第4話
「なぜ、リゼを駅まで送らなかった?」
屋敷の御者を呼びつけ、エドワードは事情を聞いた。
「その……辻馬車を拾うと言われたので、大丈夫だと思いました」
「彼女が、馬車を拾うと言ったのか?」
「そうで……す」
目を伏せて話す御者の態度は、嘘をついている者のそれだった。
「馬車に乗る金など彼女は持っていなかった。雪が降っていたのに、お前は馬車を出さなかったのか」
「辻馬車を……申し訳ありません」
御者は土下座して謝った。
門衛も同じようなことを言った。皆、言うことは一緒だった。
「リゼがそう言ったから、リゼが必要ないと言ったから?リゼが我儘だったから。リゼに嫌がらせをされたから?」
死人に口なしとはよく言ったものだ。どれも信じがたい内容ばかりだった。
エドワードは使用人達を全員広間に集めた。
「これから、一人ずつ個別に話を聞く。万が一、お前たちが嘘をついていて、話の内容が合致しなければ……分かっているだろうな?首を覚悟してもらうぞ」
誰もが口を固く結び、一言も発しない。使用人たちの中で口裏合わせが行われているのだろうとエドワードは感じた。
「誰かが裏切って真実を話せば、お前たちの協定など、すぐにほころびが出るぞ」
それを聞いて執事が前へ出てきた。
「旦那様は、古くからこちらで働いている私共を信じられないのでしょうか」
メイド長も頷きながら声をあげた。
「そうです。奥様は1年前に来たばかりの方です」
「もうお亡くなりになられているので、真実など分からないでしょう」
「あくまで、嘘をついているのならということだ。真実を話しているのなら問題なかろう。もし真実でないなら、首だけでは済まされない。言っておくが、後から嘘がバレたら、投獄される可能性もあるからな」
「そ、そんな……」
若いメイドたちが青ざめて震えだした。
エドワードは冷ややかに、けれど当主として厳格な態度で皆に告げた。
「ただし、一番先に正直に話した者一人だけは、罪に問わない」
「一人だけ……」
その言葉に、ハッとして顔を上げた掃除メイドが話し出した。
「伯爵様、私はただ命令に従っていただけです。リゼ様を無視するように言われていました。私自身も心苦しかったのですが、仕方がなかったのです」
「誰の命令だった?」
「それは……」
「メイド長です!」
「な、何を言うの!嘘ですわ」
焦ったメイド長が、その者を睨みつけた。
「私は、洗濯物を奥様に押し付けました。先輩メイドから言われたので」
「伯爵様、私は他の使用人たちが奥様を厳しく扱うのを見て、私も同じようにしなければならないと思ってしまいました」
「奥様のブローチを売りに出しました。事務官がやっていたので真似をしただけです」
「わ、私は!メイド長に言われて、奥様にカビたパンを出していました。今となっては後悔しています」
「旦那様と会わせないように、奥様を閉じ込めました。執事長に言われてのことです」
次々と信じられない証言が出てきた。皆が互いに罪をなすりつけ、責任逃れしようとしていた。
エドワードは心の奥から怒りが湧き上がった。
エドワードは低く抑えた声で、威圧的に言葉を発した。
「リゼは死んだ。過労と、睡眠不足と、栄養失調で汽車の中で死んだんだ。言っておくがこれは殺人だ。そして、殺したのはお前たちだ」
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