第7話

 通り魔を起こして服役した犯人の再犯動機が徹底した逆恨みに至った、などと言う最低災厄な結末の繰り返し。


 それに伴って私の中にはどす黒い殺意が湧いて溢れていた。

 私の家族を身勝手に傷つけて許せない。

 私の手で殺してやりたい。

 命を対価に罪を償わせたい。

 逮捕され死刑となるのなら死刑執行のボタンを押してやる。

 生きていることすら烏滸がましいクソみたいな犯人の名前など、記すことも、口にすることも、ましてや耳にすることもしたくない。


 ある時、犯人の弁護を担当した年老いた弁護士がいきなり現れて、口先だけのような薄っぺらい、お詫びの手紙を犯人の高齢になった両親が書いたので受け取って欲しいと厚顔無恥なことを言ってきた。

 怒りに任せて目の前でビリビリと破って地面へと捨ててから、弁護士にお前が罪を増やしたのだと言ってやった。


 あいつは弁護が終わればそれで終わりなのだ。


 後始末の責任さえ、社会的責任さえ負うことは無い。


 薄笑いを浮かべ頭を下げた弁護士は悠然と去って行き、私は足元に散らばる手紙を悔しくて、ひたすらに踏みつけては潰し続けた。


 加害者ばかりが守られて、被害者は死んでしまったのだから文句を言うな、とでも言いたげな司法制度は平等じゃない。


 理不尽だ。


 死者への冒涜とさえ思える。


 殺したのなら死んで償え。


 あたりまえの事じゃないか。


 命を奪っておいて、のうのうと生きていることに罪深さを感じないなんて、その時点で反省していない証拠だとさえ思える。


 日のとっぷりと落ちた街路灯と家々の明かりの灯った道を歩き、時より聞こえてくる近所の家族たちの笑い声に耳を塞ぐ。

 そしてすべての彩りも明かりも失った真っ暗な自宅の玄関の鍵を開けた。

 帰りに寄ったスーパーで半額札が付けられた冷えたお弁当をしんと静まり返ったリビングで孤独に食べ終える。


 昔は三人で食べていた。

 父がビールを飲みながら笑い。

 母が隣で笑ってくれていた。

 楽しい団欒があったと言うのに。


 葬儀で触れた父の頬のような冷たい我が家で、孤独に苛まれ怯えて暮らして過ごしている。


 惨めだ。


 こちらの友人とは距離を置いている。

 もし、友人達にまで刃が向けられたと考えるだけで恐ろしくてたまらなかったからだ。

 東京のアパートでも一人の時も、そちらでできた話せる友人が気を使って泊まりにきても、警戒心が張り詰めていて心が休まらないでいる。

 痩せこけた猫が警戒心を解かないように、心身が瘦せほそった私は周りを警戒し怯えたままで過ごしていくしかない。


 温かいはずなのに冷えたような温水で体を清め、温まらない湯船に浸かり、自室で布団に包まるようして悔し涙を溢す。

 声を上げまいと唇を噛み締める。

 毎日のルーティーンのような行為を終える頃には意識が薄れてゆく。

 そして楽しかった頃の夢に落ち、私は家族と幸せな団らんを過ごしては、翌朝の孤独に打ち震えていた。

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