第4話 神社あるある

「朱鷺ぃ、バイク押して〜」

「やだよ。てか、小森ってなんで原付で登校してるんだ? そこまで遠くないだろ」

「カッコいいから」

「なんだそれ」

「朱鷺ちんたら、わかってねーなぁ。軽音部みたいな、誰でもカッコよくなれるのに憧れちまうもんなのよ、オタクってのは。コミュな小森は部活とか無理だから一人でカッコつけれるバイク登校にしたってわけ」

「そゆこと」

「お前らがバカなのはよくわかったよ」


 失礼な。オタクのいざという時の行動力と諦めの速さを舐めるなよ。誕生日のその日に免許取って、そっから今日まで三ヶ月ずっとバイク乗ってる小森はすごい方なんだから。私なら二日目で髪崩れるの嫌になって歩くぞ。


「そんで神社どこ? もうそろ着く?」

「すぐそこだよ。ほら、あれだ」

「ん? 駐輪場なくね?」

「裏にある」

「え、ウチだけ一周しないといけないの? マジダル……」


 仕方ない、一緒に行くか。

 とならないのが私たちだ。そりゃ仲はいいけど、二人きりじゃないと別行動になりがちになる。なんせ趣味がバラバラなんだもん。

 だから、こういう時もバラけて行動する。マジで仲いいんかな?


「んじゃ後から追ってきてね」

「駐輪場、猫とか出るから気をつけろよ」

「あいよぉ〜」


 小森と別れて、朱鷺と二人でなっがい階段を登る。なんで神社の階段ってこんな長いの? 修行的な?

 ちなみに、自撮り棒を使ってずっと撮影している。ブイログ初めてやるけど、三人で交代して持ってるのに肩マジ辛い。小型のカメラ買おかな。


「朱鷺はここら詳しいの?」

「結構。部活練で近くの体育館使うんだよ」

「ふぇー、なら飯屋も?」

「あんま多くないな」


 え? んじゃマジの神社巡りブイログなんだけど。流石に味気なくない? ブラリするかぁ。


「あ、小森」

「ほんとだ」


 階段の途中から下を覗くと、小森が歩いてるのが見えた。すれ違いになるから、もうバイクは置いてきたらしい。

 スマホいじりながら歩いてる。絶対ケガするってあいつ。


「小森ぃ! 危ないから前見ろ!」

「恥っじぃ〜」

「西尾ぶっとばす」


 バカにしたのが聞こえたらしく、小森は走って追いかけてくる。そこから階段の一番下まではまだ距離があるけど、体力ないくせに足は速いんだよなぁあいつ。

 追いつかれる前にバテるか、バテる前に追いつかれるか。うーん五分か。


「ま、どうせムリっしょ」

「小森のこと舐めすぎだろ」

「朱鷺は追いつくと思うん?」

「いや無理、小森だし」


 朱鷺も舐めてんじゃん。ま、愛されキャラってことで。

 とか話してたら、肩で大きく息をしてる小森が階段を登ろうとしてるところだった。やっぱ速えー。


「階段も走るな! 転ぶぞ!」

「ゆっくり登ってるから、さっさと追ってきなぁ」

「あーもう! くそっ!」


 やっぱ口は悪いんだよなあ。まぁ私が煽ったのが悪いけどさ。

 小森は朱鷺に言われた通り、階段を歩いて登ってくる。ケガする前に声かけるとは、さすが頼れる姉御肌。私たちもペースを落として歩く。


「そういや文化祭もうすぐじゃん。どうせだしなんかやる?」

「そういうのは小森とやれよ」

「せっかくじゃん。三人でやろよ」

「着ぐるみとかやるんだろ、恥ずかしい」

「朱鷺ってニシコモのことそう見えてんだ」

「お前、自分と小森のセットでニシコモって言ってんの?」


 軽く引かれた。ニシコモ、ニシトキ、コモトキじゃん。なんかカップリングみたいだけどペア名として言いやすくない? ……いや自分で言うのはキモいか。

 小森がようやく追いついた。


「はぁ、はぁ……ふぅー」

「はい深呼吸、吸ってぇ?」

「すー」

「止めっ!」

「…………」

「吐いてぇ」

「はぁー! はぁ、ぜぇはぁ、ぜぇ」

「それ余計に悪化してるだろ」


 ちょうど階段も登り終えて、鳥居を潜る。

 あれ、たしか真ん中はダメなんだっけ……まぁどうでもいっか。


「とうちゃーく!」

「さすがに少し疲れるな。飲み物買ってくるよ。なんでもいいか?」

「さんきゅー」

「ウチ水がいい」


 朱鷺が近くの自販機まで行って、今度は小森と二人。……マジギレじゃないよね、さっきの。


「小森ここらのオシャ店知ってる? できれば飯屋」

「んー、知んない。ちょっと離れたとこなら、カヌレの店あったけど」

「オシャい?」

「めちゃオシャい。つか店員めっかわ、ひゃく顔採用」

「ブスは厨房なんでしょ」

「なんて会話してるんだお前ら」


 どっから聞いてたのかわかんないけど、後半だけならマジでヤバい会話だな。ブスは厨房て、普通にパワーワードすぎ。

 ペットボトルを渡されて、一口飲んでから賽銭箱とか鈴のある……えーっと、拝むとこまで歩いた。あれ名前なんて言うん?


