039 仲間と家族と……
パーティー全員のレベルが1になったんだけど、その過程で問題が発生した。
【スキルコンバート】と【スキルカスタマイズ】だ。
この二つのスキルは、どう使っていいか解かりづらい。
おそらく探索を進めていく上で、手に入れたスキルが自身のスタイルに合わなかった場合、自分に合わせて調整することで真価を発揮するのだと思う。
ただ、スキルをまさか使いやすくじゃなくてピーキーにするとは思わなかった。
カレンが覚えたスキル【コンセントレート】は、魔法発動に時間をかけると威力が上がるっていうものだ。
要するに、魔法発動待機状態で集中し続けると、SP消費と引き換えに魔法の威力を上げてくれるらしい。
しかし、カレン的にはこのままのコンセントレーションでは切り札になりえないと考えたらしい。
そこで、【スキルカスタマイズ】の出番であった。
あえてデメリットを追加すことで、威力を底上げしたいと言ってきたのだ。
これは、谷浦のシールドクリエイトで発見したことが起因しているんだと思う。
さすがにそこまで出来る解からなかったので、とりあえず試してみた。
元の性能はこれだ。
コンセントレート:魔法発動時により多くの集中を行うことで威力を底上げする。威力上昇率 チャージ秒×(レベル×1%)SP:1/秒。
これ自体結構性能は悪くないと思う。
むしろ前衛が完全に抑え込める人だった場合は、魔法職としてほしいと思う人がいてもおかしくない性能だ。
ただカレン曰く、瞬間的に威力を底上げしたいとのことだった。
で、結果はこうなった。
コンセントレート:魔法発動時により多くの集中を行うことで威力を底上げする。威力上昇率 チャージ秒×(レベル×5%)SP:5/秒。
思いのほか調整が効くものだった。
メリットは瞬間火力の大幅増。
デメリットは消費SPの大幅増。
つまり、スキルレベル1の状態で3秒チャージすると、15%威力増加でSP:15消費することになる。
今はスキルレベル1まで下がったけど、レベル1上がる事に威力が5%上がると考えるとかなり驚異的になる。
レベル10だったら秒単位で50%アップってえげつない威力になる計算になるんだよな。
おそらくほかにもデメリットを盛ればメリットが跳ね上がるけど、今はこのままでいいとのことだった。
とりあえず使ってみてダメならまたカスタマイズすればいいと、カレンはあっけらかんとしていた。
他のメンバーは特に今は不自由がないということなので、スキルはそのままにした。
谷浦がレベル15から5レベルに低下して、その後10レベルまで戻しまたレベル1に落ちた。
ボーナスポイントの総計は190ポイント。
虹花さんはレベル16からレベル1へ。
ボーナスポイントの総計は150ポイント。
カイリ達はそろってレベル15からレベル1へ。
ボーナスポイントの総計は140ポイント。
全員がレベル10まで行けばそれなりにポイントはたまるはずだ。
それでもきちんと役に立つスキルを増やしたのだから、これから頑張ってレベル上げを進めていけば問題ない。
「ケントさん。なんだか体が重いですね。」
「ちょっとだるいですねぇ~。でも、気にしなければ問題ないかなって感じですねぇ~」
「先輩。この感じ懐かしいですね。」
カイリとアスカと谷浦はそれぞれ感想を述べていた。
アスカに至っては結局気にしていない感じが伝わってきた。
うん、さすがアスカだね。
そんな3人をよそに虹花さんとカレンは何やらいろいろ試していた。
動きだったり、スキルだったり。
今自分に何が出来て、何ができないのか。
一つ一つ丁寧に確認しているみたいだ。
頼りになる二人がいて本当に助かる。
これで準備は完了だ。
また一から出直す感じがなんとも言えなかった。
だけど今はそれについて不安は全くなかった。
仲間がいるということがこれほど心強いとは夢にも思わなかった。
ソロで頑張ってもいずれ限界が来る。
だから今はみんなと一緒に強くなりたいと思えた。
今日はすでに遅いので、明日から再度レベル上げになる。
これからステータスをどう成長させるか……
ソロではなくパーティーとしての成長を考えないといけないかもしれないな。
「それじゃあ明日から改めてよろしく。朝9時から俺たちの再スタートだ。」
「はい!!がんばりましょうケントさん!!」
カイリの元気な声がブリーフィングルームに響く。
その気合の入り方にみんながにやにやと笑みを浮かべていた。
それに気が付いたカイリは、顔を紅潮させてうつむいていた。
皆とは明日の9時に待合室で集合とし、今日は解散となった。
って言っても結局みんなで市役所までバスでの移動なんだけど。
市役所でみんなと別れた俺は、一路自宅へと帰ったのだった。
ただ、足取りは正直重かった。
虹花さんからも言われたけど、本当のことを
まさか、10歳近く年下から諭されるとは思いもよらなかったけど。
プルルルル
自宅への帰り道、不意にスマホに着信があった。
カイリからだ。
何か問題でも発生したのか?
シンの件もあるからな……
ピッ
『もしもし中村です。』
『ケントさん、こんばんはです。えっと、なんて言ったらいいか……。今日はありがとうございました。私、ケントさんと探索できるの楽しみで……。だからその……、ええっと……』
『落ちついて。俺の方こそありがとう。このスキルのせいで他人とパーティーを組むのを諦めてたから。だから言わせてほしい。本当にありがとう。カイリや皆が居てくれなかったら俺はいまだにソロでダンジョンアタックをしてたと思う。命を天秤に乗せて。』
『ケントさん……。明日の探索頑張りましょう!!それと、ご家族の事、無理しないでくださいね。私はケントさんを信じてますから。じゃあ、おやすみなさい!!』
プープープー
うん、そんなに慌てて電話切らなくてもいいのに……
でも、まぁ。勇気はもらった。
みんなからも勇気をもらった。
だから父さんと、母さん、美鈴ときちんと話をしよう。
そしてきちんと伝えよう。
「ごめんなさい」と「ありがとう」って。
そしてきちんと話そう。
俺の思いを。
自宅に着くと父さんの車が停まっていた。
どうやら今日は早めに帰ってきたみたいだ。
ガチャ
玄関ドアを開けると、いつもの光景が広がっていた。
決して広いとは言えない玄関ホール。
靴箱の上にある意味の分からない置物。
傘立ての壊れかけたビニール傘。
いつも片付けるように言っている美鈴の探索用のブーツ。
どれもこれも俺の日常だった。
当たり前がそこにあった。
ガチャ
「ただいま」
リビングのドアを開けると、いつもの光景が目に飛び込む。
ソファーに座って新聞を読む父さん。
キッチンで鼻歌交じりで料理を作る母さん。
リビングの椅子に座ってタブレットをいじってる美鈴。
「「「おかえり」」」
その言葉がうれしかった。
俺の〝家族〟はここにいるんだ。
ここが俺の〝家〟なんだ。
そうか、そうなんだ……
ずっとわかってたことだったんだな。
それを俺が分からないふりをしていただけだったんだ。
ふと、頬を伝う暖かなものを感じた。
きっといろんなものが溢れたんだと思う。
「あのさ、ちょっと大事な話が有るんだ。聞いてくれるかな?」
「お、ケントからまじめな話なんて珍しいな。」
父さんはどこか嬉しそうにしていた。
「そうね、ケントからの話なんていつぶりかしら?」
母さんのほんわかとした空気がとても心地よかった。
「え?彼女出来たの?!」
美鈴……空気読もうか?
そして俺は初めて〝家族〟に話をした。
そして、今日改めて〝家族〟になったのかもしれない。
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