第5話
棺の蓋は固く閉じられていた。
けれど、棺は見たが、中に入っているリゼの姿は誰も見ていなかった。
棺の蓋はしっかり閉まっていたので、リゼの顔を見ることはできなかったのだ。
深く掘られた穴の中に、ゆっくりと棺が入れられる。
花束が上に置かれて、重たい土が被せられていった。
リゼの死を悼む人々のすすり泣く声が辺りに響いていた。
その様子を、じっと見ているひとりの女性がいた。
彼女は黒いベールで顔を隠し、誰にも気づかれないように木の陰に立っていた。
エドワードが、深い悲しみの中でリゼの棺に最後の別れを告げていたとき。
リゼは木々の後ろから、静かに彼の姿を見つめていた。
***
死んだと思われていたリゼは生きていた。
棺の中は空っぽだったのだ。
リゼの父親の男爵と、男爵家の一部の使用人たちによって彼女は隠されていた。
早朝、汽車が駅に着いたとき、リゼには意識がなかった。
そのまま男爵家に運ばれて医者が呼ばれた。
そして、彼女は一命を取り留めた。
事情を聞いた父親は、信頼できる医者と結託し、リゼの死を偽装することを決意した。
リゼはエドワードを心から愛していて、屋敷の者にどんなに虐げられても、自分は彼の元に戻るだろうと考えていた。
しかし、医者の診断を聞き事情が大きく変わった。
なぜなら、リゼのお腹には新しい命が宿っていたからだった。
リゼは伯爵よりも大切な、守るべき命を授かったのだ。
リゼは妊娠を知ったと同時に、使用人たちの虐待から逃れるため、父親が提案する大胆な計画に乗った。
それは男爵家が管理する、領民たちも巻き込む大きな賭けだった。
リゼは、自分と子どもの命を守るため、自分の死を偽装した後、完全に新しい人物として生きる計画を立てた。
彼女は新たな希望を得るために、困難を乗り越え未来に向かって歩み始めたのだ。
***
ハッサル男爵家はかつて、幅広く輸入業を営んでいた。
リゼの家族は、外国から珍しい品々を取り寄せ、商売をし、裕福な暮らしを送っていた。しかし、時代の波に飲まれ、家業は衰退していった。
今はもう船を出すほど、その仕事に固執しているわけではなかった。
しかし男爵の古い友人たちは、今でも外国で商会を営んでいる者も多い。
男爵は知り合いのつてを頼りに、リゼの渡航を可能にした。
リゼは髪を染め、身分証明書を偽造し、新しい名前と背景を持つ別人として生きる準備を整えた。
彼女は自分の過去を完全に消し、隣国へと移り住んだ。
リゼは、父親の古いネットワークを活かし、彼の友人である商人の助けを借りて、新たな生活を始めた。
異国の文化や言葉に戸惑いながらも、彼女は強い意志で前に進んだ。
リゼは持ち前の知識と才能を活かし、新たな商取引を開拓していった。
彼女は新しい人生の中で、愛する子どもを育てながら、異国の商人たちと交渉し、再び家業を復活させるために全力を尽くした。
そして彼女の努力は実を結び、再び成功を手にすることができた。
リゼは異国での生活を通じて強く成長し、自らの運命を切り開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。