第6話

十年の月日が流れた。



突然屋敷の使用人が執務室に駆け込んできた。その使用人の表情には驚愕と興奮が入り混じっていた。


「伯爵様!リゼ様が…リゼ様が生きています!」


その言葉が耳に届くと同時に、エドワードの体に雷を受けたような衝撃が走った。

彼は信じられない気持ちで使用人の言葉を聞き返す。


「なんだと?それは本当か?」


使用人は深く頷き、持って来た手紙を渡した。

それはリゼから送られたもので、消印は昨日になっていた。


確かに手紙はリゼの字で、彼女しか知り得ないような内容が書かれていた。

エドワードの心は震え、感動と再会への期待で高鳴っていた。



_________エドワード様__________



この手紙を読まれたら、きっと貴方は、とても驚かれると思います。


私は貴方を騙しました。


あの時、私は自分が死んだことにして、伯爵家から逃げ出す選択をしました。

御存じだとは思いますが、当時屋敷の使用人達から、私は酷い扱いを受けていました。


貴方を愛する気持ちがあり、当時は自分で行動を起こさず、貴方に、屋敷の者たちから虐げられていた事実を話すことができませんでした。


現在は国を出て、隣国で新しく国籍を取得し、そこの国民として暮らしています。


先日、故郷へ帰り、父からエドワード様が屋敷の使用人達を追い出し、罰を与えたことを聞きました。

そして、今は独りだということも知りました。


久しぶりにお会いできたらと思っています。


報告したいこともございます。


連絡をいただけたらありがたく思います。



                             

                        リゼ



_______________________________






エドワードはリゼが亡くなった後、屋敷の使用人達を一掃していた。

今いる使用人は、新しく雇い入れた者と、リゼとは接触していない古参の使用人だけだった。

彼女を失ってから、エドワードは後継者を作るために二人の妻を迎えた。

けれど、何人妻を迎えたとしても、リゼ以上に愛する相手には巡り合えなかった。


その後、妻たちとは離婚し、現在、彼は独身の生活に戻っている。


リゼが生きていたという吉報に、エドワードは驚き、大粒の涙を流して喜んだ。そして、まだ自分が彼女を愛していることに気が付いた。

どうか、会って当時のことを謝りたい。

エドワードはリゼからの手紙を涙に濡れた手で握りしめた。




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