第7話

 そこに立つのは防具もつけない、薄汚れた猟師だった。鋭い眼差しは、飢えた獣みたい。

 ただならない殺気に当てられて、王子は腰を抜かしてしまっている。やれやれ……この国は本当に大丈夫かしらね。


「勝負にもならないわね。では、私は帰らせていただきますね」


 彼のもとへ近づいていく私を、誰も止めようとはしなかった。うん、正解だよ。だって彼、かつては一騎当千と言われた隣国一の騎士だったんだから。


 私が彼の方へと足を向けると、彼の警戒も解けて柔らかな表情をみせてくれた。その眼差しに応えて私も笑顔で彼に近づく。


「……よかった。来てくれて」

「当たり前だろう。さ、帰ろう」


 エスコートするかのように手を差し伸べてきた彼。


「……だったら……連れ去られる前になんとかしなさいよねっ!」


 彼が暴れ回り気絶者多数で静まりかえっている廊下に、激しく平手打ちの音が響きわたった。

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