2-3

俺が話し終えると、今度は他のメンバーの番だ。


『じゃあ、次は……そうだな、松山クンが会った順ってことで、シナガワクン!』


「は、はいっ! ぼ、いや私が御社を志望したのは……その、ここしか受からなかったからです……」


『どういうこと?』


「私は今まで20社ほど面接を受けてきました。ですが、どの会社にも受かることができず、

このままだと卒業後、フリーターかニートになってしまうんです! でも、御社は私のことを必要としてくれている気がするから……」


『……それって、オレの会社バカにしてね?』

「え?」


うつむいて話をしていたシナガワが、顔を上げる。

画面の中のミスターEPICは、大きくため息をついた。


『だってさぁ、滑り止めってことでしょ? オレの会社』

「い、いえ! 違います!! そうじゃなくて……」

『もーいいや、シナガワクンは。次行こうか』

「……」

「シナガワ……」


シナガワはがっくりと肩を落としている。

これはどうフォローしたところでも、次のステップには行けない。

まぁ、俺からしたらライバルが減るってことだから喜ぶところなんだけど……なんかそういう気持ちにはなれない。


多分だけど、それはシナガワの性格が俺に近いからだろう。

俺だって、あのクロスワードに正解していなかったら、何もしてなかった。

それこそニート街道まっしぐら。

就活していた分、シナガワの方がよっぽど偉い。


そのあと、他のメンバーも志望動機を画面に向かって話していた。

りえかさんは「EPICでしかできないことをやってみたい」という、わりと普通の動機だったが、他のみんなは必要以上に自己アピールをしていた。


ミホさんはこの質問が来ることを予測していたようだ。

持ってきた紙をカメラに映して説明する。自分を雇わないことによるEPIC社の損失額を、事細かなデータを見せながら話す。「自分を雇わないと、EPIC社は必ず損をする!」ってことだろう。ただの派手な姉ちゃんじゃなかったんだ。この人、実はすげーできるよ。

エロいスーツ着てるのに。

俺はミホさんのギャップに驚き、開いた口が塞がらなかった。


川勢田さんも今の会社で最年少主任になっていることや、営業面での自分の有能さを雄弁に語っていた。それだけじゃない。学生時代にスポーツ留学を経験し、フィジカル・メンタルとものタフさを鼻息荒くアピールした。

……まぁ、強そうな人だなとは見た目からしてわかっていたけど。


御堂はどうやら俺と同い年ではあるが、政治家の祖父と父を持っているらしい。普通だったら親の七光りなんて自慢したりするのは無能のすることだし、面接のときは隠したいと思うはずだ。しかし御堂は違った。


「私には大きなコネクションがあります。生まれたときから持っていたものではありますが、このつながりを持っていることで、御社に必ず貢献できると自負しております」


堂々と政治家の親族をカードの一枚として持ってきていた。

そんなことするか? 普通。しかもニヤリと不敵な笑みまで浮かべやがって。


次に口を開いたのは、瑞希さんだった。瑞希さんは現在、他の会社で秘書職に就いているらしいが、どうやら自分の能力を持て余してしまっているみたいだ。日本語、英語、フランス語、ドイツ語、中国語の5か国語に精通しているが、普段日本にしかいない社長の秘書よりも、もっと海外を飛び回る人間のサポートをしたいとのことだ。


「現在は秘書職ですが、他職に就くことも可能です」


……やる気満々だ。


そして東さんだが、ウイスキーを飲んでいたからだろうか? おかしなことを言った。


「俺は入社なんてどうでもいいんだ。ただ、会いたい人間がいるんでね」


……酔ってる? いや、東さんの頬は確かに少し赤いけど、意識もはっきりしている……と思う。


『ふうん、会えるといいね』


ミスターEPICは小さく笑った。

もしかして、東さんには何か事情があるのか……?

しかもその理由をミスターEPICは知っている? 


そんな変な感覚を受けた後に、志望動機を発表したのはキャットだった。


「志望動機? そんなの、面白そうだからに決まってんじゃん! ボクってさ~、アメリカの大学に飛び級で入って、天才扱いされるのは嫌いじゃないんだけど、年齢とか関係なしで面白い人たちと面白いことをしたいと思って! 仕事って言われるとピンとこないけど、楽しめるならどんなことでもするよ!」


こいつに関してはまだ子どもだからなぁ……。

いくら頭がよくっても、大学卒業した後、どうすりゃいいか問題になるだろう。今更同年代の子どもと一緒に中学校に通えるとも思えない。大抵は大学院に入って、更に研究とかしたりするのかもしれないが……。


「大学院で研究するのって、それしか考えられなくなるじゃん! ボクはそうやって縛られるのはキライなんだよね」


『あはは! そういう人、嫌いじゃないよ』


「でしょ~!? だから、ボクは好きな人たちと面白いことをずーっとやっていきたいの! 志望動機になるかはわかんないけど、これでも十分でしょ?」


『うん、キミの気持ちはよくわかったよ』


なんだ、なんだ?

キャットとミスターEPICは気が合うのか?


まぁそうだよなぁ……。

俺は何度もあのイカレた筆記試験という名のクロスワードを思い出す。


『楽しめれば何でもいい』か。

そう言いきれればどんなに楽だろう。


ミスターEPICについては何とも言えないが、そんな言葉が平気で出るのはキャットが若いからだ。

少なくても俺には言えねぇ。

……大学卒業を控えて、社畜になるかニートになるかの二択しかない俺には。


『さぁて、これでみんな志望動機は話したよね?』


ミスターEPICはもう一度画面内で手を組みなおす。


今度はどんな質問を繰り出す?

俺は画面を注意深く見つめる。それは俺だけじゃなく、他のメンバーも同じだ。


『では! ここで問題!

もし自分が面接官で、この中から誰かひとりを落とさないといけないとする!

そしたら……誰を選ぶ?』

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