長期間ダンジョンアタック VSオーク

 ダンジョンで生活を初めて2週間が経過した。


 クラスの雰囲気は比較的良好に見える。


 元の世界ではここまで団結力のあるクラスではなかったが、この世界に来てから凄まじく団結力が上がった気がする。


 まーだ元男子と女子の間で壁みたいなのはあるが、和田さんや宮永さん、中園さんが女子の、男子は委員長と豪炎寺、野村が中心に壁を無くそうと動いていた。


 現代に比べるとストレスのかかる環境ではあるし、家族に会えないというのもストレスをかけていたが、クラスの皆で支えあっていることや、モンスターとの戦闘行動、体を動かしたり、空を飛んでみたりするのでストレスの緩和や発散ができていた。


 あとレベルが上がると精神の数値が上がり、ストレスへの耐性が上がる気がする。


 俺はあんまり気にしてないが、心が弱い子なんかは精神成長補正を大まで取ってからレベルアップを繰り返したところ、性格が良い方向に落ち着いたり図太くなった気がする。


 あとレベリングのお陰で皆戦闘ができるようになったのも大きな変化だろう。


 一番戦闘面で心配されていた中園さんが今では最前線の回復役ということで中園さんにやれるならと女子達も積極的に戦闘ができていた。


 あとレベリングにゴーレムや機械人形、動く木の相手が良かったらしく、明確な動物じゃないので血を吐き出す事が無く、血が無理というのもゴーレム達のモンスターで慣らして精神を上げれば自然に大丈夫に変わっていったりもした。


 まぁ精神的支柱の前田先生が戦闘苦手ながらも頑張り、苦手な子向けに自身の実体験や進んで攻略している組の情報を整理し、アドバイスを送っているのも大きい。


 前田先生はオタク達からも話を聞いて取るべきスキルの優先度をある程度整理してくれたお陰でレベルが低くても効率的なスキル選びができていた。


 正直レベル差でゴリ押しているが、効率的なスキル選びをできている後発組が羨ましく思うこともあるが、効率的にスキルを取らないとろくに戦闘ができないのだから仕方がないと割り切った。


 そして今日は燻製肉を首長竜の皮で作ったポーチの中に入れて、俺、オタク、野村、中園さんの4名で再度上層部への長時間アタックをすることになった。


 今回のアタックでは1日ではなく、食糧を現地調達しながらの長期アタックであり、最長で片道5日間を予定していた。


 5日で行けるとこまで行ってみて、外にでられるようならよし、駄目でも人の出入りがある場所かどうかやベースキャンプができそうな場所を探したり、食糧がまだあるかどうか等の確認も兼ねている。


「よし、じゃあ行くぞ」


「「「おう!」」」


 野村の号令に俺達は従うのだった。


 最下層から2つ上のピラミッドまでのベースキャンプまではすんなり移動することができ、ゴーレムとの戦闘も水魔法でさっくり倒したので、戦闘時間を短縮し、ピラミッド前のベースキャンプまでは40分で到達する。


 ベースキャンプに残してある食材を使って軽食を取るとピラミッドの最上部に開いた穴から飛行のスキルを使って空を飛んで侵入する。


 階段を登り、いよいよ未知の領域に突入する。


「わぁ……綺麗……」


 中園さんが言うように紫色の水晶みたいなのが壁から突き出て光を放っていた。


 ここでならライトを使わないでよさそうである。


 周囲を見渡すとプレートが埋め込まれていて、異世界語で


『この先亡者の墓場……大いに危険』


 と書かれていた。


 ここまで到達した人が他の人に宛てた書き置きなのかもしれないと思うと少しワクワクする。


 現地の人と出会える可能性があると思うと……ね。


 紫水晶の光に導かれながらマッピングのスキルを活用しながらマップを埋めていく。


 紫水晶のフロアのモンスターは動く鉱石らしく、壁に近づくとそこそこの速さ(だいたい時速100キロくらい)で鉱石が飛んでくる。


 ただ俺達は全員聞き耳のスキルと目星のスキルを習得しているため、他の岩や石と明らかに違う形状をしていたり、壁から取れそうな感じに石が壁に張り付いているように出っ張っていたりとよく観察すれば見破れる程度の偽装かつ、レベルを上げていたお陰か、体に当たっても雪玉を当てられた程度の痛み? しかない。