「あ、やべ五円ない」

「さっき崩してきたよ。西尾はあるか?」

「さんきゅ」

「だいじょぶ、あった」


 ママかよ朱鷺。子供の頃の初詣で思い出したわ。


「コレさ、ちっちゃい頃めっちゃ鳴らすよね。ガラガラーって」

「わかるわぁ、鳴らすってか振り回すくらいの勢いでやってた気するわ」

「お前ブランコで立ちノリするタイプだろ」

「それだけで私のこと悪ガキ認定すんなよ」

「え、西尾してなかったん?」

「してたけど。そういう小森はどうだったのよ。絶対クソガキじゃん」

「ウチは外遊びなんてしませんでしたー、ざんねーん」

「かわいそ」

「黙れ」


 真ん中に立ってた小森が代表して鈴を鳴らしてから五円玉をポイッ。二礼二拍手一礼。


「なんかお願いした?」

「してなーい。なんか、フォロワー増えますようにとか神様にお願いしたらバカみたいだなぁって思ってできなかった」

「西尾って変なとこでマジメよね。朱鷺は?」

「私もだな。いろんなとこ行ってるから毎回願い事なんてしないよ。小森はなにかしたのか、願い事」

「友達増えますようにって」

「かなし」

「黙れ」


 自分から話振っておいてオチがそれって、小森じゃなきゃ笑えんて。

 

「あ、おみくじやろ。ウチ『待ち人来たり』狙い」

「じゃ私『あきない利あり』で」

「お前らおみくじの事なんだと思ってんだ。ソシャゲのガチャじゃねーんだぞ」

「ちなみに朱鷺は?」

「『あらそい勝つ』一択」

「スポーツマンの思想やっば」

「ロックすぎ」

 

 社務所にはおみくじの他にも、ストラップとかお守りとか、カバンに付けれそうなものもある。記念におそろで買っちゃう?

 おみくじはガラガラ振って棚に入ってるのを開けるような立派なのじゃなくて、箱の中に入ってるのを手掴みするタイプ。


「わりと高くね? おみくじってこんなすんの?」

「運試しだと思えば食いしばってギリ耐えられるレベル」

「社務所の前で言う事じゃないだろ」


 お金を払って一回ずつ引いてから、三人でせーので見た。私が末吉、小森が大吉、朱鷺が半凶。

 半凶てなに? 初めて見たんだけど。


「っしゃ大吉。待ち人来るらしいんで、一足早くピッピできるかも」

「友達じゃなかったのかよ。てか小森に彼氏は無理でしょー、コミュじゃん」

「西尾は上からも下からも何番目かわかんない中途半端代表の末吉か。結果はど?」

「『あきない焦らず待て』だからぶっちゃけ当たりみたいな? すり抜けレアみたいなもん」

「今年残り三ヶ月、焦んなよぉ〜」

「黙れ。で、朱鷺は?」

「ウチ半凶とか初めて見んだけど」

「私も」

「なかなかひどいなコレ。『負け続き』とか『失せ物でない』とか、極め付けに『運が悪けりゃ死ぬ』って書いてる」

「いやお前が爆笑かっさらうんかい」

「腹よじれるて」


 小森と私が笑ってるのを、悔しそうに朱鷺が見てる。一番良いことしてそうな奴が一番物騒なこと書かれてんヤバいウケる。


「はぁ、やべー。他人の不幸自慢とかマジ鬱陶しいだけなのにコレは別だわ〜」

「それなぁー。ウチでも西尾でもなく朱鷺が引いてんのがマジえぐい」

「笑いすぎだろお前ら」


 釣られて朱鷺もクスクス笑い始めた。これ笑わんの無理あるって。

 落ち着いてからおみくじを結んで、登ってきたなっがい階段を降りる。比べれば多少は楽だけど、でもまぁ辛い。


「どする? カヌレ屋いく?」

「別にいんじゃね、また今度ってことで。なんかさっきので疲れたわ」

「私アレあんま好きじゃないんだよな。食べた時の匂いが強くって」

「流行りスイーツって別に美味いかってーとそんなことないもんね。タピオカとか普通に意味わからん味してるし」

「見た目カワイイだけの映え目的でしょ」

「ちょっと攻撃的すぎないか?」

「流行りってるから買ってはみるけど、言うほど見た目も可愛くないし」

「なんなら手作りのフルーツサンドとかの方が綺麗まである」

「オーバーキルがすごいな」


 今度は三人で駐輪場まで行って解散。小森はバイクを走らせて先に帰り、朱鷺と二人。それもすぐに分かれ道で別になる。


「西尾、明日は何する?」

「マジ体育」


 

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いんふるえんさー、in full answer 菖蒲 茉耶 @aya-maya

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