スキルコンセプト

「ピラミッドに穴を開けて距離短縮ですか……よくやりますね」


「前田先生、でも上に行けば行くほど経験値的には不味くなるっぽい。30体近くのミイラを倒したが、全員2レベルしか上がらなかったし、見た目もグロテスクだから戦いたくないと思って……距離を短縮できるならその方が良いでしょ」


「まあ確かに……1時間以上かかる道のりが1分に短縮となれば十分ですね」


 俺達は食後のコーヒータイムをしながら今日の報告会を行っていた。


 魔法のミサンガも有用だけど奪ってでも使いたいという人は居らず、今日ピラミッドを冒険した班の物ということを他のクラスメイトも納得していただいた。


「人体ってそんな簡単に燃えるのか?」


「いや、確かに火炎放射の火力は色から見て赤やオレンジなのでだいたい1500度以下でしょう。骨まで溶かすとなると最低でも1600度必要ですし、火炎放射の発射しているため距離が開くほど温度が下がります。そうなるとミイラの骨まで残らないのは元からモンスターで人が変わったからとは言えないでしょう」


 と前田先生は考察する。


 確かにミイラもゴーレムの様に宝石を残して消えてしまったため、一部のモンスターは宝石を格として動いている可能性が高く、生物として他の種類の可能性が高い。


「モンスターの生態とかが分かる本とか無いでござるかね……弱点や行動原理が分かれば事故とかも減らせるでござるが……」


「事故が起きないように耐性を上げる……それしか無いだろう」


 一応俺も耐性系は最大の上まで寒冷耐性と熱耐性を含めて上げきった。


 お陰で120ポイントも消費してしまったが必要経費だろうと思いたい。


 あと異世界の言葉系を執筆と発声というスキルを手に入れて10ポイント。


 残り92ポイントある。


 魔法も1種類を上級に上げるのに合計30ポイント、聖級になると60ポイントも必要になる。


 聖級を取ってみたいのもあるので、土魔法を聖級に、回復魔法を上級に上げて45ポイント消費。


 残りのポイントで細かい便利そうなスキルを習得していく。


 例えばウイングシールド……翼の盾というスキルは1ポイントで翼を大きくし、硬化することで相手の攻撃を防ぐことのできるスキルだ。


 試したところ、野村の剛速球を普通に耐えることが出来た。


 当たった瞬間に石が砕け散るほどの強度があり、両方の翼を盾に使えるなら戦闘時の幅が広がる。


 あとは投擲、聞き耳、目星と投擲は物を投げる時のコントロールが良くなり、聞き耳は聴覚の一時的な強化、目星はどこに物や生き物が直感的に分かるようになるスキルも1ポイントなので習得した。


 あとは1ポイントではなかったが咆哮という相手の体を一瞬硬直させるスキルも習得し、スキルツリーを整理した。


 お陰で俺のスキル欄がレシートみたく長くなったが、とりあえずは良いだろう。


 ただこういうスキル系だとありがちな剣術とか料理や調合とかのスキルは無いんだよな。


 魔法以外は身体機能の拡張がメインである。


 職業技能系は全くないんだよなぁ……あれば便利なんだけど。


 スキルというより技みたいなのが多い気がする。


「なぁオタク、ドラゴンらしいスキルって何かあるか?」


「ドラゴンらしいスキルでござるか?」


 俺と同じくレベルが上がったからスキル整理をしていたオタクに声を掛ける。


「いや、やたらめったら上げていたらスキルポイントが枯渇するからさ、方向性を決めようと思ってな」


「ふむ……じゃあ金やんは前衛になりたいのか後衛になりたいのかあるでござるか?」


「そうだな……どちらかと言えば前衛か?」


「ふむ……次に武器を使うか使わないかがあるでござる。今は使わないかもしれないでござるが、将来的に使ってみたい武器はあるでござるか?」


「武器か……だったら王道の剣を使ってみたいな」


「となると剣を生かすスキルツリーにするのが良いでござるな。ウイングシールドは便利だから金やんは取ってそうだから……両利きのスキルとかどうでござるか? 両方の手を利き手の様に扱うことができるスキルでござる」


