2-4

「は?」

「それって……まさか」


りえかさんが青ざめる。


「ええ!? もしかして、私たちが決めるの!?」


ミホさんも焦っているのがわかる。


『うん、面接官はオレじゃない。ここにいるみんなってわけ。

いい考えだと思うんだけどなぁ? だって将来一緒に働ける人を選べるんだよ?』


「逆を言えば、自分が気に食わない相手を容赦なく切ることができる……か」


御堂が恐ろしいことを口走る。


「な、何言ってるんだよ。俺たちにそんな権限があるわけない。これは一種のテストだ」


だって、そうじゃなければ、確実に落ちるのは……。


「………」


さっきから無言でうつむいている、シナガワだ。


『テストじゃないよ? ここでひとり脱落させる。その【誰か】はキミたちに選ばせる。オレって民主的~☆ だってそうでしょ? 有名なエリート揃いのEPIC社に、愚者はいらない。違う?』


「くっ……」

「時間はないみたいね。どうするつもり?」


瑞希さんは画面を見たまま、俺にたずねる。


さっきまでミスターEPICが映っていたはずだが、今はカウントダウンが始まっている。

30:00。

残り時間、30分。

これが0になったら、全員不採用ってことになるのだろうか。

俺は誰かを……。


「……確かにミスターEPICの言う通りだ。悔しいけどな」

「松山くん……?」


シナガワがうろたえた様子で俺を見る。


……そんな目で見ないでくれ。

冷静な判断ができなくなる。


でも、よく考えろ。出会ってたった1日。そんな相手に情なんて持っていたら、こちらの精神が持たない。


だってそうだろう?

例えば、辛そうに立っていたお婆さんに電車で席を譲って……ずっとそのおばあさんがきちんと自分の駅で降りられたか、なんて考えているのと一緒だぞ?

俺に課せられたことは、『席を譲ってあげる』。そこまでだ。


シナガワについても同じだ。いや、シナガワの方がもっとわかりやすい動機があるじゃないか。

俺はシナガワのためにメンバーを集めたんじゃない。俺自身のためだ。

人助けをした? そうじゃない。

俺は、俺自身のために行動しただけ。

そこで偶然、シナガワを助けたというだけだ。


「多数決を取りましょう」


瑞希さんが提案する。だけどそんな提案、あってもなくても同じだ。

シナガワの志望動機……明らかにミスターEPICに嫌がられていた。

それに、他のみんなはたとえ弱くても自分の売りがあった。俺もそうだ。

だけどシナガワは……。


「多数決は必要ない。僕はシナガワを指名する。彼はこのEPIC社に、もっとも必要ではない人間だ」


「あたしもそう思うな~。面接にわざわざお邪魔させてもらった会社を、滑り止め扱いだなんて……ひどくない?」


ミホさんも御堂に同意する。


「俺もだ。本当にEPIC社へ入社したいんだったら、アグレッシブに行けよ!」


声を荒げる川勢田さん。キャットも「やる気スイッチ入ってない人はさよ~なら~」なんて、ハンカチを振っている。


「み、みんな……ひどいよ! ここまで一緒に頑張った仲間じゃ……」


泣きそうなシナガワを見て、俺は自分自身で引導を渡す決意をした。


「シナガワ。ここにいるのは仲間じゃない……全員敵だ。だが、その敵に認められなくては生きていけねぇ。お前はここで終わりだ」


「嘘……でしょ? 松山くんまで……」

「俺はお前さんがどうなろうが関係ねぇけど……会いたいヤツに会うためだからなぁ。すまん」

「東さんまで!」


『決まったみたいだね~。ここで決まった不採用の人間は……シナガワくん! キミだ!』


ミスターEPICの声と同時に、ドラゴンキャッスルの制服を着た人間がCLUB777になだれ込んでくる。


彼らはシナガワを捕まえると、頭に布袋をかぶせた。


「み、みんな! ひどいよ!! 松山くん、助けて!!」

「悪いな、シナガワ……」


まぁ、ここで落ちたとしても、お前はいいヤツだ。きっと良心的な会社に就職はできるだろう。

シナガワは男たちに運ばれ、CLUB777を去った。


――それで終わりだと思ってたんだ。


だから俺は誰かを蹴落とすことも躊躇しなかった。

あの映像を見るまでは……。

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