CLUB777
2-1
エレベーターから降りると、小さな通路がある。
「ここは……?」
「EPIC本社です。グローバルワンダーランドの裏方……ということで、夜のアメリカの街をイメージして作られているんですよ」
こんなところまで凝っているとは……。
夢と希望と幻の国から現実へ……なんて言ったけど、ここもある意味幻の世界だ。
「面接はこちらで行われます。携帯はこちらにお渡しください」
俺たちが連れてこられたのは、『CLUB777』と看板に書かれたバーだった。言われた通り携帯をかごに入れると、店内へと足を踏み入れる。
「本当にこんな場所で面接を……?」
御堂が驚いてたずねるが、男はうなずいた。
「ええ。飲み物も食べ物もご自由にどうぞ。お酒もありますので、お飲みいただいて結構ですよ」
「それは俺も嬉しいが……さすがに冗談だろ? 酒OKって」
すでに酔っぱらっていた東さんだけど、やっぱりそこは気になったようだ。そりゃそうだよな。面接会場なのに、酒を飲んでもいいなんてことがあるわけ……。
「みなさんにリラックスして面接を受けていただきたいという会長のご指示です。それに、飲んでこそ人間の本性が出るので、その方が面接しやすいと……」
「な~るほどね! まっ、ボクはお酒飲めないけど、酔っ払って本性なくすような人間と一緒に働きたくはないもんなぁ」
「俺は逆に好都合だぜ。酒をどんなに飲んでも、俺は変わらんからなぁ。そもそも俺は……」
「東様、弊社への志望理由は面接が始まってからお話ください」
「……それもそうだな」
「それでは面接が始まるまで、しばしの間お待ちください」
俺たち9人をCLUB777に通すと、男は出て行った。
「本当にこんなところで面接を行うのでしょうか?」
りえかさんが店内を見回しながらつぶやく。
「確かにな。古いブラウン管テレビとパソコン、プリンターはあるけど、普通の面接会場にあるような机やイスもない。本物のバーだぞ、ここ」
色んなフレーバーのポップコーンの入った瓶を手にして、呆れた顔をする川勢田さん。
酒は各種そろっていて、カウンターの上にはグラスがぶら下っている。
それと、何に使うかわからないガスボンベとガスマスクもなぜか置いてある。しかも6つもだ。インテリアか何かか? バー店内にあるのは違和感を覚えるんだが……。
「ま、相手はグローバルワンダーランドの経営会社でしょ? このくらいするんじゃないの? あたし、肩っ苦しいの好きじゃないし、こういうの悪くないと思うよ」
ミホさんはカウンターのイスに座って足を組む。
「ですが、まだ油断はできません。10万円ももらってませんし」
「そ、そうだよ! ここから先、どうなることになるやら……」
瑞希さんが冷静な分析をすると、シナガワも慌てる。
まぁ、10万は早めに手に入れたいところだな……。
ここまで来たんだ。あとから「その話はなしでした」とは言われたくない。
「ま、ここは落ち着いて、何か飲もうぜ!」
東さんはバーカウンターに立つ。
「いえ、俺はいいっす」
「ノリ悪ぃなぁ~? 酒OKって話なんだから、無礼講だろ!」
「いや、俺飲むと正体なくすんで」
俺の場合、ビール2杯で泥酔するからな。しかも記憶がないくらい暴れるらしい。
そのせいでゼミ飲みは出禁になった。俺もそこまで飲みたいとは思わないしな。
「じゃNGか。ミネラルウォーターやジュースもあるぞ?」
「ボク、ジュース!」
「私はお水をいただけますか?」
「コーヒーあるぅ?」
女性陣は瑞希さん以外次々に東さんに注文する。
「ははっ、お嬢さんたちは気さくな子ばかりでいいねぇ! 他の男性陣はどうかね?」
「僕はいい。あくまでもここは面接室なのだから」
御堂は予想通りの回答だ。
「俺は少しだけ酒をもらえるか? 少し緊張を解きてえんだ」
川勢田さんはグラス半分に何か酒を注いでもらい、口にする。
しかし、次の瞬間一気に噴き出した。
「うぇっ!? お、おっさん、何注ぎやがった!?」
「緊張を解きたかったんだろ? ウォッカでも飲みゃ、一発よ」
「アルコール度数高すぎなのはやめろっ!」
「のんきね……」
瑞希さんはそのやりとりを冷めた目で見つめていた。
「シナガワはいいのか?」
「うん、今は大丈夫。ノド乾いたらもらうよ」
……それが妥当な答えなのかもしれないな。自然体なのが一番楽でもあるし。
俺はシナガワを見て、そう思った。
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