スライムトイレ

 プヨンプヨンと歩いているとスライム達が多く生息している場所に到着した。


「おお、ものの見事に緑色のスライムばかりでござるな」


「よっこいしょっと。この子達を運ぶんだよね」


 宮永さんがスライムを持ってそう語りかける。


「うん、とりあえず3匹確保すれば良いかなと思うけど」


「捕まえるのは良いけど何に使うの? 前田先生みたいにビーズクッション代わり?」


「いやスライムが残飯とか排泄物食べるからトイレの代わりに使う」


「あー、なるほどね……そっかトイレ無いとマズイもんね」


「まぁビーズクッション代わりの需要もあると思うからトイレの奴とは別のスライムも用意しておかないといけないけど」


「なるほどなるほど……そしたらスライム捕まえたら動く木の討伐? 伐採? に行かない? トイレの個室作るのに木材が必要だと思うから」


「そうでござるな」


 俺達はとりあえず手ごろなスライムを捕まえると持ち上げて運び始める。


 抱えてみるとやっぱりそれなりの重さがあると思う。


「そう言えばこのスライムって食べられるでござるかね?」


「オタク……スライム食べるの?」


「宮永殿、拙者も生で食べたいとは思わないでござるが、味のついていないところてんかナマコの様な味がするのではないかと思ったでござるよ」


「オタクでも排泄物や動物の死骸を食べているような奴だぞ……食べて腹壊しそうだと思うけど……」


「金やん、そのための病気や毒耐性でござるよ。それに余裕があるなら果実の皮とかだけでスライムを育ててみれば良いでござるよ」


「あー、ミニスライムをか?」


「ミニスライム?」


「宮永さんには見せてなかったね」


 俺は一度捕獲したスライムを地面に置いて、ポケットからミニスライムを出して見せる。


「可愛い! ちっちゃい!」


「前田先生のスライムが残飯とか色々食べたらこのミニスライムを吐き出したんだよ。ポケットの中にもう数匹いるけど」


「へえー、じゃあこのスライムを育ててみても面白いかもね」


「拙者的にはミニスライムでは無くこうして捕まえてきたスライムで良い気がするでござるがな」


「いや、これでナメクジみたいに病原菌の塊だったら最悪だぞ」


「うーむ……湖の水に漬けて何日か様子を見てみるでござるか……金やんも食べようとは思わないようでござるから拙者だけでやるでござるよ」


「オタク……本当に行動力凄いな……異世界に来てからお前の評価がどんどん上がってる気がするわ」


 そんなことを話しながら移動して、先ほど掘った穴にスライム達を入れていく。


「こうして穴に入れると前田先生のスライムって色が濁ってるんだな」


「食べた物で色が変化しているんでは無いでござるか? 野草ばっかり食べているから緑色になっているとかありそうでござるよ」


 宮永さんも


「私は擬態しているんじゃないかと思うな。周りが土になったから土色に近づこうとしてるんじゃない?」


 どちらもありそうな説である。


 ただオタクは別に円柱状の穴を掘ってそこにスライムを入れた。


 スライムはほぼ身動きが取れなくて弾むこともできない。


「こいつを食用スライムにするでござるよ……後でバケツみたいなのって宮永殿作ることはできないでござるか?」


「手刀ではそこまでの精度の物は作れないな……申し訳ない」


「いやいや、無理を言ってこっちも悪かったでござるよ」


「オタク、それなら動く木を倒してレベルを上げて水魔法を覚えた方が良いんじゃないか」


「確かにその方が良いでござるな。ナイス金やん」


 とりあえずスライムの移動を終えて、豪炎寺の班が動く木が居たと言っていた方に3人で向かう。


 そこは一見普通の林に見える。


「あ、ここにもスライムいたんだ」


「……なんか枝が突き刺さってね?」


 俺がそのスライムを指さすとスライムがジワジワと小さくなっているように見えた。


「木にスライムが吸われているでござる……」


「じゃああれが動く木か……どう倒すか。蹴ってみる?」


 すると宮永さんが手を手刀の形にして


「切り倒してみる」


 そう言って突撃していった。


 宮永さんが動く木と思われる木に近づくと枝がいきなり伸びて宮永さんに襲いかかるが、宮永さんは両手の手刀で枝を切り捨てると、幹を思いっきり腕をぶん回して殴るように叩きつけた。


 するとバターを切るように腕が幹にめり込んでいき、宮永さんがグッと力を込めると幹を腕を通した箇所がえぐり取られた。


「宮永さん危ない!」


 俺が宮永さんの手を取って横に引っ張ると、先ほど宮永さんがえぐり取った動く木が上部を支えきれずに先ほどまで宮永さんが居た位置にメキメキと音を立てて倒れていった。


「あ、ありがとう金やん」


「いや宮永さんが無事でよかった」


 キザったいセリフって言ったあとに気づいて、俺は顔を真っ赤にしてしまう。


 それを見てオタクがニヤニヤしていたので軽く腹部を殴っておいた。


「ぐふ!」


 そう言ってオタクはお腹を押さえている。


 そんなことをしながら動く木はまず手刀が使える宮永さんが襲いかかってくる枝を切り捨てて、攻撃してこなくなったら俺とオタクが木の幹を掴んで力を合わせて地面から引き抜いて横に倒す。