「利き手か……確かに便利だな」


「あとは相手の懐に勢いよく飛び込める踏み込みってスキルや、皮膚の硬化も良いスキルであると思うでござるよ」


「踏み込みは1ポイントで皮膚の硬化は3ポイントか……うん、とっておこう」


「あとはコストが重いでござるが並列思考とか高速思考とかの頭の回転が速くなる系のスキルも異世界でのスキルの定番でござる」


「なるほど……うげ、並列思考や高速思考スキルポイントそれぞれ15も必要なのかよ」


「それだけ強いと思うでござるが……」


「……ええい! 取ってしまえ!」


 残りスキルポイントは8ポイント……流石にこれ以上は取れない。


「結構スキルを取ったな……」


「まあどのスキルも使い方次第でござるよ。そのための熟練度」


「そうだな。ちなみにオタクはどういうスキルを目指すんだ?」


「拙者は隠密特化の魔法使いを目指すでござる。足音を消すスキルの忍び足だったり周囲に溶け込む隠密、魔法の発射音を消すサイレント、聞き耳、目星、魔法を飛ばす時に相手に命中させやすくなるロックオンなんかのスキルも習得したでござるよ」


「やっぱりまんべんなくよりもコンセプトがある方が良いな」


「一番コンセプトがしっかりしているのは野村でござるがな」


「野村ってそんなにコンセプトしっかりしているの?」


「野球にちなんだスキルを積極的に取っているらしいでござるよ。投擲はもちろん、野球ボールの代わりとなる石を生み出す土魔法の上級に両利き、細く切った木材をバット代わりに強く振り抜く為に肩、肘、手首の可動域を広げる部分軟化のスキル、疲労を素早く回復させるスキルも複数個習得していたでござるな」


「疲労回復って色々なスキルあるんだよな……俺は取ってないけど」


「安眠と短期睡眠は取っておくと凄い効果あるでござるよ。拙者も少ないスキルポイントをやりくりしてその2つは取ったでござる……というより金やん取ってなかったでござるな」


「この体になってから低血圧が改善してそれだけでも朝の寝起きが変わっているのに……そんなの取ったらどうなっちゃうんだろうか」


「朝から元気100倍でござるな」


「確かに」


 俺はミルクコーヒーを飲み干すと柔軟を始めた。


「スキルで色々回復できたりしても、日頃のメンテナンスを疎かにすれば直ぐにガタが来るからな……前田先生がよく言っているし」


 俺に釣られてオタクも柔軟やヨガを始める。


「そうでござるな……中年の体からこんなに素晴らしい体に変わったらその変化で大喜びでござるな」


「なぁオタク、本当にこのダンジョンの外に人が住む空間は広がってるんだろうか」


「どうしたでござるか?」


「いや、異世界物の中にはデストピアの場合もあった気がしてな……テンプレみたいな異世界だったら良いが、文明崩壊とかそもそも文明が未発達で中世よりも酷かったらどうしようかと」


「まあクラスドラゴン一部TS転生なんて聞いたこと無いジャンルでござるからこの時点でテンプレ異世界物から外れている気がするでござるし、しかもダンジョン最下層スタートというのも中々無いでござるな」


「できれば現代とまでいかなくても古代ローマくらいの文明レベルだったら最高なんだけどな」


「異世界語が単一言語っぽいでござるから文明には期待して良いのでは無いでござるか? まぁ種族という欄があるから種族間で戦争をして荒れている可能性もあるでござるが……」


「できれば外に出る前に冒険者みたいな人と会話することができれば最高なんだけど……」


「今のところ鳴き声以上に言葉を話すモンスターも居ないでござるから、会話ができる可能性はあるでござるね……その為にはピラミッドの上の階層を探してみないといけないでござるが」


「オタク、経験則とかで次の階層わかったりしない?」


「流石に無理でござるよ。経験則に当てはまるならスライムがあんな最下層に居ないでござる」


「だよなぁ……」


 俺達は口を濯いだ後、スライムを排出し、新しいミニスライムを体内に入れてから眠るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る