043 出力調整と空気

「じゃあ、ドロップアイテムを回収しようか。」


 周辺を見ると、ドロップアイテムが散乱していた。

 不思議なのが、あの熱量の中でもドロップアイテムに被害がないってことだ。

 スライムゼリーなんて、すぐに蒸発してもおかしくないんだけどね。

 そうならないあたりも、ダンジョンの不思議なのかもしれないな。


「一戦目にしてはそれなりに出ましたね。」

「そうだよねぇ~。カイリちゃんなんて最初はスライムゼリーまみれになってたもんねぇ~」


 カイリ達はスライムゼリーの為、かなりスライムを倒しまくっていたって言っていた。

 スライムダンジョンは弱いわりに数が多く、対応を失敗すると周囲を埋め尽くさんばかりに集まってしまうと話を聞いたことがあった。

 どうやら最初は対応が上手くできなくて、スライムまみれになってしまったようだ。

 そんなカイリたちも、属性付きは初めてだったみたいで、加減がわからなかったそうだ。

 結果、安全マージンを稼ぐために、強めで魔法を使ったようだった。

 ただ、思いのほか強くなり過ぎてオーバーキルに至ってしまったようだった。


 そんな感じで他愛のない会話をしつつ、ドロップアイテムを回収して回った。

 そして集まったのがこれだ。


 魔石(小)が2個。

 火属性の核(低品質)1個。

 スライムゼリー(青)が1個。


 正直これが多いんだか少ないんだか……基準がよく分からない。

 それと属性の核はいろいろな使い道があるようで、ただエネルギーになるだけではないそうだ。

 そのためか、そこそこの高額取引もされる場合があるようで、虹花さんからその情報を聞いたみんなも大喜びだった。

 

「そうだ虹花さん、モンスターはあと何体くらいいますか?」

「そうですね。近くいる塊としては、あと5グループでしょうか……。ただ、人の気配も増えてきていますので、注意は必要ですね。」


 俺たちが今一番恐れているのは、誤射だ。

 誤って高火力の魔法が同業者に当たったとなると、問題になってしまう。

 ただでさえ、今は『イレギュラー』の一件で騒がしい時期だ。

 誤射一つで、冤罪に巻き込まれかねない事態が発生する可能性を否定できない状況だった。

 だから、無駄に騒ぎにならないに越したことはない。


「では、他のグループと鉢合わせしないように進みましょう。」


 俺たちは、虹花さんが感知したモンスターの塊に向かって移動を開始した。

 途中何か所か小部屋を見つけることが出来たが、残念ながら特に何もなかった。

 できれば宝箱とかあると嬉しかったんだけどね。

 

 案の定、同業者に出会いはしたが、みんな下層へ向かう途中らしく、問題なさそうだ。




「止まってください。この先のT字路左50mにスライムと思われる反応を確認。数はおそらく3ですね。」


 虹花さんの探知に引っ掛かったようだ。

 おおよそ200m範囲にならないと、正確な数がわからないと言っていたけど、それを差し引いても十分すごい性能だと思う。

 本人曰く、大まかに分かるだけで、詳細が分からないからまだまだだそうだ。


『ここからは念話通信に切り替えますねぇ~。まずは目視できる範囲まで静かに進みましょう。』


 ここからは、アスカが司令塔として対応をしていく。

 普段ポワポワしている割に、こういう時の頭の回転が速いのがアスカだ。

 あのポワポワしたのが、すでに戦略だとしたら……末恐ろしい子⁈

 何て一瞬心に思ったら、アスカから少し冷めた視線が飛んできた気がした。

 ごめんなさい……

 

 俺たちは、足音に細心の注意を払ってスルスルと前進。

 

 突き当りのT字路に差し掛かり、先頭の谷浦が先の様子を確認した。


『スライム3匹確認。青色無属性が2匹。白色だからおそらく回復が1匹。』


 回復系スライムとは面倒だな。

 早めにつぶさないと、すぐに回復されて時間だけがかかってしまう。

 優先順位は回復が1位で無属性が2位かな。


『虹花さん。私がバフをいっぱいつけますから、回復のスライムをやっちゃってください。その後にケントさんと栄次郎さんが突撃で2匹を押さえる。最後にカレンちゃんとカイリちゃんの魔法でとどめ。それとカレンちゃんとカイリちゃん。これはあくまで訓練でもあるからね~。オーバーキルにならないように調整してくださいね~。』


