第2話 村

 村へ向かうと、人が二人ほど立っていて私の行く足を防いでくる。


「どこの子だい?えっと、どこから来たのか分かるかなお嬢ちゃん」


 自分がどこから来たかなんて分かりはしない、ただ分からないだけでいると向こうが私の恰好を見てなんとも言えない表情をしている。

 汚いことは自覚してるが、この二人もそんな綺麗な恰好ではないし似たような物だろう。

 なによりどの時代なんだと突っ込みたくなるような鎧を着こんでるのはコスプレというやつか。


 私が細目で観察している間も「言葉は分かる?」「この先って廃村しかないだろ?」そんな会話を二人でやりとりをしている。


 言葉が通じるということは日本で間違いないのだと思うが、それならこんな田舎でコスプレしてるやつらは一体なんなんだろうか。私が家で剣ばかり振っていた間にそんなに時代は進んでいたのか。


「言葉分からないのかな?」

「ここは何県ですか?」

「え?剣?喋れたのか…」


 自分の声に違和感をまた感じる。どうでもいいことだが、喋っているとその内慣れるか。


「難民かな?それなら冒険者ギルドがあるからそこに行くといいよ。仕事がもらえると思うから」

「冒険者…仕事…わかりました」

「…大丈夫かな?」


 職安みたいな物なのだろうが言い方が斬新なところらしい。道を開けてくれて指で方角を差されたのでそちらに向かって進むと後ろの二人から安堵の息が漏れるのが聞こえる。


 仕事か。父にほとんど働かせてもらっていて働いたことがなかったからどんなものだろうか。中学の職場体験も行かずにひたすら刀を振っていたからそれが活かせる仕事があればいいのだが。


 歩いていると村にいる人はどれも地味な恰好をしている。歴史の教科書で見たことあるような服装だ。

 ポリエステル素材でもないし綿というよりは麻に近い服装だ。


 たまにだが綿素材の服装を着ている者もいるが、やはり鎧を着こんだコスプレをしていたり、本格的なコスプレで革素材の物なんかはわりと臭い。


 職安を探していたら木造建築のでかい建物があってそこの中から「冒険者」がどうのと話してる会話が聞こえたのでそこに入ると受付以外はコスプレしている連中が集っている。


 受付に行けば女性スタッフが対応してくれるようで私を見て紙を一枚取り出してきた。


「初めまして。依頼…ではないですよね?冒険者登録ですよね?名前と職業、あとはパーティを希望するなら得意なことを書いてくれますか?分からないことは聞いてくだされば答えますよ!」


 名前…父に名前を呼ばれたのはいつだっただろうか?生まれてから一度も呼ばれたことはないのではないだろうか。

 そして職業…無職なんだがそのまま書いていいのかな。パーティはよく分からないけど自分は剣士なのだろうか?刀を使うなら侍?しかし刀を持ってないし、剣術と書いておけば良いかな。


「えっと、お名前はアカネさんですね。職業は…無職…?あれ?あ。得意なことが剣術ということは剣士ですね!書くところ間違えたんですね。受理しました」


 間違えた?剣士って職業だったのか。たしかに父は剣一筋で生きていたし生活に困っていなかったからそういうものなのかもしれない。学校ではそういうのを見たことはなかったからマイナーな職業としてあるのだろう。


「アカネさんはこの木のタグを使ってくださいね。ランクが上がっていけば金属になるので、初めは初心者が受ける依頼を受けるのが良いと思います。あちらに張り紙があるので好きなのを選んでみてください」


 木製の板を貰ってそこに『アカネ 剣士 G』と書かれてある。Gってなんだ?グレートって意味だろうか。まぁ気にしても仕方ない。職安って案外好きなことを仕事に出来るんだなと思って張り紙の所にいけば内容がよく分からない。


『薬草探し 銅貨 量に応じて』『食堂のウェイター 銅貨30枚 まかないあり』『ゴブリン 一匹 銅貨10枚』『オーク 一匹 傷により変動 最低銀貨1枚』『木こり 成果に応じて 最低銅貨50枚』『フォレストウルフ 一匹 毛皮により変動 最低銅貨30枚』


 仕方ないので受付に戻って聞くしかない。


「あの張り紙、剣を使う奴でおすすめはどれですか?」

「アカネさんはまだ幼いですから食堂でいいと思うんですが…そうですね剣ならゴブリンで良いと思います。はぐれゴブリンなら西の森に行けば見つかると思いますので。胸の所に魔石があると思うのでそれを持って帰ってきてくださいね」


