037 信頼の先にあったもの
「どうしたんですか、ケントさん?」
カイリがキョトンとした顔で覗き込んできた。
どうやら僕がいきなり「びくり」としたので心配になったらしい。
「いや、いきなりスキルが進化したんだ……。ちょっと待ってて。」
僕は急いでステータスを確認してみた。
そこにはこれまたご都合主義としか思えないモノが表示されていた……
ーーーーーーーーーー
スキル
ユニーク:スキルクリエイター レベル2(1UP)
スキルアップグレード レベル2(1UP)
スキルカスタマイズ レベル1(NEW)
スキルコンバート レベル1(NEW)
ーーーーーーーーーー
新しいスキルの開放とレベルアップ。
内容を確認してみよう。
うわ。
これってかなりまずいんじゃないか……
ーーーーーーーーーー
スキルクリエイター:自身のレベルを生贄に、新たなスキルを創造できる。ただし、創造するにはその分の代価が必要。自身のレベルが0になる場合は作成できない。必要レベル減少。減少率レベル×10%上限50%
スキルアップグレード:
スキルカスタマイズ:
スキルコンバート:
ーーーーーーーーーー
これはどういうことなんだ?
【スキルクリエイター】は別として僕自身だけじゃなく、他人にまでその影響力を及ぼしてる……
それに、【スキルアップグレード】を仲間に使えば、僕と同じようにステータスを上げることも可能になってくる。
ここまで来たらチートどころの話じゃないんじゃないだろうか。
つまり、〝人そのものの情報を書き変える能力〟といってもの過言じゃない性能じゃないか……
これはどうしたものだ……
どうやら顔に出ていたらしく、周りに居たみんなが心配そうな顔で見つめていた。
僕は慌てて謝り、スキルについて相談してみた。
「なら問題ないですよ~。これでみんないっしょですね~。」
アスカの毒気が抜けるような言葉に、なんだか救われた気がした。
「そうです。ケントさんと同じように強くなれるなら問題ないです。」
「ケントさん一緒に頑張りましょう。」
カレンもカイリも同じように励ましてくれた。
「先輩、これで問題ないですよね?先輩も一緒にパーティー組みましょう。もちろん先輩がリーダーで。」
「そうですね、それがいいです。ケントさんよろしくお願いします。」
「みんな……」
谷浦や虹花さんにまで言われてしまっては、断ることはできそうになかった。
どうしてこうなったんだろうな?
僕はずっと一人でやってきた。
そりゃ、先輩後輩友人はいた。
でも……それでも一人だと思ってきた。
たぶん、肝心なところで人を信用していなかったんだと思う。
だから、いつも一人でやってきたんだと思う。
何故だか涙があふれてきた。
たぶん初めてだったんだ、誰かにここまで信用されたのも……
そして誰かを信用したのも……
家族でさへ本当の意味で信用していなかった。
ただ、「僕」を信用してくれる人が……
「俺」も信用してくるとは限らない……
良いのかな……
もう……
そろそろいいよね……「親父」「おふくろ」
「あ、そうか、そういうことだったのか……」
そして唐突に理解した。
どうしてこのスキルなのか。
どうして信頼できる仲間の存在がトリガーになったのか。
スキルとは〝己の潜在意識の具現化〟だったのかもしれない。
他人を信じていなかったから、孤独になるスキルになってしまったのだろう。
そして、他人を信用したからこそ、スキルが正しく定まった。
そう、この『クリエイト系スキル』は自称神の権能の一部だ。
そして、与えられた権能は『スキル創造』。
最初に全世界の生物に与えられたスキル。
それの基礎になった権能だ。
でも、なぜこのスキルを得ることになったのか……
どういった基準で選ばれたのかはわからない。
ただ、ろくでもないことであることは間違いないと思う。
それと、谷浦のシールドクリエイトはおそらく『物質創造』の権能の一部だ。
おそらく物質創造のほかにも『生物創造』も存在しているはずだ。
何となくだけど、知識が流れ込んできているのがわかる。
あぁ、ほんとどうしたもんかな……
これって物語の主人公的立ち位置の人がいる場所でしょうに。
「先輩?」
谷浦の声で現実に戻った僕は、みんなに打ち明けることにした。
「僕」という俺の事を。
俺の親父は病気で死んでしまった。
当時5歳だった俺は何となくだけど、親父のことを覚えている程度だ。
残された俺とおふくろは、親父の生命保険で何とか生活していけていた。
質の悪い親父の親戚がやってくるまでは。
人の良いおふくろは、その親戚に何度か金を融通していたらしい。
そのせいで、生活がどんどん苦しくなり、おふくろは夜も働きに出ていた。
俺が7歳を迎えたこと、とうとうおふくろも体調を崩し始めた。
それでも俺を養うために必死で働き続けた。
俺が8歳の誕生日の時、おふくろが死んでしまった。
仕事の帰りにケーキ屋で俺の誕生日ケーキを買った帰りだった。
交差点を渡っているときに信号無視の車にひかれたそうだ。
犯人は捕まらなかった。
おふくろも生命保険に入っていてくれたらしく、それなりの金額が俺の元へとやってきた。
そう、もれなくついてくる質の悪い親戚とともに。
それからが大変だった。
その親戚は今度は俺を養子にすると言い出したのだ。
目的はもちろんおふくろの生命保険。
俺は拒絶した。
おふくろを追い詰める結果になった張本人の元に、なぜいかなければならないのか。
俺は12歳になるまで施設で過ごした。
正直これでよかったと思う。
寂しくはあるけど、後悔はない。
あんな親戚とも思えない屑野郎達の側にはいたくなかった。
小学校を卒業するころ、里親として手を挙げてくれたのが今の父さんと母さんだ。
おふくろの妹で、どうやらずっと相談を受けていたみたいだった。
俺のおかれている環境も知っていたみたいで、親父方の親戚を追い払ってくれた。
そして俺は「中村」の性を名乗ることになった。
「いらっしゃい、剣斗。ここがお前の新しい家だ。そして俺たちが新しい家族だ。」
父さんの優しく力強い声がうれしかった。
これが父親なんだなって思えた。
「おにい……ちゃん?おにいちゃん?おにいちゃん!!やった~~!!みすずにもおにいちゃんができた~~~!!」
俺に妹ができた。
その元気いっぱいの声に救われた。
そうか、これが兄妹か……
「そうね、美鈴のお兄ちゃんね。ケント君……違うわね。ケント……おかえりなさい。姉さんの代わりとはいかないけど、あなたを全力で愛していくわ。嫌とは言わせないわよ?」
母さんの愛情がとてもとても大きかった。
これが家族なんだ……
だけど、俺は思ってしまった。
ここを追い出されたら俺は生きていけないと。
良い子でいなきゃいけないと……
それがきっと間違えだったのかもしれない。
「ただいま、お母さん。『僕』は剣斗。『中村 剣斗』です。」
ここから『僕』の人生が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます