060 出発!!
正直なところ今の俺たちにとって30匹前後のゴブリンの集団は、たいして問題はなかった。
谷浦を前衛においてヘイトを集め、後方への侵攻を阻む。
だけどそれだけでは全てを捌き切切ることが出来ないので、俺はそのフォローに回っていた。
美鈴もうまい事魔法を使ってくれて、ゴブリンたちの足止めを行っていた。
美鈴が足止めしたゴブリンを、次々に虹花さんが撃ち取る。
たまに、美織さんも戦闘に参加していたので、きっとそれなりの経験値が入るはずだ。
でもやはり何匹かは俺たちを潜り抜けたり、回り込んだりして母さんの【結界】にぶつかっていった。
母さんも毎日のGレベリングを欠かさなかったようで、スキルの扱いはなかなかのものだった。
ただ結界を張るだけではなく、棒状にしたり壁にしたりして多彩に使い分けていた。
総一郎さんは近寄ったゴブリンに【麻痺攻撃】でうまく捌いてくれていた。
おかげでこの戦闘は問題なく乗り切ることができた。
さすがに第2ウェーブを警戒したけど、そんなことは起こらなかった。
虹花さんが屋根の上から状況確認をしてくれたけど、周囲に敵影は見られなかったそうだ。
「ケント……。お前たちは毎回こんなことをしてきたんだな……。父さんはもっと楽観視していたよ。お前たちが毎回普通に帰ってくるもんだからね。」
「そうですね。私も楽観視していました。私は戦闘が出来ませんから、まして息子たちが恐ろしいことをしているということを思い知りました。ただ、これからはこれが当たり前の日常になってくるのだと考えると、私たちの考えが間違っているんでしょうね。」
父さんと総一郎さんは、大分ショックを受けてしまったらしい。
姿かたちが消えてしまうけれど、息子たちが【生物】を殺していたことに改めて考えさせられたのだろう。
ただ、それに引き換え女性陣は強かった。
特に美織さんは、魔法を同時に発動させて見せたのだ。
普通はどちらか一方の発動だけでも手一杯のはずなのに。
おそらくはスキル【並列思考】が関わってきてると思う。
ただ、その検証をしているほど余裕は無かったりする。
今の時間は12時を過ぎたばかり。
自衛隊の迎えが来るのは14時。
あと2時間。
なんとしてもここを乗り切らなければならない。
その後からも次々とモンスターが現れ始めた。
なんというか、ここを狙ってるんじゃないかって思えるくらいに頻繁に襲われる。
ただ救いは、ゴブリンとスライムが中心で、時折ハンティングウルフが混じる程度だ。
モンスター的には捌けなくはないが……さすがに数が馬鹿にならないな。
たまに姿を現す成長個体は、恐らくイレギュラーになりかけていそうだ。
何度かその1匹に、状況をひっくり返されそうにもなった。
それから何匹何百匹と倒したのだろうか……もうすでに数えるのが面倒になってきた。
俺たちは、すでに気力だけで戦っている状況だ。
一人でも崩れたら、一気に瓦解するのが目に見えている。
それにしても、SPの管理にこれほど神経を使うことになるとは思わなかった。
特に、守りの要である母さんのSP切れは、家族の死へと直結する。
なので母さんには、途中から戦闘参加を控えてもらった。
近寄ってきたモンスターを吹き飛ばしたり、モンスターからの攻撃を防ぐ。
この二つだけに絞ってもらった。
そうでもしないと、レベル上げをあまりしてこなかった母さんのSPはあっという間に底を突いてしまうから。
それと運が良かったのが、冷蔵庫にあった野菜や果物などの食料品を、母さんたちがインベントリにしまっていてくれた事だ。
その食材で、冴子さんがスタミナ回復用のドリンクを作ることができた。
量はそれほど作れなかったので、基本的には俺と谷浦で使うことになった。
俺たちが動けなくなると、モンスターに抜けられてしまうから。
美織さんの魔法がいい感じになってきたので、美織さんと美鈴でローテーションを組みながら戦闘に当たってもらった。
これならSPの自然回復分で、俺たちの支援にあたってもらえそうだ。
それから1時間。
俺たちは何とか凌ぎ切った。
約束の14時少し前。
遠くから銃声や魔法が炸裂する音が聞こえてくる。
おそらく迎えに来てくれた自衛隊の部隊だろうか。
俺たちに安堵の空気が流れていた。
やはり街中には、それなりの数のモンスターが生息しているのだろうな……
しばらくすると、家の前に6人ほどの自衛隊員が到着した。
「中村殿!!一ノ瀬一等陸尉からの要請によりお迎えにあがりました!!」
ビシッと敬礼を決めたのはこの前の運転をしてくれた、児島一曹だったかな?
