が扉を開け、俺たちを中に通してくれた。
そこには机と椅子が並べられており、奥の席に一ノ瀬さんが腰かけていた。
「お待ちしておりました。中村さんが無事でよかったです。」
「こちらこそありがとうございます。こうして家族そろって無事生き残ることができました。」
俺は一ノ瀬さんにお礼を言うと、父さんから紹介してほしいと頼まれた。
俺もすっかり忘れており、慌てて家族を紹介した。
谷浦も慌てて家族を紹介した。
「この度は我々を迎え入れてくださり感謝いたします。」
「私たちはこのご恩にどう報いればいいのかわかりませんが、出来ることはするつもりです。」
父さんと総一郎さんにバトンを渡し、交渉を任せることにした。
まあ、交渉といってもこれからについての相談って言うのが正しいかもしれない。
ある程度話し終えると、一ノ瀬さんから今後についての説明があった。
詳しい説明は明日改めて行うとのことだったが、俺たち探索者には引き続きダンジョンへ行ってほしいとのことだった。
理由は簡単で、世界がこうなってしまった以上、物資をダンジョンに頼らざる得ないそうだ。
既存の燃料もいつ切れるかわからず、魔石燃料への切り替えが急務であった。
そのほかにも武具の素材や食料に至っても、ダンジョンに依存せざる終えないそうだ。
結果として、自称神の思惑通りになっていそうで腹がった。
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