042 広がる狂気と新たな歩み
ダンジョン内に漂う、ドロドロとした感情……
その者は黒く染まり、そしてなおも黒く……漆黒に染まっていく。
出合って生き残った者は言う……
「やつらは化け物だ」と。
『イレギュラー』
ダンジョンに生息するモンスターの異常個体とされる種。
ずるり……
ずるり……
何かの金属を引き摺りながら、その者達は歩き続ける。
「●×△□……。◇▼×◎〇□◇……」
声にならない声が聞こえる……
聞くものに不快を与えるには十分な声……
「見つけた……。俺の獲物……」
「ラッシュ!!」
ーーーーーーーーーー
俺たちはようやくこの日を迎えた。
えらく長くかかってしまった。
まあ、倒したモンスターの数が数だけに、仕方ないとしか言えないかな。
「先輩、ようこそ第5層へ。」
明るく茶化しながら、でも真剣に声をかけてくれた谷浦。
きっと、俺の体が強張っているのを気遣ってくれたんだろう。
おかげで少し気が楽になった。
そう、ついに念願の第5層に足を踏み入れたのだ。
「いよいよですねケントさん。ついに第5層です。私、頑張ります!!」
「カイリちゃん、すごい張り切りだねぇ~。でも、前みたいに前に出過ぎないでねぇ~?」
「もうアスカ!!からかわないでよ~~~!!」
いつも通りの二人を見て、なんだかホッとしてしまった。
そのやり取りの中でも、しっかり仕事をしている虹花さんとカレンには頭が下がる思いだ。
虹花さんが【気配察知】と【魔力察知】で周辺警戒を開始していた。
カレンも【マジックソナー】という魔法で周辺の通路状況を確認していた。
虹花さんが生物の確認。カレンが通路の確認を行っているのだ。
「皆お待たせしました。虹花さん、モンスターの状況はどうですか?」
「今のところは問題ないわね。ここから少し先……おそらく200mくらいの位置に動かない5匹くらいの集団がいるけど、近づかなければ問題なさそうよ。」
「そうですか、おそらくそこは小部屋だと思います。入り口の扉は確認できましたが、中まではわかりませんでしたので。」
うん、二人とも優秀すぎやしませんか?
二人そろえばダンジョンが丸裸だ。
「それにしても、なな姉ちゃんとカレンちゃんが揃うとダンジョンも形無しだね。」
「それおもいますよねぇ~。」
「たしかにそうだね。虹花さんもカレンもありがとう。」
皆も同じ思いを抱いていたようだった。
何故か一人ふくれっ面のカイリがいるが、良く分からない。
「カイリちゃんったらやきもちですか~?ケントさんに褒めてもらえなくて?」
「ち、ち、違うから!!」
なにやら奥でカイリとアスカがじゃれているけど、少し遠くて何言ってるか聞こえないな。
まぁ、仲良しはいいことだよな。
「まずは、戦闘を慣れるために単独また2匹か3匹のスライムを相手にしたいね。」
「そうですね、それがいいと思います。カレンさん、簡易の周辺地図はありますか?」
「虹花さんどうぞ。手書きなんできれいではありませんが。」
いつ書いたの?!
カレンが、手書きの地図を虹花さんに手渡した。
「ありがとうございます。ケントさん、今私たちがいるのが階段近くの広場です。それがここ。私の探知に引っ掛かったのはこの小部屋と思われる場所と、通路に6か所です。まずは6か所の通路のモンスターを標的にしましょう。あとは都度探知をかけて、探して倒していく流れで行きたいと思います。いかがですか?」
虹花さんが手書きの地図を指差しながら、今後の行動計画を説明してくれた。
地図があるおかげでイメージしやすく、説明がすぐに理解できた。
ほんと、二人とも優秀すぎです。
「うん、それで行こう。みんなもいいかな?」
「「「「はい!!」」」」
うん、これ俺がリーダーである必要性はあるのだろうか……
まぁ、神輿は軽いほうがいいって言うし……
そう思わないと精神衛生上よくないな……
虹花さんの案内でダンジョンを進んでいく。
すると通路の奥に見慣れたモンスターが姿を現した。
「スライム発見。視認4。色から無属性スライム1、火属性2、風属性1と予想。」
虹花さんの声で、一気に戦闘モードへと切り替えた。
そしてアスカのスキル【指揮者】の通信能力を使い、無言で隊列を再確認し組みなおす。
先頭:谷浦
遊撃:俺
中衛:カイリ・虹花さん・カレン
後衛:アスカ
十字架を逆にした形になった。
俺たちは逆十字隊形と呼称している。
他のパーティーがどう呼んでいるかはわからないけど。
谷浦は、新調したタワーシールドを構える。