 魔石。心臓を持ってこいということか。というか銅貨って十円だよな。なんでこんな紛らわしい書き方してるんだろう。


 やることは分かったので西に向かおうと思って外に出ようとしたら受付が「待ってください!」と止めてきた。


「依頼を受けるときは張り紙を持ってきて、一度受理の処理をしないといけないんです。ごめんなさいもっとちゃんと説明すべきでしたね」


 別に処理は勝手にしてくれていいんだけどと思うが、私に渡された木のタグが必要らしく、それを渡すと何か手元で弄った後に返してくる。もういいのだろうか。


「無理だと思ったら引き返してくださいね。アカネさんでも逃げ切れると思うので荷物も捨てちゃっていいですから、命あっての冒険者ですよ」


 命あっての無職か。それにしてもそもそもゴブリンて害獣聞いたことないんだが、どんな生き物なのだろうか。

 父も獣を狩って生活していたのかもしれないし、少しでも父のようになれるのならいいか。


 自分が劣っているとはいえ百円くらい稼げなくては顔向けができない。


 そのままギルドから出て、西というと太陽の位置を確認してから向かうと出口にまた二人知らない奴がいて、こちらをじろじろと見てくる。

 無視して進むと絡まれなかったので出ていく分には問題ないのかもしれない。


 森と言っていたからどうなっているのだろうと思えば村の西はすぐに森の中のようで柵とかがあるのを避けながら森に入る。


 自然があるのはいいことなんだけど、まずは生き物を探すところからだ。

 進みながら音を聞いて、小動物が動いていたり、木の上に止まっていたりわりと大雑把な物しか感じれない。


 ジャガイモを齧りながら歩いていると子供のような存在が歩いている音が聞こえる。これではないだろうと思って無視していると向こうからこちらに近づいてるようで、細目で見ると緑色の子供が木の棒を持って叫びながら襲ってきてる。


 手加減の仕方が分からないので木の棒を持ってる右手を打ち払って骨を肉ごと千切るように飛ばすと子供は呻いて蹲っている。

 どうしたものか困ってしまうが、こいつをさっきの村まで届けるべきだろうか。


 ずっと「ギエエエエグエエエエエ」なんて奇声を発してるが、原住民がいる地域なのか。そんな田舎聞いたことないがあるところにはあるのかもしれない。


 まだ歯向かってくるのか見ていると噛みつこうとしてきたので怪我をしている千切れた右腕を再度叩きつける。

 こんなに叫ばれたら害獣は逃げてしまうかもしれない。そう思ったのだが耳をすませば奇声で聞こえづらかったがこの子供の心臓がある位置の音が少しおかしい。


 原住民を殺してもいいのかは分からないが正当防衛だと思って錆びたナイフでおかしな音の位置を抉りぬくと石ころが出てくる。


 それを取り除くと急に大人しくなって心臓が止まる。奇病かなにかだったのかもしれないが、せっかく石を生んでくれたのだからありがたく貰っておこう。ゴブリンのじゃなくても百円に違いはないだろう。


 死体は他の動物が食べるだろうと放置してそのまま進んでいけばまた緑色の原住民が奇声をあげて襲ってくるので同じ要領で片手を吹き飛ばして、石ころを取り除く。


 今さらにおもったけどこれがゴブリンなのだろうか?二足歩行もしているし人型もしているから原住民だと思ったがこんなにも奇病を持ってるなんて。ということはゴブリンとは差別用語なのかもしれない。


 もしくはこの石が病原菌なのでそれを取る医者みたいな仕事なのかも。


 目標が分かれば、原住民の音を聞き取るようにして動いて行けば全員が全員遅い走りで襲い掛かってくるのでその度に腕を吹き飛ばす。中には青年程度の大きさも混じってたがそいつだけは石の大きさも少しだけ大きくてちょっとだけだが得した気分になれた。


 どうせなら刀を持っていてくれたら自分の木の棒と交換してもらいたいんだが、武器らしい武器を持っている原住民は誰もいなかった。


 石が大体三十個、三千円ほど集めてこれなら食べ物とかホテルも一泊くらいは行けるかもしれない。ホテルというかこの場合民宿だろうか。


 腕の筋肉痛も意識しないように呼吸していたが、そろそろ指が震えて限界を訴えてるのも丁度いいだろう。


 扱いなれてない木の棒を振ったのもあるが、剣速が明らかに落ちている。今の自分では一秒に五回振るのが精々かもしれない。父にまた呆れられてしまうから戻るころには最低限三十ほど触れるようにはしておきたい。


 大体の生き物は脅威ではないと分かったので目を瞑って来た道を帰ると暗くなる頃合いで、村の出入口の人らが私を見てから安心したように息を吐いてるのを聞いてそのまま素通りする。


