第3話 禅・R

 村に戻ったDとS子は村人の歓待を受ける。涙を流して感謝する村人の様子を見てS子も警戒を緩めざるをえなかったらしい。

 そのまま一晩泊めてもらうことになった2人は改めて話の続きをする。


「『マグノリア』を倒すためには『ゼン・リング』を使って『禅人ゼンジン』に変身する必要があるの。でも『禅人ゼンジン』には適正があって、誰でも変身できるわけじゃない。特にこの世界の人間で変身できるのは極めて稀みたい。だから」

「拙僧達を招来したのだな、なるほど。……であるならば、拙僧は喜んで力を貸したいと思うが」

「ふざけないで!あんな奴らに!?城の連中はロクデナシしかいない!!!」


 ダンっと机を叩くS子。その尋常ではない様子にDはぐっと息をのむ。


「すまなかった、君の事情を配慮せず。……言葉に出来るのであればで構わない。どのような人間達だったんだ?」

「……私は6日前にこの世界に呼ばれた。呼び出されてすぐに変身させられて、その後研究とか何だとかいって、私の身体を暴いて、撮影して、それで──!」

「ありがとう、もう大丈夫だ。……それは辛かっただろうに」


 Dは今にも泣き出しそうなS子の話をさえぎって止める。


「話はわかった。であれば拙僧はこの修羅道。いかなるあやかし、はたまた怨霊おんりょうが襲おうと君を守るために生きよう!」

「……怨霊おんりょうね」

「幽霊は苦手か?安心してほしい、なにせ力だけは自信があるからな!」

「腕力で霊は倒せないでしょ多分……でも、ありがとうお坊様」


 S子は落ち着きを取り戻し、薄く口元に笑みを浮かべた。


「うむ!S子には笑顔が似合う!」

「何?口説いてる?」

「いや、そのような意図はない。拙僧には妻も子もいる」

「子供……お子さんは、普通の子だったの?」

「うん?娘は拙僧に似たのか、力持ちではあったが」

「……ふぅん」


 S子は少し考えて。


「貴方に似て、『力が強い』という能力を得た娘さんは幸せだったと思う?」

「愛を持って妻と共に育てたつもりではあるよ。それがあの子にとって幸福であったかどうかは親である拙僧が決めることではないかな」

「……そう」


 席を立ち、「もう寝るわ」と言ってS子は床につく、そして。


「きっと貴方の娘なら、幸せだったと思うわ」


 そう言って、眠ってしまったのだった。

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