それにしても、てっきり車で来るのかと思ったけど、徒歩だった。
どうやら、ガソリンの供給が心もとないため徒歩となったようだ。
ってあれ?一ノ瀬さん昇進してるし!!
ちょっと動揺してしまったじゃないか。
俺は動揺を押し殺して、児島一曹に質問を投げかけた。
「ありがとうございます。移動先について教えていただけますか?メールで連絡した通り、90歳代の高齢者が2名いますので、移動方法を考えなくてはなりません。」
「それでしたら問題ありません。移送用にリアカーを持ってきましたので、そちらに乗っていただきます。ほかの方は徒歩でお願いします。」
自衛隊員の後ろには、かなり頑丈なリアカーがひかれていた。
「それは助かります。総一郎さん。お爺さんとお婆さんの移動の準備をお願いします。ほかの皆も移動できるようにしよう。」
俺はみんなに声をかけ、一斉に行動を開始した。
といっても、あらかた準備を終えているので最終確認程度だ。
「すまないなケント。お前に苦労を掛けた。」
「何言ってんの父さん。今できることを精いっぱいやるしかないんだから。俺ができることは俺がやる。でも父さんしかできないこともあるから。だからそれは父さんに任せた!!」
父さんが、家長として不甲斐ない自分に憤りを感じているのが伝わってきた。
だからこそ、明るく答えた。
きっと父さんなら大丈夫だ。
だって、俺の自慢の父さんだから。
ガチャリ
しばらくすると全員出発の準備が整い、父さんが自宅のカギを閉めた。
この家は父さんが今の職場で働きだして10年を迎えるときに、記念に建てた家らしい。
あまり新しい家ではなかったけど、それでも父さんが大事にしてきた家だ。
だから誓う。
必ず家族全員で、ここに帰ってくると。
だから誓う。
ダンジョンを制覇して、この場所を不干渉地帯へとすることを。
「それじゃあ行こう。」
父さんは振り返って俺たちを見ると、出発の合図を出した。
その瞳には強い決意が見て取れた。
父さんも俺と同じ思いなんだと思う。
「ではまいりましょう!!移動先はここから約1時間半の場所にある陸上自衛隊駐屯地です。途中数回休憩を挟みます。戦闘も起こる可能性が高いので、その際はご協力ください。」
「わかりました。我々もできる限り協力します。」
児島一曹の言葉に父さんが代表で答えてくれた。
その目には迷いはなくなっており、その背中はいつもの自慢の父さんだった。
「私はスキル【医術】とスキル【回復魔法】を習得しています。ケガなどは私に任せてください。」
「私はスキル【調薬】で簡単な薬なら作れます。」
総一郎さんと冴子さんは自分のスキルを伝えた。
母さんと美鈴、父さんも同じく児島一曹に伝えたのだった。
「それは心強い!!我々も回復手段が限られておりますので助かります。それに戦闘面でもなんとかなりそうですね。わかりました!!必ず皆様を無事に送り届けて見せます!!」
そう力強く宣言した児島一曹は部下に指示を出し、改めて出発したのだった。
大方の予想通り、道中でモンスターとの遭遇戦が頻発した。
自衛隊員の戦闘スタイルと俺たちの戦闘スタイルがうまくマッチして、そのモンスター自体は順調に撃退することが出来た。
自宅で防衛戦をしていた時の事が、ウソみたいに思えるほどに。
そう、モンスターとの戦闘は問題ではなかったのだ。
一番の問題は……
〝人間〟だった……
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