2-5

シナガワがバーを出て数十分。


今まで映っていたミスターEPICが消えたと思ったら、

別室の様子がテレビに流れた。


『んぐ~!! んんっ!!』


「ん? なんだぁ? ありゃ」


最初に気づいたのは東さん。

布袋をかぶった華奢な男が、ドラゴンキャッスルの制服を着た男たちに押さえつけられている。

あのスーツ……まさか。


「シナガワ!?」


俺の声に反応して、みんなが画面を見つめる。

シナガワだと思われる男は抵抗するが、最終的に頭を板の上に乗せられた。


……最悪だ。

これはホラー映画で見たことがある。

シナガワが首を乗せられたのは、いわゆる……。


「ギロチン……」


キャットがぼそっとつぶやく。

いや、まさかな。

まさか、面接に落とされたからって、ギロチンにかけられるなんて……。


「そんなことありえないだろ!? シナガワっ!!」


俺は大声で画面に呼びかける。

だけど、男たちはシナガワを板に固定して、部屋から出て行く。


「くそっ! こんなことになるなんて、思ってなかった! なんでギロチンなんだよ!!

ただ、面接が失敗しただけじゃねーのか!?」


「……聞いたことがあるわ。EPIC社の入社試験の実態は知られていない。それは、正式採用が決まった人間以外『帰ってきてないから』だと。てっきり都市伝説だと思っていたんですけど」


りえかさんが神妙な面持ちで語る。

それが本当だとしたら……!


「俺たち、罪を犯してるってことじゃねーかよ!! おい!! ミスターEPIC!! 聞いてるんだろ!? シナガワを助けろよ!!」


俺はテレビをガクガク揺さぶる。

だが、EPIC社は容赦しなかった。

画面がズームし、布袋をかぶったシナガワを映したその瞬間――。


ガタンッ!!


「!!」


ショックでその場にいた全員が固まる。

床に転がるのは、シナガワの頭が入った布袋だ。


『これでちょ~っとはわかったかなぁ?』


再び画面がミスターEPICに戻る。


「な、なんで……なんでギロチンなんかにかけるんだ! シナガワはただ、うまく志望動機を言えなかっただけだろう!?」


俺が抗議しても、ミスターEPICは動じない。


『あれれ~? わかったと思ってたんだけどなぁ?』

「……何がだよっ!」


ミスターEPICはくすくす笑いながら、キレる俺に言った。


『キミたちは、わが社への就職志望者でもあると同時に、面接の試験官だってこと。そして不採用になった人間は、口を永遠に塞いでもらう……な~んてね☆』


「!!」


……まさか俺たちは、これからも自分たちで相手を蹴落としていかないといけないのか?

しかも落ちた人間はもれなく殺される……。

自分が指名されたら――。

シナガワの頭は、まだ床に転がっている。


くそ……くそっ!!

俺はどうすりゃいいんだよっ!!

テーブルをダンッ!! と叩くと、画面の中のミスターEPICが笑った。


『はいは~い、人が死んでも気にしないっ☆ それよりも次の質問、していいかなぁ?』


……ちくしょう! 10万円にホイホイつられてきた俺たちには、もう選択肢なんか残されてないってことか!


その場にいる全員が、全員の顔を見渡す。

こいつらは敵だ。だが、その敵に認められないと自分の命が……。


『今から棄権はナシ、だからね? CLUB777に入ってオレの会社の社員になるか、永遠に口を閉じて家に帰るか……いや家にも帰れないかな? 東京湾の底に沈む~なんて、ちょっと古い表現だと思って使わなかったけど。あははっ☆』


イカレてる。クロスワードの問題を出すくらいだから、少しは許容していた。

だけど、こいつは完全にアウト。

筆記試験問題だけならともかく、命を懸けた選択を迫ってくる。

それは……人間的に壊れているからだろう。


楽しそうに口元をむずむずさせるミスターEPICに、俺は嫌悪感を抱きはじめていた。

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