第3話 木刀と雑貨屋

 雑貨屋に案内してくれると言うので大人しく付いていくと、武器屋というべき場所を紹介される。

 中に入れば剣や防具などがあるが、刀は当然ない。


「なんで剣持ってないのに剣士なんだよ」

「木の棒で十分だったんだよ。昨日凄い稼いでたんだからねアカネさんは」


 二人でやり取りしてるところ申し訳ないが、自分の見合う武器がここにない。

 店主もあまり期待してなさそうな態度で欠伸して暇そうだ。


 一応武器を見てみるが直剣ばかりで指で叩いてみるが品質は悪いと言うわけではないが持ち手が真っすぐすぎる。


「あんま商品に触らないでくれるか?」


 店主が嫌そうに喋ってくるが、ここで作ってもらえるのなら作ってもらいたい。


「木刀か刀はありますか?」

「ぼく…なんだそりゃ?」


 あまり木の棒を削りたくはないが、錆びたナイフを取り出して木の棒を削り、形を少し整える。


「こんな形の片刃の剣です」

「無いな」

「もしくは丈夫なこの形の木の棒でもいいです」

「それ使えばいいじゃねえか…そんなもの作っても折れちまうだろうが」

「作れるんですか?」

「銀貨2枚で銅でなら作ってやるよ」

「あと糸か布ください」


 作ってくれるならそれでいいがいつ完成するのか、というか移動の為のお金だったんだけど刀の誘惑に負けてしまった。


 銀貨2枚を渡すと少し驚かれたが、三日後には出来るそうなのでしばらくはまだ木の棒…いや形で言えば一応木刀で我慢するしかない。壊れないようにしないと。


 買い物は済ませたので二人の元へ戻ると変な顔をしている。


「その…銀貨2枚も払って良かったの?」

「稼いでるにしては金遣い荒いなお前」


 別に石を集めるだけでいいならそんなに大した金額ではないと思うけど、耳が良くないとゴブリンというのは探すのに苦労するものなのかもしれない。


 特に私から話すことはないので二人に付いていきギルドでどの依頼を受けるかという話しになったが、任せることにして私はもう一杯水をもらって待っているとフォレストウルフというやつを受けてきたらしい。


「毛皮が目的だからその木の棒でも大丈夫だしな!」


 配慮してくれたみたいだけど狩りをしたことはないし、ウルフといえば狼なのであろうからどれほど素早いのかは分からないからあまり自信はない。


 東の森にあるらしく、森ばかりの辺鄙なところだなと思いつつ、東に行けばやはり二人出入口に立ってる人がいる。

 猛獣対策にしてもそんな四方を守るほど危険なところに村を作らなくてもいいだろうに。


 警察はどうしてるのだろう。この村には警察らしき人が一人も見当たらなかったけど警官もいつの間にか衣装替えしたのか。


 自分がどれほど眠っていたかにもよるも周りはそれを当然のようにしてるのだから話しを合わせて無難に過ごさないと。


「アカネと俺で前線を張ってエーデルが後ろでサポートだから最初はゴブリンで連携を試していこうぜ」


 石が出来たらこの人たちもゴブリンと差別されるのだろうけど、病原菌を治療方法がまだ解明されてない間は狂人になってるし殺すしかないのだろう。

 というよりも魔石を集めてるのは治療法を探しているからなのかもしれない。


 森を三人で歩いていると二足歩行の足音が聞こえたので、体重からゴブリンだろうと察してそっちに行く。


「おいアカネ?」

「アカネさんどこに行くの?」


 最初にゴブリンと言っていたから適当にゴブリンを数人殺した後に獣狩りか、猟銃とかを持ってないのに上手くいくかは分からないが、狼なら野犬なのか?なんか動物に対して害獣だとしても許可がないと駄目だった気がするけどギルドからの仕事なら害獣が大量発生でもしてるのかもしれない。


 そんなことを考えながらゴブリンを一人仕留める。たしか解体は任せろと言ってたから石は抉らなくていいか。


「おぉ!?アカネお前それ見つけたのか…誰がやったんだ」

「音とか特にしなかったけど、魔石取られて無さそうだね?」


 無駄に苦しめるのは可哀相と思い首を狙って吹き飛ばしたが、二人には聞こえてなかったのか。

 転がった頭を見てまだ死んだことに気づいてないのか瞬きをしているのが見えて、もう少し楽にやる方法を見つけた方がいいかもしれない。


「魔石取ったぞ、アカネ行くぞ?」


 これを三等分しても三十円…一人の方が良い気がするが、こういうパーティなんだろうから少しは世間慣れしておくべきかもとは思う。多分。


 また歩いているとゴブリンの足音が聞こえるからそちらに行って仕留めることを繰り返していく。

 私が昨日殺した数も含めたらかなりの数になるけど、ほとんどの人間はもしかしてゴブリンになってしまったんじゃないだろうか。理性らしいものを感じないからこうはなりたくないのでウイルスの類なら早く特効薬を飲まないといけない。


