1-8

電話があってから3時間が経った。


「しっかし、見つからねぇ……」


俺は近くの花壇に腰かけると、何気なくスマホを見た。

『グローバルワンダーランド 今日 来場者数』で検索してみる。


……冗談だろ。7万人って!! しかも噂によると6万人を超えるとどうやら入場制限がかかるらしい。そこはまぁ、早くに出動したのは正解だったということか。


「だけど、7万人の中から、どうやってたった8人を探せばいいんだよ……」


しばらく座っていたが、ここの花壇も熱くなり尻が焼けそうだ。

木陰になっているところは、すでにカップルがパレードを見るために占領している。

ったく、アツアツで結構だが、どうせ見ているだけで暑苦しいんだからどけっつーの。


仕方なく立ち上がると辺りを探し回って、ようやく。

俺と同じような格好で、おどおどと辺りを見回している男を見つけた。


――あいつも面接のヤツだ。


「あの、すみません」

「ひっ!?」


俺よりほんの少し身長が低く、長い前髪が鬱陶しい男は、驚いたようでカバンを落とした。


「す、すみません! ちょっとびっくりしちゃって」

「いや……違ってたら申し訳ないんですけど、もしかしてEPIC社の面接の方ですか?」


俺の質問に、目の前の男は勢いよくこくこくとうなずいた。


「は、はいっ! そうです! もしかしてあなたもですか? 僕、電話を取ってからどうやって仲間を探せばいいのか、悩んでたんです! よかったぁ~、同じ人に声をかけてもらえて」


ずいぶん気弱そうな男だな。なよなよしてるし……。本当に大丈夫なのか?

だが、同じ面接を受ける人間だということは、あのクロスワードを解いた猛者だ。

人を見かけで判断してはいけない。

まず俺は、自己紹介することにした。


「……松山ヒロアキっていいます。22歳の大学4年次です」

「僕はシナガワです。同じく22歳です! どうぞよろしく!」


シナガワという男は、俺の手を取るとぶんぶん振った。

悪いヤツではなさそうだ。ただちょっと頼り甲斐はないようだが。


「……さて、あとは残り7人ですね」

「あ、松山くん。呼び捨て、タメ口でいいよ。君、僕なんかよりできそうな感じだし、同じ年齢だし……」


同じ年齢はともかく、できそうな感じってなんだよ……。

面倒くせぇやつだな。ま、いいか。


「そうですか? じゃあ遠慮なく」

「ところで松山くんは、どうして僕がリクルーターだって気づいたの?」


「簡単だよ。スーツ着てるだろ? このテーマパークに暑い中スーツで来てる人間なんて、何かよっぽどの事情があると思ったんだ。それでスーツの人間を探してたんだよ」


「へぇ、すごいね! 松山くん。僕、そんなこと思いもつかなかったよ! ただやみくもにそれらしい人を探してて……」


「だけど問題はこのあとだ。お前ひとりを見つけるまで3時間もかかってる。もしかしたら他の人間は、スーツじゃない可能性だってある」


「じゃあ、どうするの?」

「そうだな……何も思いつかねぇ。シナガワ、お前は何か案はないのか?」

「えぇ!? 僕~!?」

「一応あのクロスワードを解いた人間だろ。なんかねぇの?」

「う~ん……」


シナガワは少し考えると、ポンと手を叩いた。


「そうだ! 高いところから探すっていうのはどうかな? ここのテーマパークは3箇所にジェットコースターがあるんだ。他にも中心には園内を見渡せるアトラクションがある。

それに乗って探してみようよ」


シナガワの考えはどうも甘い気がする……。

ジェットコースターに乗って米粒大の人間を探すなんて、本当にできるのか?


「やっぱりそれには無理がある」

「そっか~……だよね。僕が考え付く案なんて、所詮こんなものだから……」


やっぱりこいつ、面倒くせぇ。

俺がどうにかしないといけないみたいんだな。


「……ここは園内放送で、EPIC社に面接に来ている人間を呼び出すっていうのはどうだ?」


「でも……松山くん、聞いたことない? グローバルワンダーランドは世界観を壊さないために、パレードの開始前以外の園内放送を一切しないんだよ。迷子放送ですら禁止っていう徹底ぶりで……。僕たちがお願いしたところで、絶対園内放送なんかしてくれないと思う」


「ふう、まさかこんなところで『アレ』の出番が来るとはな」

「……『アレ』?」

「いいからついて来い。時間もバッチリだ。インフォメーションセンターに行くぞ」

「ま、待ってよ、松山くん!」


俺はシナガワを連れて、ある作戦を考えながらインフォメーションセンターへ向かった。

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