034 これじゃない……からのマジ話

「せんぱ~~~~い!!お久しぶりです!!今どこ潜ってるんですか?今度一緒に行きません?あ、なな姉ちゃんにも聞かないと。あそうだ、先輩。俺前のパーティー抜けました。今度いろいろ相談に乗ってもらえませんか?ソロの探索者の先輩ですから。」

「こら!!またすぐにどっか行くんだから!!って、あれ?ケントさんじゃないですか?お久しぶりです。最近訓練施設のダンジョンでお見掛けしないので心配してたんですよ?」


 うん、一瞬お前じゃない感が漂ってしまった。

 虹花さんもいるからよしとしておこう。


 ん?そういえば何か重要なこと言ってなかったかな?


「谷浦、なんかさらっと重要なこと言ってなかったか?」

「ん?あぁ、あれっすね。パーティー抜けました。理由はなな姉ちゃんには話して納得してもらいました。で、先輩にも聞いてほしいんです。時間作れませんか?」


 いつになく真剣気味な言葉に少し驚いてしまった。

 近くにいる虹花さんも聞いてほしいという感じに見える。


「それは構わないよ。今からでもいいかい?」

「もちろんっす!!近くの喫茶店にでも入りましょう。」


ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 カランコロン


 店内に鐘の音が響く。


 ここは『喫茶 雫』。

 知る人ぞ知る名店だ。

 ここのマスターは寡黙で、あまり話をしたがらない。

 だがそれでいい……それがいい……

 ここは静かにコーヒーを嗜む、大人の空間だ。

 微かに流れるジャズレコード。

 仄かに漂うコーヒーの焙煎臭。

 何よりも椅子やテーブルの僅かに軋む音。

 何もかもが私のすべてを癒していく。



 

 そんな……そんな空間が、今まさに汚されていく!!

 何だあの集団は!!

 ガヤガヤと煩い!!


 時折聞こえる笑い声が、また癇に障る!!

 くそ!!

 私の大事な時間を邪魔してくれるな!!


 私はさすがに我慢できなくなり、その集団を……

 無視して、店を出た。

 うん、あれは絶対探索者だ。

 関わるべきではない……


 また明日来るとしよう。


 そうここは私の憩いの場所。

 大切な空間なんだ。


パシッ!!


「ねぇ、おじさん。ちゃんとお金払おうよ?」

「なんだね君は!!放したまえ!!無礼じゃないか!!私を誰だと思っているん!!」


 さっき騒いでいた若者だ。

 何故、私が捕まらねばならないのだ。

 騒いだ貴様らが悪いのではないか!!


「マスターに頼まれまして。あなた、無銭飲食の常習犯なんだそうですね?このまま拘束させていただきますね。」

「は、放したまえ!!私は知らん!!そうだ、貴様らが悪いのではないか!!貴様らが騒いだせいで私の大事な時間が台無しになったのだ!!そうだ!!貴様らが払えばいいではないか!!それなら問題はあるまい!!」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 しばらくしてサイレンが鳴り響いた。

 現場は騒然とし物々しい雰囲気に包まれていた。

 つかまった無銭飲食の犯人は、年齢60歳、住所不定無職だった。

 どうやら、住んでいたアパートがダンジョンと化してしまい、住む場所が無くなったそうだ。

 国から賠償金が出たが、大家が全額奪い姿をくらませたそうだ。

 無一文で寒空に追い出された男性は、仕方なしに路上生活をし、今に至ったそうだ。

 僕もそうなっていた可能性があり、明日は我が身と思ってしまった。



カランコロン


「迷惑をかけたね。助かったよ。あいつは二週間くらい前から無銭飲食を繰り返していてね。しまいには、ほかの客が騒いだせいでまずくなった。賠償しろ!!と言って騒ぎ出していたんだ。なんにせよ、これで少しは静かになる。ありがとう。そうだ、今日のお代はこちらでもとう。うまいコーヒーを楽しんでいってほしい。」


 渋いマスターから、ありがたくもお礼を貰ってしまった。

 僕たち的には大したことをしたつもりはなかったんだけど、無碍にするのもあれなのでお言葉に甘えることにした。


 「うまい」ついそう言ってしまう一杯だった。


 少し落ち着いて、谷浦から話が有った。

 それは谷浦のユニークスキルについてだった。


「先輩。何から話せばいいかなんですが……。俺……ユニークスキルを手に入れたんです。スキル名は【シールドクリエイト】。効果は自分のレベルを生贄に、自分が望む効果の盾を作り出せる。ただし、効果は生贄に比例する。」


 これは……なんと言っていいのか……

 僕と同じだった。

 僕がスキル全体に対して、谷浦は盾限定だった。

 だけど、犠牲にしているものは同じレベル。


「このスキルが手に入ったのは第5層で『イレギュラー』に遭遇した時で、俺……。必死だったんです。だから、頭の中に声が聞こえたとき、後先考えず承諾してしまって……。気が付いたらレベル10を消費してリビングシールドっていう盾を作ってました。この盾あまり堅くはないんですが、オートで俺の周りをガードしてくれるんです。」


 めっちゃチートだった。

 それどこのニュータイプですか?


