第3話 覚
少し早めに教室を出たためか、講堂にはまだ数人しかいなかった。教室に居心地の悪さを覚えたであろう人達が各々時間を潰している姿がまばらに
私立である我が校は比較的、校則が緩く、髪色自由、制服の気崩しも常識の範囲内であればうるさく言われることは無い
とは言え派手髪にするのは浮いた人間くらいだろう
「よお」
その浮いた人間がもたれかかった壁から動くこともせず右手だけ上げてこちらを見ている
「.....また髪色変わってんの」
「ピンク。似合うっしょ」
去年、同じクラスで一匹狼を気取っていた癖に何故か真希にだけ絡んできていた男。三浦颯である
入学式には真っ赤な頭で登場、1ヶ月から2ヶ月ごとに髪色を変えては常に生徒から話題をさらっていく困った男
そして何が悲しいか、弟の柚希と仲が良いのだ
中学時代、同じ部活の先輩後輩の関係だったらしく、弟の柚希を「弟子だー!」と言って気に入っているらしい。去年の中頃、たまたま柚希と帰り時間が被り話してるところを見られた延長で絡まれ続けた
「色落ちし始めて錆びた色にしか見えんわぁ」
華の高校1年生の時間をこの輩に絡まれたことでクラスメイトから若干距離を置かれた恨みを晴らすように毒を吐く
颯はそれが可笑しい様で、話しかけてくるのだ。特殊性癖なのだろうか。そういうのは地で行く紗英に頼んで欲しいものだ
「はぁ?昨日の夜やったばっかだわ」
口調は喧嘩腰だが、その顔は何だか楽しげだ。こうだから邪険にしきれないというのもある
実際困った男ではあるが、悪い人でないことは真希もわかっていた
雑談をしていれば、続々と生徒が増え始めていることに気づく
「真希」
紗英もその事に気づいたようで名前を呼ばれる。わかっていると意思表示で頷いた
「またね」
颯にその一言だけ残してクラスの席に行く。そこには当然、先程の茉依香もいる
紗英に振られたらしい茉依香は既に別の女生徒に狙いをつけたようで、大人しそうな眼鏡をかけた子の隣を最前で陣取っていた
「あ、紗英ちゃんと真希ちゃん!こっち座りなよー!」
諦めてなかったのか。
目ざとく真希と紗英を見つけたらしく、列の1番後ろに向かっていた2人に声をかけた
流石に無視を続けるのは、と良心が痛んだのか、無視した方が厄介な事になると察したのか、紗英はひとつため息を吐いて目配せをしてきた
真希は苦笑いで頷いた。あの嫌そうな顔は後者なのだろう....と
紗英自身は決して社交的とは言わずとも問題を進んで起こす人間でもない。偏見は良くないとは分かっているか、茉依香のようなタイプは男子生徒を味方に付けて悲劇のヒロインになるんだろう。見事に真逆だ
そうして始まった入学式は新入生の入場から始まり、退屈な理事長の挨拶と来賓の方々からのお祝いの言葉と続き、新入生代表の挨拶
と順調に滞りなく進行され、次は赴任してきた教師陣の紹介に移った
少しばかり春の陽気に当てられて小さく欠伸をして壇上に目を向ければ、新任であろう男性教師と目が合う
恐らく欠伸をしている所をしっかり見られただろう。居た堪れない
目を逸らすように現在進行形で挨拶をする中年の女性教師に目を向ける
大して興味は無いが、先程のことで視線の置き場に困り、ただその女性教師の顔にある目立つホクロを見つめた。因みに話は何一つ入ってきていない
3人ほど挨拶をしたあとに、先程目が合った教師がマイクの前に立った
「初めまして。今年からこの学校で教壇に立たせて頂くことになりました、湯浅陽太です」
爽やかだ....すごく爽やか。青春を謳歌してるはずの自分より爽やかなのでは無いだろうか
真希はなんとも言えない気持ちになりながら陽太を見つめた
「担当教科は体育です。全てのクラスを受け持つ訳ではありませんが、担当になったクラスのみなさん以外も、気軽に話しかけて下さい。よろしくお願いします」
挨拶の最後に目が合い微笑まれる。絶対さっきの欠伸を見られていたんだ。だからどうという訳では無いが最初の印象はそれなりに悪くなってしまった気がする
内申に影響しないことをただただ祈った。尚且つ是非とも記憶から消えててくれとも。贅沢を言えばあの教師の担当クラスでありませんように
信仰心なんて微塵もないが、そう願うしかない真希だった
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