下級市民へ

 夕方に俺は下級市民になるための説明を冒険者ギルドでベアトリーチェさんに聞いていた。


「前にも説明した通り、3ヶ月の住民税を支払うことで下級市民として認めてもらう事が出来るんだよ。金額は1800Gで今の時期だと2ヶ月分の1200Gの支払いになるだろうね。一応冒険者は冒険者ギルドが住民税の支払い代行や下級市民までなら冒険者ギルドで手続きすることも出来る。今やってしまうかい?」


「お願いします」


 そう言ってベアトリーチェさんに頼むと書類を渡された。


「ステータスの名前、年齢、種族と宿泊している宿の名前を記入だ。魔法事故でステータスの年齢と実年齢に乖離が出ているのはこっちで説明しておくよ。他のドラゴンの皆さんも同じ様に説明していくつもりだしね」


「ありがとうございます」


「まぁ特別冒険者の皆さんには優遇しますんでまた塩漬け依頼や迷宮の深層探索を頼みます。こっちも大きな利益になりますので……でもなぜ急に下級市民に?」


「畑を借りたいと思いまして」


「なるほど……我々に言っていただければ貸し出しされている土地等も調べることもできますので気軽に言ってくださいね」


「土地を買うとなったら中級市民でしたっけ」


「まぁそうなりますが、下級市民での信用実績が無いと中級市民に上がることもできません……まぁ税金を2回ちゃんと納める事ができれば実績はクリアになるので今からですと秋には中級市民になることができますよ」


「まぁ中級市民になったらなったでまた考えます。竜の巣(今泊まっている宿)も気に入ってますので」


「それは良かった。では口座から1200Gは引いておきますので、これで手続きは完了です。明日には下級市民を証明するカードを発行できますので夕方にまた来てください」


「わかりました」


 俺はそのまま宿に帰るのだった。








 宿に帰り、部屋で筋トレをしていると部屋のドアがノックされ、ドアを開けるとオタクが廊下に立っていた。


「いやぁ魔法の勉強面白かったでござるよ。1日みっちり講義を受けたら魔法習得に必要なスキルポイントが僅かに減ったでござるよ。授業を受け続ければ少ないポイントで上級とか聖級の魔法が覚えられそうでござる」


 オタクは魔法ギルドでのことを誰かに話したかったらしい。


 興奮した状態で色々教えてくれた。


 オタク曰く魔法ギルドで講義には各種魔法を覚えるだけでなく、魔道具の製作とかもあり、プログラムを組み込んでいるのと同じと言われた。


「自作で同人ゲームを製作したことがあったでござるがプログラムを上手く組み込めば高性能な魔道具を安価で作り出すことも出来そうでござる。拙者冒険者をやりながら魔道具職人を目指すでござるよ! というか魔法全般を勉強するのが楽しすぎるでござる」


 俺はコップに麦茶を入れて相槌を打つ。


「金やんは行かないでござるか?」


「米の栽培の準備をしているからもう少しかかるな。来週には行くかもしれないが」


「一緒に魔法の勉強をするでござるよ!」


 ここまでオタクが興奮するのは3年の夏コミに俺を誘ってきた時以来か……その時は断ったが。


「中園さんは大丈夫だったんか?」


「中園殿も楽しそうに講義を受けていたでござるよ」


「ならよかった……一緒に帰ってきたの?」


「そうでござるな。今は宮永殿とお茶をしているでござるよ」


「へぇ……」


 その後もオタクが今日習った魔法の事や魔法ギルドの設備について力説されて夕食の時間になるのだった。









 夕食を食べたあとに裏庭で昨日買った鉛の剣で素振りをしていく。


 ただ扱う剣が双剣なので素振りも連続攻撃をイメージした感じになる。


「2段斬り、2段斬り返し、回転斬り!」


 身体能力に任せた空中回転斬りなんかも試してみるが、まだまだ実戦で使えそうでは無い。


 スキルでウイングカッターというスキルがあったので試しに取ってみると、翼の風切りと呼ばれる部分が刃物の様に鋭利になり、上手く扱えれば第三、第四の剣として使えそうである。