 そして根っこに近い幹を宮永さんに切断してもらうと苦痛の様な顔が浮かび上がって動く木は動かなくなる。


 そうすると全員に経験値が入るのか宮永さんが一番レベルが上がるが、俺とオタクも動く木を1本引き抜く事に2レベル上がり、2回やったので4レベルになった。


 最初に倒した動く木も合わせて3本の木を俺達は1人1本肩に担いで持ち上げる。


 持ってみると少し重いが、円柱状の発泡スチロールを持っているような感覚で持ち運ぶ事が出来た。


 広場近くに持っていき、加工を始める。


 木材にするために俺達も1ポイントの手刀のスキルを入手して宮永さんの手伝いをする。


 俺が提案して2人が丸太の端を持って1人が糸鋸みたいに手刀で腕を上下させれば比較的まともな木材になるんじゃないかと伝える。


「「確かに」」


 オタクと宮永さんも良いアイデアと言われて、2人に丸太を持ってもらって俺が腕を上下させながら手刀で木の幹を加工していく。


 すると少し歪んでいるが、縦横1.5メートル、高さ5メートルの角材を作る事が出来た。


「おお、結構綺麗に出来た」


「これをだいたい高さ1メートルサイズに切るでござるよ」


 オタクに言われてだいたい5等分に切り、そのうちの2本を使うと言われた。


 オタクは新しく深さ2メートルくらい、縦横は70センチくらいの穴を掘ると角材2本を両端がはみ出る様に置き、幾度かしゃがんでみて木材の位置を調整してから土魔法で置いた木材の上に土を被せると真ん中が縦に20センチくらい空いているトイレが完成した。


「おお、確かにボットン便所みたいになった」


「昔のトイレみたいだね」


「あとは周りを土壁で囲んで……金やん角材をさらに縦に2回半分に切って板にして欲しいでござるよ」


「ああ分かった」


 俺はオタクに言われて角材を板にそれを土壁の内側にオタクは置いた。


「トイレで使う時は板を入り口に立て掛ければ見えなくなるでござるからこれで良いでござるな」


 最後にミニスライムを4匹穴の中に入れると簡易トイレの完成である。


「おお、結構様になってるな」


「ただこれだとお尻を拭く物が無いでござるからトイレをする事に湖で下半身を洗わないといけないでござる」


「食用の水も湖の水を使っているから体を洗う水と一緒なのは嫌だね」


「これ全員水魔法を覚えるか体内でスライムを飼うしか無いんじゃ」


「体内でスライム?」


「あ! オタク!」


「どうせそのうちバレるでござるし、女子の意見も聞きたいでござるよ」


 そう言って宮永さんにもミニスライムをお尻から入れて体内の排泄物を食べてもらうというのを話した。


「大きくなったスライムは排泄できるし、痛みや違和感が無いなら私もやりたい。金やんも動いても違和感無いんでしょ?」


「ああ無かった」


「便をいちいち湖で洗うより全然良いと思うよ」


「ただ宮永さんも病気や毒、麻痺、状態異常の耐性をなるべく高く取って欲しい。あくまで体内でスライムを飼うのも大丈夫というのは仮説でしか無いから」


「それはもちろん……ちなみに耐性はどこまで上げたの?」


「俺はさっきスキルポイント的に病気耐性、毒耐性、状態異常耐性の3つを中まで上げた。次レベルアップしたら麻痺も中まで上げる」


「拙者は金やんより1ポイント多く余っている(水泳が無い分)でござるからさっきの耐性4種類は全て中にしたでござるよ」


「動く木を倒してレベルが13まで上がったから4種類の耐性は中まで上げて、魔力操作と水魔法を覚えておこうかな。土魔法でできるのって何か制限ありそう?」


 俺が宮永さんの問に答える。


「多分魔法の初級だと媒体が必要になると思う。土魔法を使う場合地面の土を動かしたり整えたりするのが限界だから……中級にすれば水を生み出す事が出来るんじゃないかな?」


「今水魔法の初級は取ってみたけど、中級に上げるには15ポイントも必要なんだね……えい、ポイント余ってるし取っちゃえ」


 宮永さんは水魔法の中級も覚えたらしい。


 すると早速宮永さんは魔法を使うと手のひらに水の魂が出てきて、力を込めるとボコボコと言ってトゲトゲになったり渦を巻いたりすることが出来るようになっていた。


「えい!」


 プシャーと勢いよく水鉄砲みたいに水を発射することも出来るようだ。


「うん、これはこれで便利だね。ただ魔力? みたいなのを気持ち消費する感じがあるな〜」


「土魔法は初級だから魔力を消費している感覚は無かったな」


「まぁ無から水を生み出している分魔力を消耗しているのでござるよ。でもこれで宮永殿も魔法使いでござるよ」


「えへへ、魔法少女宮永誕生!」


 キャピっと宮永さんは回転してからポーズを取る姿が俺にはめっちゃ可愛く見えた。


「えへへ、調子乗ったわ」


「めちゃくちゃ可愛かった」


「もう金やん辞めてよ恥ずかい!」


 その後宮永さんにもミニスライムを渡し、トイレの中で宮永さんは体内にミニスライムを入れた後、残った丸太も3人で角材に加工するのだった。

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