あまいわんこの甘やかし
@Aizawa31kano
第1話 桜
早咲きの桜も散りかけた4月。如月真希は通い慣れたはずの道を初めて見るかのように辺りを見渡していた。
「やっぱりお花見行けば良かったなぁ」
先月、ニュースで今年の桜は早咲きで、散るのも早いだろうと言っていた
真希の母親が毎年恒例の花見の予定を前倒しで行うと決めた時、弟と喧嘩をして冷戦状態だった真希は「行かない!」と布団を頭ごと被って一日を無為に過ごしたのだ
しかし悲しくも桜は想定よりも早く散り始め、既に緑と少しばかりの桃色
1人で寂しく見上げる真希
「遅刻するよ」
そんな侘しい後ろ姿が不憫だと言う言葉が聞こえてきそうな声音で当たり障りのない言葉を投げかけてきたのは幼なじみの紗英だ
お花見には紗英の家族も毎年一緒に行っていた
当然、当日も紗英から連絡が来ていたが、理由を送れば笑われると思い「気分じゃない」だけを送信してから顔を合わせるのは初だ
「どうせお花見のこと後悔してたんでしょ。聞いたよ、柚希と喧嘩してたんだって?」
柚希とは2つ下の弟の事だ
そして幼なじみの紗英には全てお見通しらしい
「柚希が悪いんだもん」
「知ってるよ。柚希が真希の楽しみにしてた期間限定のケーキ食べちゃったんでしょ」
一重の切れ長な目をさらに細めて揶揄うように笑う。真希より少し背の高い紗英はそれだけで迫力がある
幼なじみの真希は慣れたものだが、感情をあまり表に出さない紗英には未だに読めない所がある
それなのに真希の事は全てわかっていると言いだけな笑顔に少し腹立たしい
「バイトがあったから買いに行けなかったのに、最終日にやっと買えたんだよ!なのにお母さんはまた買えば良いとか言うし。もう売ってないのにさ!」
「はいはい。早く行くよ」
真希を置いて紗英はさっさと歩いて行く。なんて薄情な幼なじみだ。愚痴のひとつくらい聞いてくれても良いだろうに
しかし時間が残り僅かなのも事実
主役でもない入学式に遅れて入り、注目の的だなんてごめんだ
真希は青々とした空を1度見上げた後、紗英の背中を追いかけた
あまいわんこの甘やかし @Aizawa31kano
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