第2話 あり得ない展開にもなってきた

「んで、まずは何をやる?」

 蓮飛が、椅子の背もたれに大きくもたれかかりながら尋ねる。


「容姿の描写がねぇから、イケメン枠の取り合いでもするか?」

「短編だからこその穴を付いたくだらなさだね。でも、イケメン枠は俺だって決まってるから、違う事をやろうか」

 でもそう言う事だよ、蓮飛。と、刹はポンポンと蓮飛の肩を叩いた。


 蓮飛が苦々しい面持ちで「そうかよ」と答えた、その時だった。


「若君、出来たよぉ」

 若を中心に駄弁っていた三人の元に、てとてとっと可愛らしく駆け寄る羽衣石純ういしじゅん。その手には、透明な液体が入ったフラスコが握りしめられていた。


「あっ。良い所に来たね、純」

 刹が駆け寄って来た純を笑顔で迎え入れる。


 けれど、他二人には刹の様なにこやかさはなかった。手にしているものに不穏を感じ、読み取れる事が出来ない未知に些か強張っている。


 純は海里が空けてくれたスペースに椅子を引っ張ってから、ドンッと手にしているフラスコを机の上に置いた。


「若君の望み通りかは分からないけれど、一応は出来たよ」

「そんなに不安がらないでよ、純。君は天才だから、俺の期待通りに運ぶはずだよ」

 刹の言葉に、純は「そうかなぁ?」と照れ臭そうにかけている丸眼鏡をくいっと押し上げる。


「その様子じゃ、純も若の思いつきを知っている様だな?」

 二人の和やかな様子を見た海里が淡々と尋ねた。


 刹は「当然だよ」と大きく頷き、「純だって俺達の仲間だからね」と笑顔で答える。


「お前、それ聞いてすんなり賛成したのか?」

 蓮飛がやや強張った面持ちのまま、純に向かって尋ねた。


 純は「うん、面白そうだったから」と、朗々と頷く。

「それに、僕の力が色々と生きると思って」

 その第一歩がコレさ。と、指先でフラスコを叩いた。カツンッと軽やかな音が弾ける。


「して、その液体の正体はなんだ?」

 若は知っているのか? と、海里は刹を窺った。


「知らないよ。だから皆と同じ位に楽しみなんだ」

 提案した時以上に、刹の顔にはニコニコと明るい笑みが広がっている。


 答えを知っているのは、制作し、ここに運んできた純のみ。

 純はふーんっと鼻息を荒く吐き出してから、胸を張って発表する。


「妖精になる薬だよ!」

「おおっ、凄いね! 流石、純! 天才だよ!」

 純の高らかな発表に、刹はパチパチと称賛の拍手を送りながら歓喜した……が。

「なんですんなり受け入れられるんだ、お前はっ!」

 蓮飛が発狂気味の突っ込みを入れ、「明らかにおかしいだろっ!」と絶叫する。


「妖精? ! なんで、急にファンタジーになるんだよ! くだらねぇ以前にありえねぇよ! どんな世界だ、ココは!」

 ご尤もな指摘に、海里は無言の頷きで援護に回った。


 すると純の冷めた目が、ビシッと蓮飛を力強く射抜く。

「僕らの生きる世界を現実と照らし合わせちゃ駄目でしょ、だって僕達の存在こそあり得ないんだから。こういう薬があったって、何もおかしくないでしょ」

「おい、とんだメタ発言をすんじゃねぇよ!」

 蓮飛は思わぬ方向の反論に、ギョッとして言った。だが、純は止まらない。

「僕さ、創作の世界にあれこれと現実を引き合いに出してケチ付ける人、どうかと思うんだよね。ジャンルがノンフィクションなら良いよ? でも、ほとんどがフィクションでしょ? 空想だよ、そもそもがあり得ないで構築されているんだよ。だから基本何でもありなんだよ、フィクションって。君には、それが分からないのかな? 現実と空想の区切りが曖昧なのかな?」

「辞めろ辞めろ辞めろ、もう喧嘩を売るんじゃねぇ。分かったよ、俺が悪かったよ」

 眼鏡をカチャと押し上げ、本気の反論モードになった純を蓮飛は弱々しく宥めて引き下がった。


「うーん、暴論」と、海里の独り言の様な一言が静かに飛んだが。誰もそこに牙を向ける者はいなかった。


 そして刹が「じゃあ、気を取り直して!」と朗らかに手を打ち、諍いに終止符を打つ。


「飲んでみようか、!」

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