第5話 恋って何なん?

 わたしは悩んでいた。


 昼下がりの教室。ぼっちで弁当を食べ終えたわたしは、楽しげな喧騒の中どんよりと頭を抱えていた。


 理由はもちろん昨夜の作業通話。

 

(あのあとめちゃくちゃ団子さんに謝られたけど、そこはもう別に本当のことだから仕方ないし、普段はめっちゃいい人だから気にしてないんだけど……)


 むしろ本音を言ってくれて助かったまである。あのまま何も知らずに作品を上げ続けていたら、四桁のフォロワーに『あ、またお遊戯会みたいな漫画あげてる笑』と思われ続けていたかもしれない。


 問題はそこじゃない。


(恋愛って、どうやってするんだ……?)


 そもそも相手がいないと成り立たないはずのものだし、友達すらいないわたしには実現不可能な事象なのではないのだろうか。


(いっそ諦めて今まで通りの作品の傾向をわたしの個性ですって言い張る……? でもそれだといつかみんな飽きちゃうかも)


 漫画を頑張りたい。趣味は趣味だけど、少しでも良いものにしたい。ナギウサ推しカプをもっと幸せにしたい。

 だとしたらわたしがすべきことは、誰かと恋愛をすることなんだろうけど……。


「ぎゃーっ! ねえ、昨日のNステのDライ、フルでアップされてるよ!」

「まって録画忘れててしんでたの、最高すぎ」

「理央のビジュやばくなかった? 過去イチかも、普通に恋」


 近くで騒ぎ立てる女子達の会話の中から『恋』という単語が聞こえて、無意識に聞き耳を立ててしまう。


「理央なんかに恋しても無駄だよ諦めな」

「わかってるからマジレスすんな! 天才アイドル柏木理央とは誰も付き合えませーん」

「理央本当天才なんだけどあたしと理央の馴れ初め聞いて? 番協行ったとき結構後ろだったのにあたしのうちわ見つけてうさ耳してくれたの、神では?」

「その話50回は聞いたよ。さすがファンサマシーン理央様」


 聞き耳を立ててからすぐに後悔した。ただのアイドルの話のようだ。恋愛にまつわることは何も収穫が得られなかったので、わたしは再び力が抜けて項垂れた。


 ブー、とスマートフォンが振動したので、渋々身体を起こす。見れば、SNS内でのDMの受信通知だった。


(あ、蜜柑氏だ)


 蜜柑さんは毎回わたしの作品に必ずいいねをつけてくれる他、定期的にDMを送ってくれる。

 内容は大体ボイスチャットでわたしが話していたことに関連するものだったりとか、SNSで発信したことに対するリアクションだったりとか様々だ。


『昨日の話聞いてましたけど、映画とか参考にするのはどうです?』

『今ちょうど悩んでたんです。なるほど!映画いいかもしれないです』


 確かに映画ならヒロインに感情移入しやすいし、恋愛の擬似体験ができるかもしれない。その手があったか、と少しだけ気力が回復する。


『おすすめの映画送りますね』


 その文章のあと、立て続けに3つの映画のURLが送られてきた。


『ありがとうございます、神』


 早速確認すると、どれもこれも今流行りの少女漫画が原作の物語ばかりだった。


(蜜柑さんは乙女な方なんだなあ)


 しかもその主演男性は全て同じ俳優で、綺麗な顔立ちをしている。どうやら蜜柑さんはこの俳優さんのファンのようだ。


(えっと、これとこれはサブスクでしか配信されてなくて、……あ! これは今公開中だ)


 調べたところ、どうやら近くの映画館で公開されているらしい。サブスクは登録していないし、観るなら実際に行くしかない。

 どうせ暇だし早速今夜観に行ってみよう。


『最後に送ってくれた作品、今公開されてるらしいので今日学校終わったら行ってきます!』


 蜜柑さんに報告すると、すぐに返事が来た。


『N区の映画館おすすめ。人少ないから穴場』

『えーまじですか! 最高! そこにします』


 人酔いした話をしたからだろうか、そんな有益な情報まで教えてくれる蜜柑さんはどこまでも親切で、優しい人だと思った。


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