第2話 利
無事に遅刻せずに学校に着いた真希と紗英は早々にクラス分けの名簿を探す
「あーーー....あった!!」
教室の扉にクラスごとに貼られている名簿を順番に見て行き、3組の名簿に自身の名前を見つけ、紗英に声をかける
名簿をじっくりと見ていた真希の肩口から顔だけ覗かせていた紗英が顔を退けた
真希は再び名簿に視線を戻し、紗英の名前を見つける
「同じクラスじゃん。やったね!」
「どっちでも良いよ」
これぞ塩対応。去年は隣のクラスで各々が同じクラスの友人との時間を取っていた
徒歩圏内に互いの家があるためいつでも会えるというのもあって、その点においてはどちらが何を言うでもなく自然とそうなっていたのだ
実際、休みの日は互いの家を行き来して遊んでいた
とは言え同じクラスになればそれは嬉しいものなのだが、紗英は至って淡白だ
「少しは喜べよー」
「重い」
紗英の腰に巻き付けるように腕を回して体重を掛ければ冷静に抗議の声が掛かる
これもいつものやり取りで、抗議しつつも無理に振りほどかれることは無い
その体制のまま、引きづられるように教室に入る
既に教室内ではグループを作ろうとよそよそしくも固まっている生徒達
「紗英ちゃーん!」
高音だが決して不快に感じることの無い可愛らしい声が紗英を呼ぶ
紗英は返事することなく適当な空いている席に鞄を置いた
それに続いて紗英の隣の席が空いていたのでそこに鞄を置いて座る
「今年も同じクラスだね!よろしくー」
真希に目も配らず、その小柄な女生徒は話を続ける。当の話しかけられてる本人は相も変わらず冷ややかな空気で鞄の中身を出している
そんな姿を一瞥して黒板に目をやると、大きな字で"8時45分講堂"と書かれている
「ねぇ!紗英ちゃんのお友達?」
黒板を突然、顔が遮る。まさか話しかけられると思っていなかった真希は返事も出来ずに相手の顔を凝視してしまう
近いのにも関わらず、顔が小さいと思うほど幼げな顔立ち。下手なアイドルよりも可愛いのではないだろうか
少し色素の薄いブラウンの瞳が今にも転がり落ちそうだ。少しくせ毛混じりの空気を含んだ柔らかそうな髪が視界の端で揺れる。口元は小さくも艶やかな唇が忙しなく動いている
「ねぇってば!」
語気の強い呼び掛けに現実に戻される
「あ、あぁごめんね。紗英とは幼なじみだよ」
「ふーん。私は宇佐美茉依香!紗英ちゃんとは去年同じクラスだったんだー!よろしくね」
慌てて答えた真希の言葉に一瞬目を細めて、無邪気な笑顔で自己紹介をされる
不服そうに見えたのは気の所為だと思っておこう
「如月真希です。よろしくね、茉依ちゃん」
「うん!ねぇねぇ紗英ちゃん!講堂まで一緒に行こう?」
そう答えている真希の言葉を最後まで聞くことなく食い気味且つ簡素に返事をして再び紗英に声をかける茉依香
気持ちはわからなくもないが露骨な態度に思わず苦笑いが零れる。去年、紗英とどれほど親しかったかは知らないが、茉依香からすれば真希の方が邪魔しているように見えるのだろう
「真希、行こ」
「え?うん」
紗英が茉依香を置いて声を掛けてきたことに驚いて気の抜けた返事をしながら慌てて立ち上がる
朝と同様、声を掛けておきながらそそくさと1人で教室を出る紗英
茉依香が気になるが置いて行かれると思い、振り返ることなくあとを追いかける
「良かったの?さっきの子」
「何が?」
紗英の切り捨てるような一言で察した真希は口を噤んだ
なるほど、彼女は紗英と特段親しかった訳では無いらしい。凡そクラスに知り合いがいないか、少なかったのだろう
女子特有の群れを作ろうとする一種の自己防衛に紗英は利用されそうだったわけだ。しかしこの場合、茉依香のヘイトは自分に向くんだろうな。と、新学年早々げんなりする
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