 一度入れば後の面倒はないんだな。


 ギルドに戻ってから、受付の同じ人がいたのでそこに石を置くと多少驚かれた。


「帰ってくるのが早かったのにこんなに狩ってきたんですか?そんなに西の森にゴブリンいました?」


 こんなにということは多かったと言うことなのか。ゴブリンというのは珍しいほうなのだろう。


「たまたまです」

「そうですか?それに木の棒一本で…あ、すいません!換金しますね」


 石を持ってカウンター裏にある部屋に入っていってからその後に戻ったら銀色のコインを三枚渡してきた。

 三百円かと思ったけど模様が違う。


「銀貨にしましたけど銅貨の方が良かったですか?」

「三千円…これが銅貨300枚ですか?」

「はい?銀貨は初めて見ますか?」


 いつの間にか札という文化は無くなっていたのか。まぁ、紙切れより信用があるのかもしれない。

 三枚を貰って礼をしてから今日泊まる民宿を探さないといけない。


 ギルドから出て宿らしいところを探すも特に見当たらないので、美味しそうな香りがするところに自然と足が向いてしまう。

 そこは飲食店のようで入口から入ると結構席に座って飲み食いしてる者が多い。


 空いてるところに適当に座ればこちらにエプロンを付けたスタッフが来る。


「いらっしゃい、なににする?」

「水とタンパク質…肉があればそれで」

「そう、それなら銅貨5枚だよ」


 銀貨を一枚渡せば少し面倒くさそうにされて、銅貨95枚を数えて渡される。

 五十円で提供してるのかこの店は。


 しばらくまっていると水が来たのでちびちび飲みながら待ってたらただ焼いただけのような豚肉みたいなものが出てくる。

 ソースもかかってないし、食べてみると素朴な味だ。塩もかかってないかもしれない。


 鶏肉の方が好きだが安いに越したことはないから美味しくいただいてからスタッフに挨拶をしようかと思ったけど先払いだったから問題はないのかと思って店を出る。


 宿が結局見当たらないし、木造の家ばかりでいまいち区別ができない。

 今思えば寒い季節でもないし、野宿でもいいかと思って村の隅の方に行ってから横になる。


 栄養は補給した。仕事もした。あとはまた帰るために移動するべきなんだろうが、ここまで来るのに結構な道のりだったから適当に日持ちする食料と水筒が欲しいな。


 狩りはしたことないので途中で補給とかは難しいだろう。あ、職安に聞けば宿とかも場所が分かったかもしれない。

 明日になればギルドに行って雑貨店とか色々聞いてみよう。


***


 周囲の音に敏感なためそんなに熟睡はできなかったが人の歩く音がちらほら増えてきたところで仮眠もやめてギルドに向かう。


 太陽が出始めてから行動する人が多いみたいだ。夜勤してる人間は少ないのかな。


 ギルドに入れば昨日と同じ人がいたのでそこに向かうと笑顔で出迎えられる。


「アカネさん!パーティの打診がきましたよ!」


 祭りが開催されるのか。だからそんなに嬉しそうなんだな。


「それよりも雑貨屋とかないですか?」

「え?パーティはいいんですか?」

「私には縁がないので…」

「それが来たんですよ!試しに入ってみたらどうでしょうか?」


 試し…まぁみんな愉快そうな恰好してるし一定数そういうグループがいるのは分かるんだけど興味がないと言っても受付の人が困ってそうなので頷くと「あちらの席で待っててくださいね!」と言われて隅の席に座ってると水を出されたのでありがたく飲んでおく。


 パーティってなにをするんだろうか?私もコスプレしろと言われてもお金はそんなに持ってないしカラオケも歌ったことなんてない。

 陰鬱な気持ちになりながら待っていると、受付からこちらに来る男女二人組がやってくる。


 二人とも中学生くらいだろうか。


「俺たちと同じくらいの年齢で冒険者やってるって聞いたんだけどアカネってお前だよな?」

「私が確認してるって言ったのになんでそんな言い方してるの…アカネさん初めまして」


 なんというか若いな。私に一体何の用があるんだろうか。


「一緒に依頼受けようぜ、三人でやればフォレストウルフくらいならいけるかもしれねえしさ」

「まず自己紹介でしょ。私はエーデル、それでこっちのはガンダね。アカネさんは剣士なんだよね?」


 木の棒を振ってるからまだ剣士じゃないけど受付の人がそう紹介していたのかな。


「昨日凄い魔石集めてたから実力あるんだろうなって思ったんだよね!どうかな?アカネさんが良ければ解体とかはこっちでするから一緒に依頼受けない?」

「雑貨屋どこですか?」

「え?雑貨屋?そ、そうだよね!アカネさんの装備とか整えないといけないもんね」

「そういや剣どこに持ってんだ?」


 パーティとは依頼を一緒に受けて楽しむことを指していたのか。紛らわしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る