1-10

放送が終わってから10分、といったところだろう。

相変らずドラゴンキャッスルには、子ども連れやカップルばかりがいた。


だけど、それだけじゃない。怪しい輩もちらほらいる。ガタイのいい、スーツの男。胸元が嫌でも強調されているほどセクシーにジャケットを羽織った女性。この暑さなのに汗ひとつもかかず、時間を気にしているツンとした青年に、赤フレームが冷たく映る女性。「そもそもなんでいるんだ?」といった感じの浮浪者っぽいおっさんも。明らかに通販サイトで購入した、場違いなド派手なスーツを間違ってきている女も。


「……この人たちも、面接のメンバーかなぁ?」

「さあな。でもこいつら全員で6人。俺たちを入れて8名か……。あとひとりは誰かわからんが、とりあえず声をかけてみるぞ」


俺はごほんと咳払いをすると、大声で叫んだ。


「この中で【EPIC社】の面接に来た方! 俺のところに集まってくださいっ!」


先ほど怪しいと思っていた輩が、次から次へと集まる。だけどやっぱり、ひとり足りない。


「松山くん、やっぱりあとひとり……」

「ちょーっと待ってよ、お兄ちゃんたち! ボクのこと、無視してるでしょ!?」


声を上げたのは、手にペロペロキャンディを持った、ツインテールの小学生か中学生くらいの少女がいた。


「……君は違うだろ? そもそも【EPIC】を知ってるのか?」


「安定した株価に、簡単には突破できないファイアウォール。都市伝説をわざと流して、『嘘だ』と仮定したうえでの堂々とした犯罪が行われる場所。それがこのグローバルワンダーランド。その運営会社がEPIC。ま、この程度の知識でわかってくれる?」


なっ……なんだ、このボクっ子!?

普通の子どもじゃない!?


「兄ちゃん、知らねぇだろうけど、彼女有名人だぞ」

「……そうだよね、おじさん。あんたも」


浮浪者と思った親父と、ド派手女が場外乱闘を始める。


「ってことは……」

「9人! 集まったってことだよ!!」


シナガワが嬉しそうな声を上げる。


そうか、とうとう9人……。しかしどいつもこいつも変わったヤツらばっかりだな。

ともかく自己紹介でもしておくべきか。


「……俺は松山ヒロアキ。大学4年次です」


無難にこんなもんだろ。

特に同じ面接を受ける人間に興味を持ってもらう必要もねーし。

これが面接官だったら違うかもしんねーけど。


「松山……だと?」

「あ、ああ、そうだけど。なんだ?」

「………」


銀縁メガネのツンとした青年が一瞬俺をにらんだ。

こいつと面識なんてないと思うんだけど……。

ま、誰かと勘違いしてるのかもな。

一度にらまれたけど、今は俺のことを見てないし。

もしかしたらにらまれたと思ったのも偶然だったのかも。

いいや、気にしないことにしよう。


「ともかく、今回の呼び出しを考えたのは俺です」

「いらないわね、その自己アピールは」


赤メガネめっ……毒舌だな。しかも見た目美形な銀縁ツンツン男まで同調するようにうなずく。メガネ同士気が合うのか?


「でも、こいつがいなかったら俺らはアウトだったんだからよ! みんな感謝しようぜ!」


というのは、浮浪者。しかしこいつ……園内はアルコール禁止っていうのに、微妙に酔ってないか?

男は笑いながら自己紹介を始めた。


「俺はあずまだ。お前らより相当じじいだが、よろしくな」

「ふん、年食ってればいいってもんじゃないよ。ボクはキャット。よろしくね!」

「きゃっと……ネコさんですか?」


ナイスバディーの女は、目を見開いている。こいつ、もしかして天然か?

キャットは呆れながら、自分の名前を説明し始めた。


「ボク、本名は『カトリーヌ・マリア・戸叶』だから略してキャット! そういうアンタは?」

「わ、私ですか? 私は奉りえかです……モデル、やってます」

「へぇ、だからいい身体してるんだ? スーツが全然似合ってな~い」

「あなたよりはマシでは?」


赤メガネ、どこにでも噛みつくなぁ……。今度はド派手女がムッとしたような顔を見せる。


「あたしだってちょっと前までは……」

「今は今、昔は昔です」

「あんた、さっさと自己紹介しなさいよ! あたしは船橋ミホ!」

「……伊藤瑞希です」

「ったく、女同士っつーのは、なんでギャンギャンうるせぇかなぁ? ま、男には関係ない話だけどよぉ」


文句を言ったのはガタイのいいスポーツマンタイプの男だった。


「……君は誰だ?」

「ああ、俺? 川勢田だ。一応、大手住宅メーカーの勤めてるが、いい転職のチャンスだと思ってな。で? お前の名前は? まだ聞いてねーぞ」


川勢田さんは細くてどちらかというと女性っぽい感じのツンツン男に質問を返した。


「僕は御堂。……自己紹介をしたからと言って、慣れ合おうとは思わない。僕らは今から面接を受ける。誰か必ず落とされるんだから」


「うん、そうだね。でも挨拶くらいはしておきたいじゃない? 僕はシナガワだよ。よろしくね」


最後にシナガワが挨拶する。

俺にシナガワ、東さんにキャット、御堂。それに川勢田さんに瑞希さんミホさんにりえかさんか……。

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