第2話
その知らせは三日後に伯爵家へ伝えられた。
知らせを受け、エドワードは急いでリゼの故郷へと向かった。
何故急にそんなことになったのか。信じられない気持ちで、彼は汽車に乗り込んだ。
リゼの実家までは一日かかる。とにかく少しでも早く、リゼに会いたいとエドワードは思った。
彼が到着したときには、棺に納められたリゼの亡骸が埋葬されるところだった。エドワードの胸は締め付けられる思いだった。
彼はゆっくりと棺に近づき、深くお辞儀をして頭を垂れた。
「いったいなぜ……」
いつの間にか妻がこの世を去ってしまった。エドワードは彼女を思いながら涙を流した。
エドワードを見ると、恥ずかしそうに頬を赤らめるリゼ、その顔をもう見られないなんて信じられなかった。
彼は手を伸ばし、棺の縁にそっと触れた。その冷たい感触が、彼女がもうこの世にいないことを現実として突きつけた。
「突然死ではなく、疲労と、栄養失調による死だったようです」
リゼの父親であるハッサル男爵がエドワードの横へ立ち、低い声で呟いた。
「栄養……」
「ここにいた頃より、10キロは痩せていました。髪も肌もボロボロで、薄いコート一枚だけの粗末な服で帰ってきました」
「そ、そんなはずは……」
エドワードは驚いて、男爵が話す言葉を聞いた。
「同じ汽車に乗り合わせた客が、駅まで歩いてきたと言っていたと話してくれました」
「歩いて?」
男爵は頷いた。
「寝不足で三日ほど睡眠をとっていないからと話して、リゼは目を閉じたということです」
何故眠っていなかったのだ。エドワードには意味が分からなかった。
久しぶりに故郷へ帰りたいと申し出たのはリゼだと聞いていた。
「帰郷することは決まっていたので、屋敷の者が馬車で駅まで送って行ったはずです」
「見ましたか?」
「え?」
「リゼが馬車に乗るところを、伯爵はご覧になりましたか?」
いいや、無事に出て行ったという報告を侍従から受けただけだった。
エドワードはゆっくりと首を横に振った。
男爵はリゼの持ち物ですとエドワードの前に鞄を置いた。
中には着替えが数着入っていた。どれも嫁入り前に着ていた物だった。
「リゼが持っていたお金です」
小さな袋の中にはコインが数枚だけ入っていた。汽車賃を支払ったらほとんど残らなかったようだった。
「そんな馬鹿な、彼女には十分予算を渡していたはずだ」
「見ましたか?」
「え……」
「リゼが、お金を受け取っているところを伯爵は見ましたか?」
エドワードは直接は見ていない。
しかしメイド長から、何の問題もなく過ごしていると聞いていた。
「こんなことになるのなら、嫁になど行かせなければ良かった」
男爵は悔しそうに奥歯を噛み締め、目からは涙がこぼれた。
(いったいどういうことだ。何が起きているんだ)
エドワードはため息をつき、胸が詰まるような感覚に、目を閉じて激しく頭を振った。
悲しみよりも苦しい思いが込み上げ、立ってはいられなくなった。
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