第2話

「な、なんだこれ……!?」



 翌朝、目を覚ました楽は目を丸くしていた。起床直後にパソコンの電源を消し忘れていた事に気づき、楽はその事に苦笑しながらパソコンを消しに行った。そしてマウスを動かし、画面がついた途端に楽は目の前の光景に思わず声をあげていたのだった。



「お、思ってたよりも反響が……いやまあ、賛否両論あるみたいだけども……」



 楽は作品の詳細にアクセスし、寄せられているコメントを見始めた。作品への批判や楽自身を貶す言葉、中には断筆を勧めるようなコメントもあったが、それとは反対に楽を応援したり作品を絶賛したりするコメントも見受けられ、楽はそれを見ながら目を輝かせた。



「すごい……やっぱりこのやり方は間違ってなかったんだ……!」



 寄せられた応援のコメントや作品のレビューを見ながら嬉しさでいっぱいになっていた時、楽の携帯が震え出したが、その震えはなかなか止まらず、画面にはメッセージアプリからの通知が次々に送られてきていた。



「わわ……もしかして、みんなも読んでくれたのかな?」



 楽は未だ鳴り止まない通知音を聴きながら携帯電話を手に取り、表示された通知をタップしてチャットに入室した。



『おはようございます……』

『あ、ハンコウガクさん!』

『見ましたよ、昨夜のタイトルでしか内容を読めない奴のための作品!』

『あんな風に言葉を色々使いながら世間一般の読者様(笑)や説明的なタイトルの作品しか読まない奴らをネタにしてあそこまで痛快な内容に出来るなんてほんとうにすごいですよ!』

『俺、感動しちゃいました!』

「あ、あはは……思ったよりも褒められてるからか少し照れるな」



 照れ臭そうにしながらも嬉しそうに楽が笑っていた時、メンバーの一人がメンションをつけて楽に話しかけてきた。



『ハンコウガク……』

「あ……」

『おはようございます。やっぱり考えは変わらないですか?』

『それなんだけどさ……俺、もう少し頑張ろうと思うんだ』

「え!?」



 予想していなかった言葉に楽は驚き、嬉しさを感じながらメッセージを送った。



『本当ですka!?』

『ハンコウガク氏、五時ってる』

『オマエモナー』

『昨日まではもう辞めてやるって気持ちだったけど、ハンコウガクのタイトルでしか内容を読めない奴のための作品を読んでみて元気付けられたんだ。ハンコウガクみたいに読まれないながらも頑張ってる奴もいるし、俺だってもう少し頑張れるはずだってさ』

『そうなんですね! 力になれたようでよかったです!』



 楽はメッセージを返しながら満面の笑みを浮かべる。



「誰かの力にだってなれたんだ。やっぱり声を上げるっていうのは大事だし、このやり方で問題ないんだな。よし、このやり方を少しずつ進めていこう……!」



 楽がやる気に満ちた顔をし、メッセージアプリを一度閉じようとしたその時、一つのメッセージが表示された。



『私はあまりいい方へ進まないと思いますけどね』

「ん……」

『あ、ケイナ』

『ケイナさん、おはよー』

『おはようございます』



 ケイナが挨拶に答えると、それを見た楽は少し複雑そうな顔をした。



「ケイナさん……前は俺と同じで中々読まれない組だったのに、コンテストで入賞したり書籍化した人に取り上げられたりしたから今ではサイト内の売れっ子として人気になったんだよな。まあ今でもケイナさんの作風は好きだから読んではいるけどさ」

『おはようございます、ケイナさん。いい方へ進まないというのはどういう事ですか?』

『言葉通りです。私も読まれない組だったので流行り物や説明的な長いタイトルの作品に傾倒する人達はあまり好きじゃないです。だからハンコウガクさんがああいった作品を書きたくなる気持ちもわかりますし、私も正直スカッとはしました』

「あ、そうなんだ」

『ただ、反感を買う作品なのは間違いないので、ネットで悪い風に取り上げられてしまう可能性も十分にあると思います。なので、私としてはこういうのは今回限りにして、またハンコウガクさんが書きたい作品を書いていく方がいいと思いますよ。私もハンコウガクさんの作品はとても好きなので……』

「ケイナさん……」



 楽は呟く。そしてその目から一筋の涙が零れた後、楽はメッセージを返した。



『……正直、もう少しこういうタイプの作品を書きたいなという気持ちはあります』

『……そうですか』

『だけど、やりすぎてしまう可能性はたしかにあります。だから、ケイナさんに止めてほしいんです。その前に』

『私に……私でいいんですか?』

『はい。ケイナさんだからお願いしたいんです』

『……わかりました。頑張って止めますね』

『はい』



 ケイナの言葉に楽は笑みを浮かべる。すると、そのやり取りを見ていたトークのメンバー達が次々にメッセージを送り始めた。



『おいおい、俺達だっているんだぞ~?』

『リア充ですか? リア充ですよね? 爆破しますよ?』

『そういうつもりは……』

「あはは……たしかにそういうつもりはないんだけどな」



 楽は苦笑いを浮かべる。しかし、その顔は嬉しそうだった。そしてトークのメンバー達に一言声をかけてからアプリを閉じると、楽は晴れ晴れとした顔で部屋を出た。

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長かったり説明されたりしないと読めない読者の皆さんへ 九戸政景 @2012712

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