第5話 流れがコロコロ変わっていく~
「ふっふ~、なんか楽しくなってきたぁ!
妖精の特性に毒され始めた蓮飛は、杖をやたらめったらに振りながら叫んだ。
放たれる閃光が、次々と細やかな悪戯をプレゼントしていく。
それを受け取った者達からあがる驚嘆や悲鳴に、蓮飛の心は益々高ぶった。
「そろそろ、もっと大きな事やってみっかな~!」
「蓮飛!」
ニヤリと口角を歪めて紡いだ思惑に、海里の怒声が重なる。
そちらを見ると、ぬいぐるみ姿の海里が自分を睨めつけていた。ぬいぐるみ故に、表情はカチリと固まったままだが。
「これ以上、低脳な事をやるな! 馬鹿だと言うのが、更に広く露見するだけだぞ!」
「んだと、この野郎ぉっ!」
海里の煽りに蓮飛はすんなりと乗り、バビュンッと速度を誇る羽で海里に向かって行った。
すると海里はもふもふの足でテトテトッと駆けだす。
どういう訳か、無人となった廊下を。蓮飛は、その異様さを歯牙にもかけず、色々と憎き海里だけに向かって飛びかかっていた。
「次はてめぇが嫌いな虫に変えてやるよぉ!」
逃げる海里の背に、ピタリと狙いを定めた刹那。
「させないよ」
低くありながらも、凜として美しい声がすぐ横から飛び出す。それと共にバッと現れる、美麗な女子生徒。
美しくなびく、長い黒髪。モデル顔負けの華奢なスタイル。可愛らしい制服がどこか幼く見える位の麗しい雰囲気を纏っていた……が、顔だけはしっかりと見覚えがあった。
「わっ、若ぁっ? !」
蓮飛は突然の出来事にギョッと眼を剥き、素っ頓狂な声が飛び出す。
「正解っ!」
刹から朗らかな答えが飛ぶと共に、蓮飛の眼前でパチンッと大きな衝撃が弾けた。
「ギャッ!」
華麗に決まる、猫騙し。
そしてポンッと可愛らしい擬音が弾け、人間の姿に戻った蓮飛がドスンッと尻餅をついて倒れた。
その後すぐに刹達の後ろでポンッと軽やかな音が弾け、ぬいぐるみ姿の海里も元に戻る。
二人の姿が元に戻った事を確認すると、刹は「良かった、戻ったね」と朗らかな笑みを零した。
「流石、若君ですね!」
隣の空き教室から、ひょっこりと純が顔を出して飛び出す。
「純が人払いしてくれたおかげだよ、ありがとね」
刹がにこやかに礼を述べると、「いや、なんで若が女装してんだよ」と蓮飛の口から弱々しい疑問が紡がれた。
「お前を戻すのに、驚きが必要だったからだよ。猫騙しだけじゃ心許なかったから、女装もしてみたんだ」
結構可愛いだろ? と、刹は顎に両手を当て、きゅるんと可愛い子ぶる。
その姿に、純は喜色満面で「女子に負けじ劣らずですよ、若君!」と称賛した。
まんざらではない笑みで刹が「ありがとう」と答えると、「いや」と苦々しい呻き声が発せられる。
「女装の方が二の次だったのかよ」
正直それで戻る感じしたのに、猫騙しが来てビビったわ。と、蓮飛は苦渋を露わに突っ込んだ。
「そんな事より、俺だけぬいぐるみに変えた事の落とし前を付けさせてもらおうか」
合流するや否や、海里は蓮飛の胸ぐらに手を伸ばす。
「日頃の恨みと怒りだ、馬鹿が」
蓮飛もガシッと海里の胸ぐらを掴み、小競り合いが開戦しかける……が。
「ねぇ!」と、切羽詰まった声が彼等に突き刺さった。
パッと揃ってそちらを見ると、一人の女子生徒が後ろから駆け寄って来た。
「今、そっちに妖精が行かなかった! ?」
女子生徒は息せき切りながら尋ねる。
「来たよ、けど」
「嗚呼、またどっかに行ったのね。どうしよう! こんな調子じゃ、あの子に絶対に見せられないわ!」
刹の言葉を遮って、一気にまくし立てる女子の姿に、四人は呆気に取られた。
そして「どっちの方に行ったか分かる? !」と、鬼気迫りながら尋ねる。
「ちょっと落ち着こう、ね?」
刹がやんわりと笑顔で宥め、女子生徒こと
「えぇ、闘病中の妹が大好きなの。だから捕まえて、見せてあげたかったのよ」
本物が居るって分かったら、喜ぶと思って。と、陽花はしゅんと肩を落として答えた。
刹は「成程、それは絶対に見せてあげたいよね」と頷き、ポカンと間の抜けた蓮飛を一瞥してから純を窺った。
純はその視線を受け取るや否や、「あるよ、若君!」と元気良く頷く。
「わ、若、まさかとは思うが」
蓮飛は目を見開き、恐る恐る口を開くが。直ぐさまバシッと刹の手が飛び、荒々しく封じられた。
「斎木さん、俺達が君の妹さんの前に妖精を必ず連れて行くよ」
約束する。と、フフッと柔らかく破顔する刹は不敵であった。
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