長かったり説明されたりしないと読めない読者の皆さんへ

九戸政景

第1話

「今日も読まれてないな……」



 パソコンの画面のみが光る薄暗い部屋の中、一人の少年が肩を落としていた。少年の名前は阪口楽、小説投稿サイト『カキヨミ』にてハンコウガクという名前で活動している作家だ。



「やっぱりみんな異世界ものをよく読むんだよな。それでいて、長いタイトルや説明をタイトルでしてる作品ばかり手に取られる。おかげで俺みたいに現代ものがメインで、ファンタジーなんかあまり書かない作家はまったく読まれやしない。はあ、本当にどうしたらいいんだろ」



 楽はため息をつく。すると、机の上に置いていた携帯電話が通知を知らせるために震え、楽はそれを見て携帯電話を手に取った。



「おっ、メッセージアプリからの通知だ。そういえば、この前からチャットにも参加してたんだよな。何かみんな話してるのかな」



 携帯電話を操作して楽はメッセージアプリを開く。そのアプリ内のサービスにあるチャット機能を開くと、その中のルームの一つに楽は入室した。



『お疲れ様です』

『あ、ハンコウガクさんだ』

『お疲れ様です』

『おつー』

『いま、何の話をしていたんですか?』



 楽が問いかけると、メンバーの一人がそれに答えた。



『実はさ、そろそろ引退しようかと思って』

「い、引退!?」

『そんな、どうして?』

『だってさ、俺の作品が全然読まれないんだぜ? みんな流行りものやなんかよくわからないタイトルばかりに手を出して俺たちになんて見向きもしないから疲れちゃって』

「みんなやっぱり同じ悩みを抱えてるんだな……」



 楽は憂鬱そうにため息をついてからメッセージを打ち始めた。



『でも、いずれは戻ってきますよね?』

『どうだろ。こんな状況じゃ書いてても楽しくないし、このまま辞めたままでもいいのかも』

「そんな……みんな、楽しくやってたはずなのに、どうしてこんな事に……」



 携帯電話を机の上に置いてから楽はため息をついた。そしてしばらく考えたあと、楽は何かを思い付いたような表情を浮かべた。



「……そうだ。ああいう作品しか読まない人達に向けてのメッセージ性のある作品を書けばいい。流石に規約には抵触するから貶すような言い方は出来ないけど、こっちの苦しみがわかる程度の言い方なら許されるはずだしな」



 楽の目には希望の光が宿る。



「よし、そうと決まれば早速書き始めよう。善は急げだ!」



 楽はチャットルームのメンバーに一度離席する旨を話すと、すぐさまパソコンのキーボードを叩き始めた。その目や動きは何かに取り憑かれたようであり、その姿は異様さすら覚えるほどだった。


 そして作業開始からおよそ一時間後、最後のキーボードを叩き終えると、楽は満足そうな顔をした。



「出来た! あとはこれを投稿するだけなんだけど……タイトルはどうしようかな」



 楽は腕を組みながら悩み始める。そして数分かけて考えた後、楽は満足そうな顔で両手をポンとうちならした。



「そうだ! タイトルでしか内容を読めない奴のための作品にしよう! これならある程度喧嘩を売ってるタイトルにはなるし、目を引くかもしれない! それでキャッチコピーは……!」



 楽は作品の詳細を打ち込み始めた。キャッチコピーやタグといった様々な物を打ち込んでいき、執筆アプリに書いていた本文をコピー&ペーストして投稿し終えると、楽は一仕事やり終えたような顔をして椅子の背もたれに体重を預けた。



「これでよし。それにしても、だいぶ集中してたからか眠くなってきたな……今日はこの後寝るだけだったし、このくらいにして寝るかな」



 楽は欠伸をしてから頷くと、椅子から立ち上がってそのままベッドへと向かった。そしてパソコンをつけたままで眠りに入った頃、楽が投稿した作品は『カキヨミ』のサイト内で賛否両論されていた。



『なんだこの作品。自分がそういうの書けないからってひがんでんなよ』

『底辺さんおつー。そんなことしてる暇あったらもっと売れるのを書いてくださーい』

『おお、こんな風に言ってくれる人がいるのか。これは応援したいな』

『よく言ってくれた! 俺はこの人を応援していくぞ!』



 馬鹿にする者から応援する者まで様々なユーザーが出てくる中、その事を知らない楽は静かに眠っていた。

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