第4話 できれば知りたくなかった

『いや〜コラボカフェ最高でしたね。まだ余韻続いてて、今日の講義珍しく1秒も寝ませんでした』

「ナギウサに囲まれた世界、尊すぎましたね……次は蟹さんも是非」

『くっ……! 地方民にも人権を……!』


 無事に団子さんとのコラボカフェデートを遂行することができたあの日から、早3日。今夜もわたしは漫画を描きながら作業通話に没頭していた。


『てかリジュさん体調大丈夫? 動けませんってきたときビビりましたよ』

「あーやばかったです。都会の電車怖すぎて。もう二度と乗りたくないです」

『残念ながら都会では電車がないと生きていけないんだなぁ』

「歩かせてください、自分いけます」

『いや無理でしょ』


 人酔いをして体調を崩した事件も時が経てば笑い話へと変わる。コラボカフェの時間にはギリギリ間に合ったし、結果オーライだ。


「そういえばあのとき、自販機にお金入れてもドリンク出てこない事件が起きて」

『えーっ、災難続きすぎる』

「知らない人が飲み物くれたんです。顔色悪いからって、お金渡そうとしたらいらないって言われて」


 一見柄の悪そうな男の人だが、蓋を開けてみればただの親切な人だった。人は見た目で判断してはいけないと改心したものだ。


『え、男の人ですか?』

「そうです、なんか若めの、キャップ被ってて顔は見えなかったんで曖昧ですけど』

『やば、どこの少女漫画の始まりっすか』

『連絡先とか交換したんですか?』

「するわけないじゃないですか、助けてもらっただけですよ」


 最後に放った一言が引っかかるが、あの場で会ったきりでもう二度と会うことはないであろうお兄さん。それなのに強烈に頭に残っているのはどうしてなんだろう。


『恋じゃないですか〜恋』

「恋?」

『てかずっと気になってたんですけど、リジュさんって恋したことあります?』


 突然の団子さんからの言葉に、わたしは言葉を詰まらせる。


「いや、わたしは……」

『……ですよね』

「『ですよね?』」


 もしかして何か今失礼なことを言われたのだろうか。続く団子さんからの言葉をじっと待つ。


『いやー、ずっと思ってたんですけど、リジュさんの描くお話しってハピエン厨からしたらさいっっこうなんですけど、なんか、ワンパターンっていうか』

「え?」

『恋愛のテンプレにあてはめてるみたいな、展開がいつも一緒っていうか……あっごめんなさい失礼ですよね』

「いや、……そうなんだーって……」


 そんなことを思われていたなんて、というショックと、自分の漫画に対するダメ出しに、わたしは絶句してしまった。

 趣味程度、気分転換みたいなノリで描き始めた漫画だが、いつしかSNSのフォロワーも四桁まで増えて、設備も整えて、自分なりに頑張ってきたつもりだった。

 それなりにプライドもあるからこそ、悔しさが一番に来る。


 慌てる団子さんと宥める蟹さんの声をどこか遠くで聞いていたわたしは、あることを思い出してハッと我に返った。


「……実は、先日同じようなことを匿名で言われまして」


 SNS上で相手に匿名でメッセージを送れる送信箱。そこに届いていたメッセージが、どうせアンチからだろうと特に気にしていなかったのだが、団子さんの言葉を聞いて急に気になってきてしまった。


「恋愛が安っぽいって。中学生かって書いてありました」

『……』

『……』


 まるでお通夜の空気。楽しい水曜日の夜が台無しである。


「……わたしはどうすればいいのでしょうか」


 藁にもすがる思いで問い掛けると、団子さんの明るい声が耳に飛び込んできた。


『……恋愛。恋愛しましょう! 恋愛したら絶対表現の幅広がります!』

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