パンドラとハート

 眷属化というスキルを見て、俺はこれもしかして魔王と呼ばれる存在が使っていたスキルでは無いかと思ってしまう。


 キッチーナが町を案内してくれた時に魔王とその眷属についての話をしていて、眷属は魔王によって姿を変えられた元は人類だった存在と言っていた言葉を思い出した。


 そうなると今俺が習得したスキルは魔王側のスキルである可能性が高い。


 つまり俺……いや、俺達はルシア師匠がスキルポイントの仕組みを聞いて勇者に近しいと言っていたが、勇者にも魔王にもなりうる存在ではないかと一瞬でその考えに至った。


 しかし、目の前で死にそうな人をそのまま見殺しに俺はできない。


 眷属化のスキルを取ると、対象に俺の血を飲ませる事で眷属にすることができると脳内にスキルの使用方法が刷り込まれ、俺はその言葉に従って、人差し指を親指の爪を使って刺すと血がじんわりと流れ始めた。


 その指をまずは腸が出ていた方の少女の口に咥えさせ、水魔法で血を操って口内に流し込む。


 特に変化なさそうだけどと思いながらも俺は続けて手足が折れていた少女にも同じ様に血を口内に流し込む。


 2分くらいすると2人とも土気色だった顔色が通常の肌色に治り、呼吸も整い、滲み出ていた汗も引っ込んだっぽい。


 峠は越えた様なので、2人は寝かせつつ、周りに散らばっているゴブリンの鼻を削いで、外で土葬していく。


 だいたい5分くらいで全てを終えると先ほどの少女達に羊の様な巻いた角、白色の天使の様な翼に、太い尻尾が生えていた。


「助けて……いただき……ありがとう……ございます」


「……」


 両者レイプ目の様に正気が無い瞳をしながら正座をしながら腸が出ていた方がそう言った。


「眷属化ってこうなるのか……種族はどうなっている?」


「ドラゴニュート……に……なって……ます」


 手足を潰された方もコクコクと頷く。


 竜人の英語表記……普通なら意味は同じになるが、竜人とドラゴニュート……何か意味合いが違ってくるのかもしれない。


「ステータスの欄はどうなってる? 健康か?」


 俺はステータス欄の状態が健康になっているか聞く。


「……はい、健康及び従属、発狂になっています」


「発狂してるのかよ……」


 ややこしい状態になったぞ……これどうすれば良いんだろうか……。


 とりあえず動けるか聞くと動けるらしいが、走ったりするのはまだ厳しいので、麻袋は尻尾に巻き付けて、2人を抱えて飛行する。


 空を飛ぶと2人はまた気絶してしまったが、雨が土砂降りだった為に外出している町の人達も空を見上げるということをしない為、裸の少女2人を抱えていても気づかれないまま宿の裏庭に着地することが出来た。


 裏庭にゴブリンの鼻やクマの頭の入った麻袋を置いて宿に入る。


 女将のエイダにゴブリン退治で巣穴で慰み者にされた竜人を助けたと説明し、とりあえず俺の部屋で介抱すると伝えるとタオルを貸してくれたし、飯を作った方が良いか聞かれたので、昨日の米の余りで粥を作って欲しいと伝えた。


