第6話 休診日
弥月心療内科の休診日、弥月天四郎は、小ぢんまりとした診療所と奥で繋がっている自宅の大屋敷で読書に
弥月天四郎は、読書家だが大変な遅読で、自分の寿命が200歳まであったとしても、自分の読みたい本を全て、読み切れることはないだろうと、思っている為、普段、テレビやネットは、めったに見ず、その分の浮いた時間を全て、読書に費やしている。
弥月天四郎は、本を閉じ、
「不法侵入だぞ」
といつの間にか、弥月がいる部屋に入って、扉を背にして立っていた神津継次に向け、言った。
「鍵を掛けてない奴が悪い」
と赤いロングコートの神津継次は、悪びれる様子が一切、ない。
「鍵を掛けてないからと言って、家主に無断で住居に入っていいどおりは、無い」
弥月は、いつものバカ丁寧な口調を神津継次には、使わなかった。
「ルールなんて、この世にあって無いようなものだろ」
神津継次は、そう言って、扉をコンコンと叩く。
「入るぜ」
「遅いよ」
弥月は、本をアンティークの木の机に置いた。が、赤茶けたソファからは、腰を上げず、だるそうに神津を見た。
神津は、誰に促されるわけでもなく、
「お前が俺に仕事を回してくるなんて、珍しいじゃねぇか」
と訊いた。
「仕事してねぇじゃねぇか。この霊感詐欺師め」
弥月は、神津の足元ではぁはぁ息を立て、伏せているゴールデンレトリバーを差して、言う。
「この野郎、余計なことしやがって、死んだら、テメェ、俺の奴隷にしてやるからな」
ポン太は、そのつぶらな瞳に似合わないドスの効いた男の声で弥月に言った。
弥月は、それでも平然として、目は、だるそうにしていた。
「いや、
そう言う神津に
「やっぱり、詐欺ってんじゃねぇか」
と弥月は、言い、
「まぁ、物的に距離を置いて、彼女の霊障が収まったなら、それでいいが」
と自らの溜飲を下げるようにごもごもと、また声のトーンを落とした。
その様子を見て、何やらニタニタ笑う神津。
「幽霊擁護派のお前が霊を除去するように、俺に頼むなんて、よっぽどじゃねぇか。さては、また、惚れたな」
「何をバカな事を」
と表情が二転三転するように動き回り、神津から顔を背ける弥月天四郎。
「そのカンジだと、まだ、知らないようだな」
と言って、神津は弥月に近づき、自らのスマホの画面を見せた。
そこには、黒髪ストレートのロングヘアをボブサイズのショートにした檸檬畑かぬれと、
❝檸檬畑かぬれ、自身レギュラー出演のバラエティ番組「秋葉原フルーツパーラーズ天国」プロデューサーと熱愛不倫❞
という記事が載っていた。
「お犬サマがいらなくなった理由は、これだよ。元オナペットの前でSEXする癖は、どうやら、彼女には、なかったようだな」
けっけっけっと神津は、嬉しそうに弥月を嘲笑った。
弥月天四郎は、誰に向けては、わからないが、
「呪われちまえ」
と人間らしい呪詛の言葉を吐いた。
EPISODE1 END
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