第4話

「黙るって事は、いたのか」

「捧げたい相手は、ね」

「だがそいつは、お前が死ぬかもしれないのに、何もしなかったんだろう?」

「それは……」


 倒れていた間、彼がどうしていたかは知らない。

 目覚めた時、彼はいなかった。

 たまたまいなかったのか、それとも目覚めない私を置いていったのか……


「行動することも出来ない男がいいのか? とても幸せになれるとは思えないけどな」

「勝手に唇奪って城まで連れてきて、一方的に結婚を押し付ける人よりマシよ」

「命の恩人への対価だと思え」

「思えないわよ。大体あなただってこんな口うるさい女より、従順な令嬢の方がいいんじゃないの? 私は森にいたから、とてもじゃないけど礼儀作法とかは知らないわよ」


 そんなもの森で生きていくのには必要なかったもの。森で生きていくことになった時点で捨てたわ。必要だったのは薬草の知識だったし、料理の支度だったし、洗濯の仕方よ。


「言っただろう? 一目惚れだったと。それにお前を連れて帰ったことは国中にもう知らされている。婚約することもな」

「よく許されたわね。いきなり女を連れて帰って結婚するなんて」

「まぁ、今まで結婚話を全部断ってきたからな。男色も疑われたりした王子が女を連れて帰ってきたんだ。みんなホッとしたんだろう」

「えぇー……なんか私、利用されてない?」

「さぁな」


 ニヤリと笑う王子を見て、本心が少し透けて見えた気がした。

 こいつ、本当は私の事好きじゃないんだわ。ただ決められた結婚はしたくなくて、何のしがらみもない私がちょうどよかったんじゃないの?

 まぁ、本当にしがらみがないかどうかは知らないけどね。仮にも隣国の元王女ですから。絶対教えないけど。言ったら同盟だとかめんどくさい事になるに決まってるもの。

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