038 過去と今

「これが僕……ちがうな、俺の人生だよ。だからかな、人と一定の距離をとるために言葉使いも気を付けていた。がっかりさせたかな?」


 カイリが目に涙を浮かべながら、顔を横に振っていた。

 カレンもアスカも目を真っ赤にしていた。


 谷浦は……よくわからないって顔してる。

 うん、お前はそういうやつだよな。

 虹花さんは、じっとこちらを見つめていた。


「ケントさん、お話してくださりありがとうございます。私たちを信用してくれてのお話だと思います。でも無理はしないでください。少しづつでいいので。ですから、今の家族にも本当のことを話してあげてください。たぶん一番の理解者が今の家族ですから。」


 虹花さんに諭されてしまったな……

 確かにそうかもしれない。

 父さん、母さん、美鈴。

 皆がいてくれたから、こうして生きていられるんだから。

 帰ったらきちんと話そう……


「ありがとう、虹花さん。それと、パーティーの件受けさせてもらうよ。」


 俺の言葉にカイリ達が大喜びしてくれた。

 泣いたり笑ったり忙しいね。


「やった~~~!!またケントさんと探索できる!!」

「カイリちゃんよかったね~。ずっと寂しそうにしてたもんね~?」

「ちょっとアスカ!!それ言わないでよ!!」

「こら二人とも、暴れないの!!すいません皆さん!!」


 この3人を見ていると絶対飽きないと思う。

 心が何だか軽くなった気がした。


「ところで先輩。先輩のスキルで、俺たち強くなれるんですよね?さっそく試してみません?」

「そのことなんだけど、まだ続きがあるんだ。どうやらボーナスポイントが累計200ポイント超えるごとに減少していくみたいなんだ。簡単に言えば、ボーナスポイントの前払いができるって思った方がいいかもしれない。」

「では、ボーナスポイントをどんどんつぎ込んで、それから先へ進むということですか?」


 虹花さんの考えが普通なのかもしれない。

 しかし、それが落とし穴になっているということも事実だ。


「虹花さん、そう簡単ではないんです。例えば倒せそうにない敵と出会ったとします。運良く撤退後、一つランクを下げてレベルを上げる。ボーナスポイントを振って再挑戦。これが基本です。でも、前払いのポイントを振りまくるとそれができなくなります。ですのである程度ボーナスポイントを残しておく必要もあります。このあたりの塩梅をきちんと管理しないと、後々大変になる可能性もあります。そして、まだ検証中ですが、どこまで行けばボーナスポイントが0になるかわからないんです。もしかすると途中から減らなくなるかもしれません。もしかすると、俺のスキルの影響下にあるものだけかもしれません。そこは全くの未知数です。」

「そうですか……。ですが、これからはこの6人でひとつずつ階段を上っていきましょう。まずはケントさんのレベルを10以上にしてランクを上げるか、それとも全員でステータス強化を図るか。どちらかを選択する必要がありますね。」


 そう、虹花さんの指摘が一番の問題だったりする。

 つまり、みんなの生活に直結してくるのだ。

 今まで使っていた狩場が使えなくなってしまう。


 俺一人なら問題ないと思う。

 正直あまり声を大にして言えないけど、ヒモ生活をしているから生活には困らない。

 でも、他のみんなは違う。

 探索者として生計をたてようとしているのだ。

 だから、せめて第5層以下での活動が必要となってくる。

 そうなるとレベル10は確保した方がいいことになる。

 どうしたものか……


「なら、こうはどうですか?確かケントさんはレベル1ですよね?だから全員レベル1にしてレベルを上げ直すんです。そうすればあと100ポイントのボーナス……、ではないですね。おおよそそれくらいは底上げができると思います。」


 カイリが折衷案を出してくれた。

 確かにそれなら問題ないと思う。

 それに俺のレベルを上げるにはその方がいいと思う。


「そうっすね。先輩、ってことでよろしくお願いします!!」


 谷浦の切り替えの早さには驚きしかなかった。

 この切り替えの早さが谷浦らしいと言えばらしいかもしれないな。


「いや、谷浦はレベル1まで落とすのに、自分のスキルでできるだろ?それにその方が2枚目の盾ができる分、効率がいいんじゃないか?」

「あ、確かにそうっすね。じゃあ、どんなのにしよっかな。なんかいい案ないっすか?」


 良い案ね……

 谷浦の今の盾はリビングシールドっていう全自動の防御システムだ。

 なら、その真逆の絶対防御があればかなり安定するかもしれないな。


「谷浦、質問だけどいいか?」

「なんですか?」

「谷浦のスキルだけど、メリットだけを上乗せするのと、デメリットも一緒に上乗せするのだと違いはあるか?」


 俺からの質問に何かを考え込んだ谷浦は、何やら空中を操作し始めた。

 おそらくステータスボードを確認してたんだろう。

 そうか、俺もこんな感じなんだな……

 はたから見たら怪しい人にしか見えない。


「あった。えぇっと、そうっすね。デメリットを加えると、消費レベルが下がって強力になります。そっか、だからリビングシールドは強制的に『脆い』ってデメリットが付いたのか。」


 つまりそういうことらしい。

 メリットとデメリットの天秤で自由に盾を作れる。

 それがこのシールドクリエイトの真骨頂なんだと思う。


「じゃあ、メリットは『強固』。デメリットは『移動阻害』で作ってみてくれるか?おそらくかなり丈夫な盾になると思う。」

「お、良いすね。それならおもしろそうっす。あとは今のレベルが10なんで9を突っ込んでみます。」


 またもステータスボードを操作した谷浦だった。

 しばらくすると、意を決したように操作を終えた谷浦から強い光があふれ出した。

 と、同時にスマホから黒い靄が立ち上り消えていった。

 俺がスキルを創った時と似た状況だ。


「できたっす。えぇっと名前は……【ウォールシールド】。効果は装備中に移動速度が減少する代わりに、パーティーメンバーのダメージをすべて肩代わりするってあるっす。それと、強度はとんでもなくすごいっすよ。なんと……俺のHP依存で、その5倍のダメージまで対応可能だそうです。」


 これまたトンデモナイ盾が完成したもんだ。

 今の状況だとさほど強くはないけど、ボーナスをHP全振りしたらかなりエグイ盾になりそうだ。


「栄次郎……。あなたにピッタリな盾になったわね。それにしても栄次郎の育成方向が完全にHP中心に上げる必要が出て来たわね。」

「たしかに。今のHPが150だから、750までのダメージを肩代わりできるってことか……。ただ、壊れた時に体力とかが低いと一発アウトになるから、そこのバランスもとらないといけないかな……。」


 うん、ちゃんとデメリットも存在していたみたいだ。

 谷浦の指摘通り、壊れた際の問題が大きい。

 特に全体攻撃を受けたときに一気にダメージが蓄積して、オーバーフローだって有り得る。

 それに、今回の盾は9レベル消費で作成されているから、リキャストタイムは9時間。1回の探索で1度使えるってことだな。

 あとはスキルレベルが上がれば、リキャストタイムも短縮できる……


 あれ?もしかして……

 俺のスキルでレベルを上げられる?

 いや、たぶん無理だろう。

 俺のスキルもレベル上げ出来なかったんだ。

 おそらく対象外になる可能性が高い。

 とりあえず、レベルが上がったら試してみるのも一つだな。


「それじゃ~、ケントさん。私たちのスキルもお願いしていいですか~?」


 それから順にみんなのスキルをレベル上げして、全員レベル1にした。


 早いとこレベルを上げて第5層を目指そう……

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