第3話 一気にファンタジーですなぁ

「俺かよ? !」

 何でだよっ! と、蓮飛はガタッといきり立って突っ込んだ。


「若がやるんじゃねぇのかよ!」

「生憎、俺はそう言う担当じゃないからね」

 刹は飄々とした笑顔でいなしてから、「もう、あんまり時間もじすうがないから」とガシッとフラスコを掴む。


「さっきから、なんですでに担当が決まってんだよ」

 自身に差し迫る暴君に、蓮飛は弱々しく突っ込みながら「俺は嫌だ」と訴えた。


「海里、純」

 刹が二人の名を呼ぶや否や、蓮飛の身体はガシッガシッと二つの力に力強く抑えつけられる。


「おっ、お前等っ!」

 蓮飛は、瞬時にがっちりと自分を羽交い締めにする海里と、腕を押さえつける純に目を剥いた。


「すまん、蓮飛。犠牲になってくれ」

「ざっけんなよ、海里てめぇ! てめぇはこっち側だろうが!」

 海里の突き放した一言に、蓮飛は猛々しく噛みつく。

「蓮君、若君は絶対だから仕方ないよぉ」

「……純、てめぇは二重の意味で覚えてろよ」

 可愛らしく笑う純に、禍々しく呻いたその時だった。開いた口に、フラスコの口がドスッと勢いよく差し込まれる。


「そう、俺は絶対だよ」

 なんちゃってね。と軽やかに笑いながらも、刹はフラスコをぐんっと傾けた。


 中の液体がザブザブと滑り込み、ゴッゴッと鈍い音を立てて蓮飛の喉仏が上下する。


 そうしてポンッと音を立ててフラスコの口が、蓮飛の口から離された。

「どう?」

 液体を飲み込ませた刹が、キラキラと黒曜石の様に輝く瞳で蓮飛を窺う。


「……マッジぃ」

 蓮飛が苦悶に満ちた顔で答えた、刹那。ポンッと、煙と軽やかな擬音が立つ。


 三人それぞれの驚きが弾けた。

 広がる煙幕が薄れていくと、またそれぞれの驚きが飛ぶ。しかし今回は、皆、純粋な驚きで揃っていた。


 それも当然だろう。煙が薄れて現れた蓮飛の姿が、グッと拳サイズに小さくなっているばかりか、パタパタと透明でキラキラと輝く鱗粉を放つ羽を持って飛んでいるからだ。


 この姿、まさしく妖精である。


 刹からは「蓮飛、随分と可愛くなったね!」とからかい混じりの笑いが、海里からは「ギャハハハッ!」と哄笑が、純からは「良かったぁ、成功したぁ!」と安堵が飛んだ。


「笑うな、てめぇ等!」

 蓮飛はいつもの口調で噛みつくが。その声は女児の様に甲高く、可愛らしい声音になっていた。


 それがまた、彼等の笑いのレベルを引き上げさせる。


「笑うなって言ってんだろうが!」

 プンプンっと可愛らしく怒るが、彼等の哄笑は止まらなかった。


「……てめぇ等、これ以上笑ったらどうなるか分かってんのかぁ?」

 妖精とは思えぬ禍々しい脅しに、刹達の笑いがピタッと止まった。

「何? どうなるの?」

 刹が代表して尋ねると同時に、妖精蓮飛の手にポンッと杖が現れる。先に星が付いた可愛らしい杖の登場に、再び刹達の顔は綻ぶ……が。


 杖先からバシュッと黄色の閃光が迸った。

 彼等の目が閃光の元に、一気に向く。


 放たれた閃光にバシュッとヒットしたのは、海里だった。

 そうして閃光に包まれた海里の姿が、ポンッと可愛らしいぬいぐるみ姿に変わる。


「……わお」

 刹から間の抜けた驚きが吐き出される。


「おい、どういう事だ純!」

 海里が事態に目を剥き、純を大きく見上げながら詰め寄った。

「うーん、西洋の妖精を発想して出来た薬だから悪戯好きの妖精になっちゃったのかも」

 妖精って意外とダークネスな存在なんだよぉ。と、純は苦笑交じりに答えた。


「えー、そうだったんだ。知らなかったよ、妖精って良い奴ばっかりかと思ってた」

「若君がそう思うのも無理ないよ。今は可愛げあるキャラばっかりで、悪い印象が薄れちゃってるからね」

「おいっ、悠長に言ってる場合じゃないぞ!」

 海里が刹と純の会話に荒々しく口を挟み、しっかり目の前の状況を見ろ! と力強く促した。


 そしてハッと見るや否や、「こうなったら好き勝手やってやる!」と、蓮飛はぴゅんっとどこかへ飛んで行く。


 妖精の速さに目が追いつかず、彼等は「あっ!」と驚き固まるしかなかった。


 だが、すぐにその強張りが解ける事態に陥る。

 なんと、廊下の方から次々と「キャー!」「何だよ、コレ!」と言った悲鳴が飛び交い始めたのだ。


「蓮飛を止めないとマズいぞ!」

 ぬいぐるみの姿をした海里が切羽詰まって言うと、刹は大きく頷く。

「うん、他人に迷惑をかけるのは求めていたくだらなさと違うからね」

「言ってる場合かっ!」

 海里が瞬時に突っ込んでから、三人はダッと駆け出した。

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