このタワーシールドは警察の機動隊が使うジュラルミン盾を見本にしており、ちょうど目の位置に来る場所に横長の穴が開いている。
そのため、構えながらでも前方の様子が見える。
正直透明にできるかなって思ったけど、さすがに素材が存在していないそうだ。
徐々に近づくにつれて、スライムたちの様子がわかるようになってきた。
なんていうか……触りたくなる誘惑に負けそうだ……
第1層のスライムよりも弾力があり、ハリツヤが良いのだ。
『ケントさん、考えてることがだだ漏れですよぉ~?』
おっと、アスカのスキルの影響下だった。
改めて集中しないとな。
『それでは、私の矢の攻撃を合図に戦闘を開始します。私と栄次郎は戦闘経験がありますが、ステータスの関係上でどのくらいの力で戦えばいいのか分かりません。ですので約5割くらいを目安に戦いましょう。危険を感じたら全力で戦闘してください。』
『アスカ。これからの指揮は任せた。』
虹花さんからの提案で、抑え気味の戦闘をすることにした。
俺は以後の指揮権をアスカに預け、戦闘に集中することにした。
『皆さん準備はいいですかぁ~?』
全員が頷きながら前を見据えていた。
『戦闘開始!!』
まずは虹花さんの第一射。
矢はまっすぐに前方にいた真っ赤なスライムに飛んでいく。
スライムはまだ気が付いていないようで、ポヨポヨと弾んていた。
見ていると、仲間たちとコミュニケーションをとっているのか、遊んでいるのか。
そんな気がしてしまう。
俺たちは、その矢を追いかけるように駆けだした。
矢が命中し、真っ赤なスライムは後方へと飛ばされた。
どうやら倒し切れなかったみたいだ。
真っ赤なスライムは、全身から炎を噴き出し暴れ始めた。
俺はとっさに水属性魔法で液体(おそらく水だと思うけど、飲んだことはない)を真っ赤なスライムに向けて放った。
水を嫌ったのか、真っ赤なスライムは大きく避けてくれた。
牽制に成功し、真っ赤なスライムは出遅れることになった。
残りの3体がこちらへ向かってくる。
すかさず谷浦がスキル【ウォークライ】を発動し、スライムのヘイトを一心に引き受ける。
その間、カイリとカレンは魔法を発動させる。
カイリは火属性魔法の本質を理解し始めたらしい。
一気にスライム周辺の熱量を上昇させていく。
青色のスライム2匹から徐々に湯気が立ち上っていく。
動きもどんどん遅くなってきた。
黄土色のスライムはあまり気にした様子はないものの、やはり動きが悪い。
『俺は後方のスライムを倒しに行く。こっちは任せた!!』
俺は後方に吹き飛ばされた真っ赤なスライムへと向かっていた。
『ケントさん、バックアップします。無理はなさらないでください。』
一人離れるのは少し怖かったけど、虹花さんがすかさずフォローに回ってくれる。
俺は、虹花さんの矢のバックアップを受け、真っ赤なスライムへと向かう。
この個体は少し成長していたようで、炎をうまく使ってこちらを牽制してきた。
こちらも水属性魔法で牽制しつつ接近する。
そしてついに俺は、真っ赤なスライムの元へとたどり着いた。
近づいてしまえばこっちの物。
手にした剣でスライムを一刀両断する。
見事に切り裂いたスライムはその場ではじけ飛び地面のシミへと変わった。
一方他の皆は、残り3匹を相手に戦闘を継続していた。
3匹のスライムはすでに、動きが緩慢になっていた。
カイリの魔法の後から風属性魔法を待機させていたカレンが、その魔法を解き放った。
カレンが放った風の刃は渦を巻きながらスライムへと迫っていく。
そして面白い現象が発生する。
前も起こった現象だ。
カイリの魔法で熱せられた空間につむじ風がぶつかり、小規模な竜巻へと変化したのだ。
スライムたちは巻き込まれ天井付近まで吹き飛ばされる。
そのまま天井に貼り付けにされ、高熱を帯びた風の刃で切り裂かれていった。
『皆さん、周囲敵影なし。戦闘終了です。』
アスカからの通信で、やっと一息つくことができた。
ただその後、アスカからダメ出しがされた。
『皆さん……完全にオーバーキルでしたよぉ~。特にカレンちゃんとカイリちゃんやりすぎです。もっと抑えてくださいねぇ~。』
『確かにそれは思った。俺めっちゃ熱かった……』
谷浦は一番近くに居たせいで、魔法の熱気にやられてしまったらしい。
ほんと、ゲームとは違うんだなって思わせる出来事だった。
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