 カイリを見ると顔を真っ赤にしていた。

 よほど先程の戦闘でオーバーキルしたのが恥ずかしかったのだろうか……


『皆さん準備はいいですか~?』


 虹花さんが弓を構えた状態でスキルを発動し始めた。

 

『命中率よ~~~~。上がれ~~~~~!!』

『スキル【ホークアイ】!!【ピンポイントショット】!!』


 これも新たに発見したことなんだか、声に出さないで念話状態でもスキルが発動したのだ。

 スキルは、別に声に出さなくても発動はする。

 特に魔法が良い例で、わざわざどんな魔法かなんて口にせず、イメージだけで発動が可能だ。

 物理スキルも、声に出す必要があまりないかもしれない。

 しかし、声にしたほうがいい場合もある。

 それが、補助系スキルだ。

 補助系スキルを使用する際は、〝今から誰に何の補助をする〟という風に声に出す。

 すると、イメージも固まりやすく、仲間も今何の補助を貰ったかわかりやすい。

 だが、ここで問題も発生する。

 戦闘前で相手に気付かれていない時、スキルを発動するときに声を出してしまうと、せっかくの隠密行動が不意になってしまう。

 それを解消できるのだから、このスキル【指揮者】はやっぱり壊れスキルだ。


 そうこうしている間に、虹花さんが角から通路に飛び出して、狙いを定める。

 その時間はわずか1秒もかかっていない。

 俺からしたら、出ていった瞬間に矢を放ったようにしか見えなかった。


 放たれた矢は狙いたがわず、回復型スライムの核を撃ち抜いた。

 一瞬にして核を破壊された回復型スライムは液状化して地面に消えていった。


 俺と谷浦はお互いを見合わせて、角から飛び出す。

 そのままの勢いで、2匹の無属性スライムに盾を構えながら突っ込む。


 スキルではないものの、シールドバッシュとかシールドチャージとか言われる技術だ。


 俺たちの勢いに負けて2匹のスライムは後ろへ飛ばされ、べちゃりと音を立てて壁にへばりついていた。

 俺たちとスライムの距離が開いたことを確認したカイリとカレンが、余裕をもってそれぞれの魔法でスライムを撃ち抜いた。

 今回は前回の反省を踏まえてバレット系……単体攻撃用の魔法にしたらしい。

 無駄な爆発は必要ない、という判断だったみたいだ。

 カイリたちも虹花さん同様に、これまた見事に核を撃ち抜いていた。

 どうやら、アスカから支援を受けていたみたいで、命中率が格段に上がったそうだ。

 やはり、支援魔法の効果は抜群に高いな。

 このパーティーの核は、やっぱりアスカなんだろうな。


 少し目を離したすきに、核の壊されたスライム2匹もまた地面に吸い込まれていった。

 いつ見ても不思議な光景だな。


 地面に残された物は魔石(小)が1つとスライムゼリー(青)が2つだった。

 各属性の核が出ないことには収益が心もとないな……


『周囲敵影なし。戦闘終了です。お疲れさまでした~。』


 アスカの声で、俺たちは一旦戦闘状態を解除し、周辺監視体制に移行した。

 すぐに気を抜くと、戦闘音を聞きつけた別のグループのモンスターが奇襲を仕掛けてくることがあるからだけど……

 基本的には、虹花さんとカレンによってそれは皆無になっていた。

 さらにアスカも警戒しているから、ほぼほぼ奇襲されることはなかった。

 

 それにしても、全部一発で倒すとか……俺たちはどれだけ強くなったんだろうか……

 むしろ、俺と谷浦はほとんど戦っていない気もしてきた。

 このパーティーの女性陣は強すぎる気がするな。

 

「カレンちゃんもカイリちゃんも、今回はいい感じに調整できてたね~?」

「私だってやればできるんだから!!」


 アスカが二人をほめると、カイリが胸を張って答えたんだが……

 虹花さんの視線が怖い……


 俺と谷浦はなんだか会話に混ざってはいけない感じた。


 ”俺たちは空気です”

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