「金やーん」


 ブンブンと素振りをするのを止めて振り向くと宮永さんが裏庭に来ていた。


「宮永さん? どうしたの?」


「今日魔盾の宝石の加工をしてきたんだ! これ金やんの分」


 指輪を宮永さんから渡され、リングの上に宝石が付けられていた。


「長方形の魔盾……ありがとう! すっかり忘れていたよ」


「しっかし食後にそんな激しく運動してお腹痛くならないの?」


「前の体でもそうだったけど、この体でも全く痛くならないな」


「そうなんだ! でも偉いね金やん……凄い努力していて」


「まだまだ素振り始めたのも今日からだから三日坊主にならないようにしないと」


「まぁ確かにそうだね」


「宮永さんは画材買えたの?」


「うん、これで絵を描くのもできるね。まぁ私は趣味の範囲だけどね」


「それでも宮永さんの絵は綺麗だと思うけどなぁ……服の絵とかも上手かったし」


「もう! 褒めても何もできないよ……私先にお風呂入っちゃうから汗で体冷えない程度に頑張ってね!」


 そう言われて宮永さんは宿に戻っていった。


 俺は受け取った魔盾の指輪を嵌めて素振りを継続するのだった。










 翌日、午前中はふらっと歩いていると、市場当たりで人集りが出来ていた。


 皆何かを観ているらしく、人集りの中をかき分けて進むと立体映像みたいなのが見えてきた。


「3番行け行け!」


「5番! 5番!」


 人々が番号を言っている。


 映像を見るとユニコーンやバイコーンが走っている映像が映し出されていた。


「これって競馬の集まりですか?」


「なんだ嬢ちゃん知らないで来たのか? そうだ競馬だぜ。まぁ今回は王都の競馬場でバーガータウンの教会の牧師様のバイコーンが王国で一番格式高いレースに参加するから応援するために集まってるんだ。普段はもっと野郎ばかりなんだがな」


「なるほど」


 道理でシスターの方が大勢居るわけだ。


 でもこういう映像を映し出す魔道具もあるんだなぁと思った。


 何気に立体映像だし。


「ちなみにそのレースっていつ始まるんですか?」


「夕方だが」


 はい、撤収……でも教会の牧師が競馬のオーナーをやるのはちょっと意外に思ったのと、上流階級はこういう遊びをしているんだなぁと感じるのだった。









 そのまま市場を見て回ると色々な食材が並んでいた。


 前回来た時はさらっと流されたが、角うさぎの肉が店の前に吊り下げられていたり、動くキノコの可食部分が並べられたりしていた。


 見て回っていると豪炎寺と原村さんが2人で市場を見て回っていた……デートかと思ったが、なんか2人してメモ帳片手に書き込んでいる。


 何をしているか気になったので声をかける。


「豪炎寺に原村さん何してるんだ?」


「あ、金やん……いや、こっちの食材を色々勉強して料理を考えていたんだ」


「へぇ……こっちの料理はどうだ?」


「食材は一部はこっちの方が味が良いのが多い。例えばモンスターの食材とかは養豚場の豚に匹敵するトゲイノシシだったり、動くキノコもエリンギに近い味がするがうま味と風味が段違いだったりする。ただ海の食材が無いからそこはマイナスだがな」


「なるほどなぁ……豪炎寺と原村さんじゃないと日本の料理がここだと食えないから頼むな」


「おう! 味噌を使って和風アレンジしてやるぜ」


 豪炎寺と原村さんも色々頑張っているんだなぁと思うのだった。









 そのまま午後は冒険者ギルドで2コマ剣術の授業を受けて、夕方、冒険者ギルドから下級市民の証明カードが発行された。


「これが下級市民の証明書になります。無くさないように身に着けておいてくださいね」


「ありがとうございます」


 明日はギータ爺さんの所に顔を出して、肥料が無ければ買おうと思うのだった。

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