「アカネ…これお前がやってんのか?」


 よく聞けば四足歩行の足音もちらほら聞こえてくるので、もうゴブリンはいいだろうと思いフォレストウルフらしき存在のところに向かう。


「おいアカネ?」


 進んでいけば、緑色の森というのも相まって迷彩色として目だけに頼っていたら見落としていたかもしれない狼がいる。

 これもあまり苦しませることはしたくないし、父の教えも一撃で仕留めることを元にしている。その両方を両立させるなら脳天を一撃、足音を立てず速度を極限に速めて振りぬく。


 木刀でも案外斬れないことはないんだなと思いながら頭を二つに裂けたフォレストウルフの解体を二人に任せる。


「ここもか…アカネ一人でやってるのか?」

「あはは、アカネさんが一人でやってるならどうしてパーティ組んでくれたんだろうね」


 解体を眺めていると手際が良いのか、毛皮を丁寧に剥いでいってる。ただそれでも時間がそこそこかかっているが。

 その間血の匂いで嗅ぎつけたのかゴブリンが何人か近づいてくるのを聞いて、一人二人と仕留めておく。これも解体は任せようかと思ったけどまだ狼一匹を解体しきれてないから私の方で石を取り除く。


 たしかエーデルと名乗っていた女に石を渡しておく。


「え?これどうしたの?」

「そいつに話しかけても意味ないだろ。なに聞いても無視するんだから」

「そんなこと言わなくてもいいでしょ私達なんていてもいなくても良いのに付き合ってもらってるんだから」

「そうだけどよ…」


 二人は仲が良いのだろう。もしかしたら恋人なのかもしれない。中学生くらいとなれば恋愛話をしている連中が多かったし。


 のんびりしているとまたゴブリンが来るというのを繰り返して、ようやく解体が終わったときには合計六人を仕留めたころだ。


「アカネ帰るぞ?夜になると魔物が活発になるからな」


 まもの。お化けの類か。たしかに害獣がこれだけいれば子供にはそういう話しをして夜に出歩かないようにしないといけないだろう。

 魔と言えば父がいつか話してた妖刀の話しが好きだった。持てば精神が強くないと使いこなせないという物から、持ったものは妖刀の魅力に逆らえず人を斬らずにはいられなくなるとか。