「でも、欠点もあって。レベル10で作成した盾が壊れた場合はレベル×1時間のリキャストタイムが発生するんです。その時はこれのおかげで逃げ出せたんです。でもそれからが大変でした。俺ってタンク役だったんで、前衛で死守してたんですけど、下手するとゴブリンにすら吹っ飛ばされちゃって。周りからは白い目で見られるは、蔭口たたかれるはで居づらくなっちゃったんですよね。」


 僕と同じだった。

 レベルの減少は、それほどまでに大きいのだ。

 僕の場合はスキルを取りまくって、ボーナスポイントでステータスを稼ぐことができた。

 でも谷浦はそうはいかなかった。

 ストックできる数に限界があるそうなのだ。

 谷浦曰く、スキルレベル=ストック数。

 スキルレベルは6まで上がったそうなので、残り5枠。

 しかも、スキル的には大量のレベルを犠牲にしたほうが効果的だったりする。

 明らかに、僕よりも質の悪いスキルかもしれないな……


「そうか……。とりあえず今は虹花さんと二人で潜ってる感じかい?」

「はい。このスキルの事を考えると、なかなか組める人がいなんで。俺はまだなな姉ちゃんがいるから腐らずに続けていられます。」


 本当にそうだね。

 理解者がいるから続けられるのはあると思う。

 そうか……タンクか。

 虹花さんが遠距離物理職だから、あとは魔法職がいれば安定するな……

 ん?どっかで聞いたことないかな?

 タンクと遠距離物理職に斥候……


 あ、カイリ達にピッタリじゃないか!!

 でも、レベル減少について結局は話さないと話が進まないか……


「ところで谷浦。そのスキルについて誰かに話したりしたのか?」

「今のところ、元メンバーとなな姉ちゃんと先輩だけです。さすがにかなり意味不明なスキルですからね。ただ、その他のスキルは普通にレベル上がりますから、このスキルを今後使わないって考えると、ごく普通の探索者って感じですよ。」


 確かにそうだ。

 僕みたいに、スキルレベルすら上がらないとは違うんだった。

 シールドクリエイトさえ使わないといいんだから。

 あとは、当人たちの了承が得られれば、パーティーとしては成立しそうだ。


「なぁ、谷浦。紹介できそうな魔法職3名いるんだけど、またパーティーを組む気あるかい?」

「ん~ん。どうでしょう。この先探索者を続けるとなると、パーティーは必須ですから考えないといけないですけど。なな姉ちゃんはどう思う?」

「そうね。私たちに不足している部分で考えるといい話ではあるわ。でも、そうなると栄次郎のスキルを話さないわけにはいかないわよ?」


 結果そこに行きついてしまう。

 きっとこのクリエイト系のスキルは、そういった問題に直面していくことになるんだと思う。

 本当に自称神は、いらないスキルを配ってくれたもんだよ。


「よし!!先輩、話通してもらっていいですか?その3人と話してから決めたいと思います。まあ、相手方が組んでくれるとは限らないですけど。」

「私からもお願いします。」


 珍しくまじめな谷浦に、若干違和感を覚えながらもこの話を進めるとこにした。

 谷浦なら大丈夫だろう。軽薄そうだけど中身はしっかりしてるし、何より虹花さんがリードを握ってるから。


 僕はすぐに連絡を取ることにした。

 

プルルルル、プルルルル。

ガチャ


『あ、ケントさん。急にどうしたんですか?』

『もしもし、カイリさん?お久しぶりです。今時間大丈夫ですか?』

『はい。何かありましたか?』

『そうですね、ちょっとご相談があったもので。ところで、今はダンジョンへは行ってますか?』

『はい、今は違う初級ダンジョンへ行っています。魔法職3人だと、物理系ダンジョンが厳しいので、魔法弱点のダンジョンをSNSで探して、今はそこを中心にレベル上げをしてます。』

『そうですか。それじゃあ、時間をかけても仕方がないので、単刀直入にお話します。カイリさんたちに紹介したい人達がいます。お時間を作っていただけませんか?』

『……、いいですよ。ケントさんの頼みですから。それじゃあ、二人には私から話を通します。時間ですけど……どうしましょうか?連絡取れればこれからでも会えますよ?』

『ちょっと待ってもらっていい?確認するから。』


「虹花さん、この後って時間ありますか?問題なければすぐに会えるそうなんですが。」

「ではお願いしてもいいですか?私たちは問題ありませんので。」


『カイリさん。それじゃあ、お願いしてもいいですか?今日の午後3時に訓練施設ブリーフィングルームを押さえますので。』

『わかりました。とりあえず何の話かだけ教えてください。』

『僕の知人がパーティーメンバーを探していたので、声をかけた次第です。』

『わかりました。じゃあ、二人にもそう伝えます。』


ピッ


「お待たせ。じゃあ、今日の午後3時に会える段取りをつけたから、それまでは自由にしてていいですよ。時間になったら訓練施設の受付カウンターへ行ってください。僕の方で場所を確保しますから。」


 僕たちは喫茶店で別れ、僕はその足で訓練施設へと向かったのだった。

 まさかもう一波乱あるとは思いもせずに……

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