1-9
「ここでどうするつもり?」
びくびくしているシナガワをよそに、俺はカバンの中からとっておきのものを取り出す。
本当にこれを使うとは、正直思わなかった。
だが、使うなら今しかない。
「すみません、警察のものですが」
「え!?」
「しーっ」
驚くシナガワをカウンターの女性から隠し、俺は持っていた警察バッジを見せる。
すると女性はかすかに身を震わせた。
「警察の方……ですか? どういったご用件でしょうか?」
すぐにバッジを胸ポケットに慣れたような手つきでしまうと、真剣な口調で言った。
「実は……テロの予告があったんです」
「て、テロ!?」
「ええ。ですが安心してください。犯人グループは今日、下見に来ているだけです。これは有力な情報ですので」
「ともかく上司にすぐ連絡を……」
「いえ! その前にやっていただきたいことがある。犯人たちをまず、一か所に集めたい。ヤツらは今日の下見まで、お互いの顔を知らないんです。ただ、合言葉がある。【EPIC】というね。それを使って一網打尽にしようというのが、我々の考えです」
「合言葉……ですか?」
「ここのテーマパークが園内放送禁止だということは存じております。ですが、テロを未然に防ぐためです。今からこのメモの通り、放送を流してくれませんか?」
先ほど急いで書き起こしたメモを、カウンターの女性に渡す。
「わ、わかりました。これを流せばいいんですね?」
「よろしくお願いします。放送が流れたあと、犯人を見つけたら、またこちらに伺います」
それだけ伝えると、俺はシナガワを連れてインフォメーションセンターを出た。
「松山くん! 一体どういうこと!? あの警察バッチは……」
「お前、気づかなかったか? 先月のクロスワード雑誌の景品。刑事ドラマで使った、役者のサイン入り小道具。オレ、見事当たったんだよな。オークションに出そうと思ってたんだけど、うっかり忘れてたんだわ。でもそれがラッキーだった」
「えっ……じゃ、あのバッジは偽物!? なんで持ってきたの? そんなもの」
「念のため? スーツでテーマパークをうろついてて、もし警備員に職質されたらって考えたとき、これを見せて逃げようかと思ってたんだ」
「すごいよ、松山くん。そこまで考えてたとは……。でも、さっきの女の人には、なんて放送するように伝えたの?」
「待ってればわかるよ」
俺たちがインフォメーションセンターを出てしばらくすると、放送が流れた。
『Welcome Everyone!Now begin EPIC thing is done at the castle.
ゲストのみなさん、ようこそグローバルワンダーランドへ! 13:00より、サマースプラッシュパレードをおおくりいたします! キャラクターたちのウォーターアクションをお楽しみください!』
「……パレードの案内放送、だよね?」
「ただの案内放送じゃねえよ。最初の英語の部分と日本語で流れた放送……言ってることが全然違う」
「あっ! そういえば……」
シナガワもピンときたか。さすがにあのクロスワードを解いた人間だけある。
英語で流れた文言は、「これから『EPICなこと』が城で行われる」という内容だ。
ここのテーマパークの中心には、ドラゴンキャッスルという城がある。
『EPICなこと』とは、EPIC社の面接のことを指す。本当のサマースプラッシュパレードは、ドラゴンキャッスルよりも少し離れた場所で止まる。この2点の違和感に気づけばいい。
つまりこの放送の本質は、一緒に面接を受ける仲間の呼び出しだということになるということだ。
「みんなこの餌に食いついてくれよ……! 行くぞ、ドラゴンキャッスルへ!」
「うん!」
俺はシナガワとともに、園の中心にあるドラゴンキャッスルへと向かった。
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