 雪合戦とかで子供が作る雪玉程度の柔らかさで当たっても痛くなく、少し大きいのが当たっても少しぐらつく程度の威力で、鬱陶しくて全員ウイングシールドで翼を大きくして側面を守りながら進んだ。


「おお! 奥を見るでござるよ」


 オタクが急に興奮したように言い始め、奥を見ると緑色の肌に豚の様な顔、全裸の2メートルくらいの大男が水晶を削って作ったこん棒を片手にのっそのっそと歩いていた。


「オークでござるよオーク! 異世界では定番のモンスターでござる!」


「キャ……卑猥……」


 中園さんは女子らしい反応で野村が


「へぇ……あれがオーク……デカいな」


 と反応する。


「大きいでござるが、中盤とかで出てくるモンスターで、ゴーレムよりは弱い設定の小説や漫画が多いでござる」


「オタク、オークに弱点とかは無いのか?」


「だいたい人と同じく首や頭が弱点でござる。あと男性器を露出しているので股間の物も弱点でござろう」


「なるほど……男だったからあそこにダメージを受けた時の痛さはよくわかる」


 野村の言葉に俺とオタクも頷く。


 中園さんは苦笑いをしていた。


「攻撃はどうするでござるか?」


「定番は野村の投石攻撃だけど、どうする? そこらに手ごろな石はゴロゴロ転がっているけど」


 俺の提案に野村は


「どうなんだ? 見た感じオークも石が当たっているようだが、ダメージは無さそうだぞ」


 と言うが、野村の球の方が飛び出す鉱石に比べて圧倒的に速い。


 真面目に音速出るんじゃないかくらいの速さだ。


 とりあえず一応言語が通じるかもしれないとオタクが言うので、野村にいつでも投石できるように構えてもらって、俺は声を掛けた。


『すみませーん! 言葉わかりますかー!』


「フゴフゴ! プギー!!」


「オタク駄目っぽい」


「なら野村頼むでござる」


「よし来た!」


 野村は振りかぶって鉱石を投げると、空気との摩擦で鉱石が、赤く光りながら飛んでいき、オークの頭当たった瞬間に、オークの頭が破裂した。


 肉片が飛び散り、凄惨な現場が作り出される。


「あれれ……こんなもんか?」


「まぁゴーレムを粉砕できる野村の剛速球ならこうなるだろうな……やっぱりステータスの暴力って感じか?」


「どうなんだろう? でもオークは消えないモンスターなんだね」


 中園さんの言うようにゴーレムやミイラみたいにオークは消える気配が無い。


 つまり食材にすることもできるのだが、人型モンスターを食べたいとは思えない。


「オークを食べるのは最後の手段にしたいな……」


「そうだな」


 俺も中園さんの意見に賛成である。


 野村はオークが握っていた紫水晶でできたこん棒をオークから奪うとぶんぶんと素振りをしていた。


「うーん、求める重さや長さは無いけど、これで妥協するか」


 どうやらバット代わりになる物を求めていたらしく、こん棒を武器にするようだ。


 俺達は更に奥へと進む。









 進むと広い部屋の前に出て、そこではオーク達が生活をしていた。


 と言うよりも奥に上に通じる道があり、オーク達は上の階層で食糧を調達し、ここを寝床に活動しているらしい。


「どうする?」


「倒して進むしか無いでござるな」


「ざっと15体くらいいるね……オークの増え方は人と同じなのかな?」


「その割には子供オークみたいなのが1体もいねーな」


 俺の問いにオタクがそう答え、中園さんが個体数を数えて、野村が子供オークが居ないことを説明する。


「周りを巻き込む魔法や攻撃は無しで、近接戦闘を中心で片付けよう。中園さんはどうする?」


「いや、これなら私の魔法で倒した方が早いと思う……私にやらせて」


 中園さんが前に出ると、地面に両手を着けて魔力を込める。


 すると土がもこもこと一直線に部屋に向かってモグラが通った様な跡ができ、そこから勢いよく土の塊の巨大なトゲがオークを次々に刺し殺した。


 ピギーピギーと悲鳴が上がるが、それも数秒したら聞こえなくなった。


「ゲームとかではアーススピアと呼ばれる技でござるな」


「中園さんナイス!」


「う、うん! えへへ」


 俺が褒めると中園さんは照れ始め、野村は刺されたオークに近づき


「胸部を一突き……オークも心臓は胸なのか?」


 そう言って足元に流れている血を洗い流す。


 俺達も土魔法でオーク達を土葬してから部屋の中の物を物色するのだった。

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