第3話 荒療治

「何故、髪を切らなかったんですか?」

3回目の診察で弥月天四郎は、開口一番にそう言った。


「だって、CMのスポンサーとの契約があるから、今年いっぱいは、どうしても、髪を短くするのは、無理だから」

当然、私の霊障は、未だ収まっていない。


「あなたって人は……」

弥月天四郎は、スキンヘッドを片手でぺたぺた叩くように触り、弱ったような呆れたような声を出した。

「では、やり方を思いきって変えましょう。外法ですが、霊障は、このままのやり方では、治る見込みがないので、仕方ありません。最終手段を使います」


「何よ。髪を切る以外に方法があるなら、最初から言いなさいよ」

髪を切る以外に手段がないのか、と思っていた私は、自然、明るい口調になる。


「テレビ番組のガイド雑誌を使います。今夜から寝る前にお尻の下にテレビ番組のガイド雑誌を敷いてください」


「それにいったい、どんな意味があるの?」

私は、また弥月医師が冗談とも取れる変なことを言い出したので、眉を寄せる。


「テレビ番組のガイド雑誌の表紙は、タレントさんの顔写真がでかでかと載っています。風水的にも陰陽道的にも人の顔写真を部屋に置くのは、頭蓋骨を置くのと一緒。人の顔写真は、よく霊道が開くきっかけになるので、怪現象の起こる部屋には、大概アイドルのポスターが貼ってあります」


「ちょっと待って。そのレイドウって何?」


「霊道。文字通り、霊の通り道です。あの世とこの世を繋ぐゲートのようなものです」


「ちょっと待って。あの世とこの世って、そんなに簡単に繋がっちゃうものなの?顔写真のポスターなんて街中に広告とかであるじゃん」


「はい、だから、この世には、霊がわんさかいるのです」


私は、しばし、困惑したが、

「で、なんで、私は、その霊道をお尻に敷いて寝なきゃいけないわけ?」

と訊いた。


「お尻の下にテレビ番組のガイド雑誌を敷いて、霊道を作っておけば、霊は、あなたによからぬことをしようとして、近づいても、霊道に吸い込まれて、悪さができなくなります」


理屈は、よくわからないが、幽霊が私をレイプしようとしても、できなくなるらしい事は、私にもわかった。


「加えて、寝る前に私の教えるマントラを唱えてください。そうする事によって、回数を重ねるごとにテレビ番組のガイド雑誌ではなく、あなた自身が霊道、霊の通り道の出入り口になるので、霊達は、あなたに触れようとしても、霊道の出入り口を通過するだけになり、一切、触れられません」


「だから!そんな良い方法があるなら、なんで最初から教えないのよ!」

私は、怒鳴りながらも、声に喜びと嬉しさが溢れ返っていた。これで地獄のような悪夢見続ける日々から、ようやく解放される。


弥月天四郎は、そんな私を浮かない顔で見つめる。

「いえ、これは、確かに霊によるレイプ被害からあなたを守る方法にはなりますが、あなた自身が霊道になるという事は、以前にも増して、あなた自身が霊を引き寄せやすい体質になるという事で、他の霊障に合う可能性があります」


「でも、それで霊達は、私に一切、触れられなくなるんでしょ?」


「ええ、理論上は」


「なら、問題ないじゃない」

私は、結論をものすごくシンプルにまとめた。

さっそく、自宅に帰って、弥月医師の言う通りにマントラを唱えて、お尻の下にテレビ番組のガイド雑誌を敷き、ベッドで寝てみる。

久し振りとぐっすりと眠れ、それから一ヶ月間の夜は、快適な安眠を味わった。

私は、霊障に合っていた事など夢か嘘だったかのように忘れ、また霊を小バカにするようになっていた。

が、一ヶ月を過ぎたあたりで、また、私は、弥月医師を訪ねることになる。

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