第3話

屋敷へ戻ると、使用人たちが揃ってエドワードを出迎えた。

皆辛そうな顔をしている。

エドワードは迎えに出てきたメイド長と執事に言った。


「リゼの部屋へ行く」

「え……」

「いえ、少し待って下さい。帰られたばかりですので、お茶を……」


使用人たちが止めようとするその手を振り払い、エドワードは真っ直ぐリゼの部屋へ向かった。


リゼの部屋には、装飾品や贅沢品は一切なく、彼女の生活がいかに質素であったかが伺えた。床には、薄いカーペットが敷かれていたが、ところどころに穴が開いており、寒さが足元から忍び寄ってきそうなほど粗末だった。


部屋の片隅には、小さな暖炉があったが、あきらかに薪が不足している。

十分な暖かさを保つことはできなかっただろう。


エドワードは彼女のクローゼットまで歩いていき、その扉を開けた。

せめて、彼女のクローゼットの中がドレスや装飾品で溢れていて欲しいと願ったが、その望みは叶えられなかった。


「なぜ彼女のクローゼットにこれだけしか服がない?新しく買った物は1着もないではないか」


使用人ですらもっと服を持っているだろうと思われるほど、スカスカで寂しいクローゼットだった。


「そ、それは、奥様があまり服を購入する方ではなかったので、入っていないだけです」


「実家に持って帰られたのではないでしょうか……」


使用人たちは明らかにエドワードに嘘をついていた。

信じていた相手から裏切られ、まるで足元から崩れ落ちるような絶望感が押し寄せる。



「予算は使われていたであろう。何に使っていたのか……帳簿を持ってこい」


彼女のベッドにも、薄い上掛けがあるだけで、それもかなり使い込まれたものだった。真冬だというのに、このような寝具では眠れなかっただろうと思った。


「なぜ、伯爵夫人である妻が、このような粗末な夜具で眠っているのだ?担当のメイドは誰だ!」


「……」


エドワードの質問に答える者はいなかった。


「おい!そこのメイド、答えろ。言葉を忘れたのか」


若いメイドは震えながら小さな声で話した。


「奥様の……担当のメイドはいませんでした……」


メイド長が横から説明した。


「奥様は、ご自分のことはご自分でされますので、メイドは固定して付けてはいませんでした。皆で代わる代わるお世話をさせて頂いておりました」


「夫人に専属のメイドがつかないなど、聞いたこともない。勝手に判断したのはメイド長か!それとも執事か!」


エドワードはリゼが使っていた机の引き出しを開けた。

丁寧に仕事の仕方を記したノートが出てきたが、彼が彼女に執務を手伝わせたことは一度もなかった。


「何故仕事の内容を書いた物が出てくるのだ」


内容はほとんど執務関係で、これは彼が事務官や執事に任せた仕事だった。


他のノートにはリゼが縫った靴下のことや、食事の内容が書かれている物もあった。

『珍しく白パンが食べられた。嬉しかった』という文字を見たときには怒りを通り越して、吐き気がした。


「白パンでなければ、リゼはどんなパンを食べていたのだ?」


誰も何も言わなかった。ノートを持つエドワードの手が震えた。

他には使用人達から言われたことや、守らなければならない屋敷での振る舞いについて書いてあった。

『外出時は通用門を使うこと。使用人を呼ぶときは声を出さずに視線で知らせること』

だが、屋敷にそんなしきたりなどあるはずがない。


「私の食事中には、食堂へ来るな?夜会へは体調不良を理由に出席するな?言葉は三語以上話すな……だと?」


彼女が受けていたこの屋敷での虐待まがいの冷遇を、エドワードは彼女が記したノートで知ることとなった。


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