 バスタオルで彼女達の体を拭き取り、とりあえず俺の寝間着のTシャツと短パンを履かせてベッドに寝かせておく。


 だいたい1時間くらいすると2人ともほぼ同時に起きて、キョロキョロと部屋の中を確認する。


「起きたか、とりあえずお腹空いているだろう。粥を食べな」


 俺は女将さんが作ってくれた粥の入った器とスプーンを渡すと食べ始めた。


 ガツガツと食べ始めて、女将さんから粥の入った鍋を受け取るとおかわりさせていく。


 だいたい5杯くらい食べると目に正気が戻ってきた。


「すみません、無礼を働きました!」


「申し訳ありません」


 2人はいきなり謝り始める。


「大丈夫か? さっきまで目が虚ろだったが……」


「このお粥を食べたら気分が落ち着き、現状を把握し始めました……このお粥正気に戻す作用があったりします?」


「まぁ精神のステータスの値を引き上げる効果があるが……」


「す、ステータスを引き上げる!?」


「そ、そんな貴重な物を私達に!?」


「とりあえず少しずつで良いから教えて欲しい。まず名前は?」


「は、はい!」


 先に腸が飛び出していた緑色の髪をした少女が名前を言い始める。


「私はパンドラで……」


 白髪の子は


「ハートと言います」


 と自己紹介をする。


 彼女達はやはり犠牲になった男子3名と共に村を出て冒険者になるために町を目指していたらしい。


 この時期になると村で養えきれない次男坊以下が町で冒険者になるために村を出るのだとか……。


 でその村からは10名が町を目指したらしく、一緒に行動していたが、ゴブリンの襲撃に遭い、5人は逃げたらしいが、残り半分のパンドラとハートを含めた5名がゴブリンの餌食になってしまったらしい。


 そして2日間慰み者にされて殺されかけたところを俺が助けたらしい。


 ハートが気絶するまでは結構覚えていたらしいが、恐怖で言葉を発する事ができなくなっていたらしい。


 ただ粥を食べたら自然に言葉を発する事や震えが止まったと説明する。


「あ、あと……多分ハートも同じだと思うのですが、カネダ様にお名前を聞かなくても心に貴方様のお名前と従わなければという気持ちが湧いてくるのです」


「多分眷属化の影響なのでしょう……」


 2人からそう説明された。


「どうか奴隷として私達をカネダ様のお側で仕えさせては貰えませんか!」


「農民出身でろくに技能はございませんが……できることは誠心誠意行うつもりです!」


 困った……めんどくさい事になったぞ……。


 まぁ助けた以上最後まで面倒を見ないのも悪いか……。


「とりあえず今日はここで休みなさい。宿の代金は俺が支払っておくし、明日こういう事に詳しそうな人に聞きに行くから」


「わかりました。ご迷惑をおかけします」


「ありがとうございます」


「とりあえずお風呂入ろうお風呂……ここの宿入浴できるから」


 俺は2人をとりあえず休ませて、1階に降りて店主のアルベートさんと女将のエイダさんに2人の宿が決まるまで泊まらせても良いかと聞くと


「宿代さえ払ってもらえればあたし達は大丈夫だよ! ただ冒険者ギルドからの補助金が入らないから2人で120Gが発生するけど大丈夫かい?」


 と女将さんからから言われるが、お金は問題無いと言う。


 とりあえず1週間分のお金840Gを支払い、彼女2人が宿を使うのは了承された。


 あとは前田先生やオタク等のチームメンバー、そしてクラスの人達に説明しなければならない。


 ただ今日からクラスの過半数が長期迷宮へのアタックで数日潜っているので今いるメンバーだけに話す形になる……。


 とりあえず今日は外出しないでお休みしている前田先生に話をしなければ……。









 俺は前田先生の部屋をノックして中に入り、前田先生にゴブリン退治をしていたらゴブリンに犯されている2人の少女を救出したのだが、助けるために眷属化というスキルを使ってしまったと説明する。


「今その2人は?」


「俺の部屋で寝かせています」


「状態は?」


「最初は発狂状態でしたが、俺の判断で昨日食べた米の残りを粥にして食べさせることで精神の値を上げて発狂状態を解除しました……受け答えもしっかりしています」


「なるほど……金田君が心配しているのは眷属化が魔王が使うスキルであるという事もですかね」


「はい、事実彼女達は種族がドラゴニュートになっているらしく、俺達の様に角や翼に尻尾が生えています」


「……確かに魔王は眷属の姿を変えると聞きましたが、私では判断できない分野ですね……しかし金田君が人助けをするために眷属化をした判断は間違いでは無いと思いますよ」


「前田先生……」


「とりあえず明日ルシアさんに聞きに行きましょう。私も同席しますので」


「ありがとうございます」


「なに、生徒が困っていれば助けるのが先生の務めですから」


 本当に頼りになる先生だ。


 マジで前の世界では悪い事していたなぁ……。


 俺は前田先生にも少女達を宿が見つかるまでこの宿で生活することや、それまで寝る時は前田先生の横の空いているベッドを使って良いと言われるのだった。

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