その29 私だけの王子さま

「あーあ。まさか、恋愛事情で佳奈に先を越されるなんて、予想もしてなかったよ。しかも、相手が、この学校の王子だなんて……このこのーっ、幸せ者め!」

「坂本くん、無駄話をしている暇があったら、きびきびと動いてくれないか? ほら、みんなも早く僕らの住処を掃除してほしいと嘆いているぞ!」

「メガネって、マジぶれないよねー。あの王子先輩に彼女ができたってだけでも星燐高校の特大ニュースなのに、その相手が、なんと我らが佳奈なんだよ? 驚けとは言わないけど、せめてリアクションはしろっつーの」

「別に、驚くほどのことでもないだろ。羽鳥くんを見初めたあの先輩に、思いのほか見る目があったというだけだ」


 えっ?

 メガネくんの聞き捨てならない発言に、ぎょっとしてしまったら。


「メガネくん。いま、さりげなく僕の彼女を口説こうとしていなかった?」


 どこからともなく現れた王子先輩が、口元をひくつかせながら、メガネくんをジト目で見つめていて。


「ち、ちがう! 別に、そういうつもりではなくてだな! 羽鳥くんは良い子だし、いつも先輩を取り囲んでいた有象無象よりも、よっぽど魅力があると言いたかっただけで」

「メガネ、墓穴ほってるよ。その辺でやめときなって、王子先輩とアンタとじゃゾウと蟻なみに戦力差があるんだからさ……」

「ぐぬぬぬ」

「あの、どこからつっこめばいい?」

「うん? 羽鳥さんは、僕だけを見ていれば良いよ」


 ……ほお。

 あきれたような顔をしながらも、この賑やかさが心地良いと思っている時点で、私もだいぶ先輩にほだされているような気がする。


「おー。珍しい、今日は全員勢ぞろいなのか?」

「真ちゃん!!」

「うおわっ!? バカ坂本、ひっつくな! 今すぐ離れろ!!」

「だってさー、大事な親友が急に恋を実らせちゃったものだから、あたしだけ独り身でさびしいんだもーん」

「「ちょっ!?」」


 原先生が、るりを引きはがそうとするのをやめて、私と王子先輩を交互に見やる。


「へえ、ふうーん。そう。恋を、実らせたのかぁ」


 っっ~~。

 悪い笑顔!


「その話は、俺も興味があるなぁ。じっくりと聞きたいものだ」


 慌てて話題を変えようとしたら、なぜか、隣にいた王子先輩の方が私以上に焦ったような顔をしていた。


「……あー、えと。その節は、お見苦しいところを」

「あー、良い良い。気にすんなって。失恋した~~ってびーびー泣いてる王子を慰めんのも悪くなかったぞ」

「っ。言ってくれますねぇ、先生。それなら、僕からも言わせてもらいますけど、先生の言っていたみっともない恋愛がどうこうって、もしかして坂本さんのことなんじゃ――」

「っっ。黙れ、このクソガキが!」

「ああっ! 教師がそんな暴言を吐いて、良いんですか~!?」


 ……ええと。詳しい事情がわからないけれど、それは後から、じっくりと聞くことにしよう。


「原先生。色々とありがとうございました」


 いちおう私もお世話になったのでぺこりと頭を下げたら、先生はニタリと笑った。


「良いってことよ。青春しろよな!」


 生物室の中に、王子先輩がいる。

 みんなの王子さまだった彼が、当たり前のように、私のそばにいてくれる。


「ん? どうかしたの、羽鳥さん。僕の顔、なにかついていた?」


 私には、人間らしい心がないとふさぎこんでいた時期もあったけれど。

 先輩は、そんな私の心を見つけてくれた。

 恋を、教えてくれた。

 身体の真ん中から、好きだという気持ちがあふれてくる。


「違います。ただ、先輩のことが好きだなぁ、と思っていただけです」

「えっ!?」


 あっという間に顔中を真っ赤にした彼のことが、愛おしくて仕方がない。

 そんな私たちを、微笑ましい瞳で見守ってくれている、みんなのことも。


「佳奈ったら、自覚した途端に積極的なんだから」


 だって、伝えたくなったんだもん。

 恋とは、一生縁がないのだろうと思っていた。

 だけど今は、そんな風に思っていたことを懐かしく感じるぐらいに、心が忙しない。


 ねえ、王子先輩。

 まだ、始まったばかりの恋で、これから喧嘩だってするのかもしれない。

 でもね、これが最初で最後の恋だったら良いって、私、本気で思うんだ。

 先輩が、王子さまみたいにかっこいいからじゃないよ。

 やさしくて、聞き上手で、実はちょっと情けない。

 先輩が、先輩だったから、私はあなたに恋をしたんです。

 これからは、私だけの王子さまでいてくれますよね? 先輩。【本編完結】


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佳奈と王子先輩の行く末を、最後まで見届けていただき、本当にありがとうございました! 当初、恋がわからなかった佳奈ですが、無事にハッピーエンドへたどりつきました。

本作を見つけてお読みくださり、ありがとうございます。

毎日とっても励みになっておりました(*´▽`*)

本作はカクヨムコン10の読者選考中です。面白いと思っていただけたら、下の画面から、レビューの★を押してくださると幸いです_(._.)_


この先は、二人の後日談と、番外編を更新していきます! 

後日談では、佳奈に甘々な先輩を書きました(≧▽≦)笑

よろしければ、お付きあいしていただけたらうれしいです\( 'ω')/ 久里

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