 自分もいつかは一振りは欲しいと思ったが父は真剣を一振りしか持ってなくて、それも無銘の刀でしかなかったから免許皆伝したら貰えるのだと期待していたものだ。


 帰りの途中にも狼の足音が聞こえたが解体に時間がかかっていたから今は狙わなくてもいいだろう。

 それにしても想像してたより狼の動きは遅いんだな。もっと獣は早いと思っていたのに私の速度でも対応できていた。


 不思議なことばかりが続いてるが、誰か詳しそうな人はいないものか。


 村に戻ると、相変わらず出入口の人らが安堵の息を漏らす。

 子供が無事に帰ってくるか心配していたのか、私もそれに含まれているのか。


 ガンダという少年が毛皮と肉を重たそうに持っているので周りの視線が少し痛いが、本人がやる気になってるんだから無視してあげたらいいのに。


 ギルドに着いてから二人に受付を任せて、私も受付に「水」と言えばくれるのでありがたく頂いて飲んでおく。


「すごいですね。パーティを組んだらお二人もフォレストウルフを倒せるなら昇格してもいいと思いますよ」

「いや…」

「それ多分アカネさん一人でやって私達は解体だけやってたんだよね」

「アカネさん一人で?あー…パーティで戦力差があることはよくありますよ、ここはまだ小さい所ですからみんなで力を合わせていけば連携も上手くい供養になると思いますよ」

「いや、俺はアカネとは組みたくないかな…」

「ちょっとガンダ?」

「話しかけても無視するし連携たって俺たち雑用するために冒険者やってんじゃないぜ」

「そうだけど…」


 揉めてるみたいだ。まぁお世辞にも楽しいパーティではなかったから仕方ないだろう。私も何が楽しいのか分からないままやってることはただの殺生でしかない。

 そんなことをするくらいなら一人で三千円稼いだ方がいい。


「えっとアカネさん。どうされますか?」


 話しがまとまったのか受付が話しかけてくるので水のおかわりをもらって飲んでおく。今日は疲弊をあまりしてないが筋肉痛が体中に伝わって栄養も恐らく求めている。


「お水まだおかわりいりますか?」


 あとは飲食店でご飯を食べようと思うので首を横に振って断っておく。


「その、アカネさんは一人でも大丈夫ですか?」

「お金を、あと雑貨屋を教えてください」

「あ、はい。配当致しますね?」


 どういう基準でフォレストウルフがいくらだったのかは分からないが渡された金額が銀貨1枚と銅貨30枚。二人にも同じ金額が渡されてるから昨日よりも稼ぎが少ない。

 金額に文句を言ってるガンダだが、所詮犬畜生を一匹ならこの程度なのだろう。それよりは病気になった人を救済していった方が稼げるのも納得する。


 雑貨屋の場所を教えてもらい、ギルドを出てから看板に袋の絵を掛けてる建物が雑貨屋だと言われたので建物を見て探していく。

 目が見えることで見知らぬ土地だと助かるのだが、聴力が衰えないように細目を開けるだけにしているが父の教えだと完全に見えない方が良いはずだ。


 実力も無く、鍛えた聴力も、恐らくだが私が確実に一撃を当てれる間合いも本来よりは小さくなってるだろう。


 焦りと不安を抱えながら、雑貨屋が見つかり中に入ると色々なものが置いてある。


「嬢ちゃん、金は持ってるのか?」


 陰気臭い婆さんが店長なのか最初に金を持ってるか聞いてくるあたり不愛想極まりない。

 逆にこの服はどうですか?って聞かれてくるのも嫌だが。


「保存食と水筒…それとカバン、あと包帯と靴ありますか?」

「まずはその小汚い恰好をどうにかしようと思わないのかい?井戸で水浴びでもしといでよ」

「井戸?」

「そこらへんにあるよ…しょうがないねえ」


 わざわざカウンターから出て手を引かれて外に連れ出されると、建物の裏手に井戸が確かに置いてある。誰かの所有地なのではないのだろうか。


 婆さんが井戸水を汲もうとしてるが腰を痛めそうなので私が代わりに組み上げて風呂敷を置いてから全身に浴びる。

 それを数回繰り返して、婆さんを見ると呆れたように見てくるので風呂敷を持ってから婆さんと一緒に雑貨屋に戻ると布で体を拭いてもらう。


 その後は今着ている服よりはマシな服や下着を手渡される。


「昔の古着だけど今よりはマシだよ、着ておきな」

「ありがとうございます」


 今着ているものはどうしようか悩んだが風呂敷に詰めておいて、着替える。

 再びほしいものを言おうとしたが、婆さんが棚から陶器に入ってるジャーキーみたいな干し肉とか、歪んだ陶器にコルクみたいな蓋をしてある恐らく水筒を取り出していく。

 靴もあるのか、本当に雑貨屋はなんでもあるんだなと思いながら見ていると靴が革靴だ。滑りやすいから嫌なんだよな…。スニーカーは無いのか。


 カバンは肩にかけるカバンを用意してくれるが長さを調節する金具がついてないので若干不便だ。


「そうね、包帯はサービスしても銅貨90枚くらいかね」

「滑りにくい靴はないですか?」

「あんたに合う靴はそれくらいだよ」


 サイズが無いなら仕方ない、代金をちょうどカウンターに置いてから。靴は今後また考えるとしよう。それと包帯をサービスしてくれると言うのでカバンに入れる前に身に着けてる包帯代わりのシーツを風呂敷に詰めて包帯を新しく手足や体に巻いてから貰える包帯を頂く。


「手慣れてるね。今後は体を洗ってからうちに来なよ」


 井戸を勝手に使って良いならそうしよう。お風呂も入りたいがライターが無いしドラム缶もないから銭湯があればいいんだけど。


 風呂敷が濡れた服やらシーツでべちゃついているが、ジャガイモだけはカバンに避難させておいて、お辞儀をしてから店を出る。


 あとは昨日と同じ飲食店に行ってから同じものを頼もう。

 その前に服とかを井戸の近くに干してから、肉を昨日より多く頼むために飲食店に向かう。

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剣客異世界一閃 空海加奈 @soramikana

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